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姉さんとの買い物


退院した翌日の金曜日。


僕は今、姉さんの運転する車に乗って家から少し離れた大型書店に向かっている。母さんは出勤した。富裕層をターゲットにした輸入雑貨店を営んでいるらしい。若いころは苦労したそうだけど今ではお店も軌道に乗ってそこそこの収入が得られるようになったみたい。この車は姉さんの普段使いのものでおしゃれな2シーターだ。


姉さんは都内の大学2年生で法学部に在籍している。でも僕の目が覚めて以来、ずっと家にいる気がする。学校行かなくて大丈夫なの?


「2年間で取るべき単位は殆どそろえたから平気だよ。必修科目に関しては雪緒が倒れて直ぐ、暫く休んで弟の看病をすることを先生に報告し許可ももらっているしね」


優しい先生でよかったね。


「ふふ、雪緒は素直だね。男の子の看病なんてむしろ家族の義務だからね。すぐ帰れとみんな言うさ。それに先生は雪緒の写真を見て以来、熱烈な君のファンだったしね。君がそんな風に言っていたなどと知ったら、それだけで私の単位まで確定しそうだよ」


なるほど。数が少なくて希少な存在なんだから社会全体で大切にしていこうって事? 皆にその優しさがあるなら、あんなにジロジロ僕を見ないようにして欲しいんだけどね。姉さん、単位のためなら僕のこと使ってくれていいからね。


「欲しい本というのは、”気象予報士” に関係する物だろ? テレビに釘付けだったからね。母さんも気付いてるよ」


そっか。


「どうして直ぐに話さなかったんだい? あの試験に興味があるんだろう?」


母さんはとても優しいんだけど、ちょっと心配症だよね。高校だってやめちゃえなんて言うしさ。


「あはは、まあ母さんは雪緒には甘いからね。でも母さんも私も雪緒のことが心配だったんだよ。高校に行きたくなくなる気持ちはわかるけどね。でも、高校に行かなくなった雪緒は暇があれば空を眺めているだけだったから。このままでは雪緒の人生はつまらないものになってしまうんじゃないかと心配してたよ」


そりゃあ、心配だよね。他人の視線が嫌って、つまり誰とも会いたくないってことだから。


「だから雪緒が高校に通うと言ったことも、やりたいことがあることも、私たちにはとても嬉しいことなんだよ。母さんも私も雪緒のことを応援するから安心して望みを打ち明けるといいよ」


「わかった。今日、母さんが帰ってきたら話すよ」


「それがいい。さあ、もうすぐ着くよ。覚悟はできたかい?」


覚悟? 何のこと?



*******



書店はDVDレンタルショップもある大型店だった。車を降りてすぐ周囲の視線を感じる。例の不快なやつだ。一体、何なんだろうこれは・・・こっち見すぎだよ。


不快な気分で俯きながら歩いていると姉さんが肩を組んでくれる。


「誰も悪気がある訳じゃないから大丈夫だよ。本能的に目が行ってしまうのは仕方がないよ。できるだけ気にしないように。どうしても嫌なら顔を私の体にくっつけて周りを見なければいいよ」


「うん。でもこれから学校にも通わないといけないし、気象予報士の試験の受験もあるから、このぐらい頑張るよ」


できるだけ周囲の視線を気にしないようにしながら気象予報士試験のための参考書を探す。まだ最初の試験が開催されたばかりなので問題集はあっても数は少なく ”こなれていない” 感じだ。前の世界にいたときに使っていた参考書と問題集を思い出し似たような本を探し出した。


レジの支払いは姉さんに任せるのではなく敢えて自分でやった。店員さんは緊張気味のようだった。一生懸命に僕にポイントカードの発行を勧めてくる。困っている僕を見かねた姉さんが後ろから無言で代金を出したら、諦めてくれた。


何とか買い物も終わり車に乗る。そろそろお昼ごはんだ。姉さんは家で何か作るかドライブスルーを勧めてくれたけど近くの喫茶店を希望した。何とかして周りの視線に慣れる必要がある。来週には学校に行くんだし、これぐらいできないと。


お店に入った途端、店内の女性の視線を感じた僕は俯きながら姉さんの後に続く。この視線はきつい・・・だけど我慢我慢。できるだけ気にしないように意識を地面に集中する。店員さんに案内されて席に着くとほっとする。


「立派だよ。以前の雪緒なら、怒って家に帰ると言っていただろうね」


「僕は怒りっぽかったの?」


「態度は表には出さない子だったよ。ただ無表情にひたすら視線に耐えながら心の中で怒ってる、という感じだった」


そうか。たしかにこの視線攻撃はつらい。無表情って相当来てるよね。けど周囲みんなが敵みたいなものだから不快な気持ちを特定の誰かに向ける訳にもいかなかったんだろう。そんな事を考えながら一人、難しい顔をしていたら姉さんが心配して教えてくれた。


「私に雪緒の気持ちはわからないけど、雪緒のことを見つめてしまう女性の気持ちはわかるよ」


え? 姉さんも?


「私だって聖人ではないのだから雪緒のようにかわいい男性がいたら思わず目が行ってしまうよ。まあ、雪緒と普段から接しているから我慢は出来るほうだと思うけど」


うーん。たしかに前の世界で可愛い女の子とかがいたらと思うと、わかる気もするけど。


「対処法になるかどうかわからないけど。笑顔でゆっくり、ちゃんと目線を合わせるように回りを見返してごらん? もしかしたら何人かは見なくなると思うよ」


え? それって大丈夫? よし、物は試しだ。ちょっとやってみるか。僕は出来るだけの笑顔を作って、ゆっくりと周りの人と目を合わせてみた。


お・・・本当だ・・・ほとんどの人が顔を赤くして下を向く。なにこれ、すごい。


「ほらね。だけど一人の時にはお勧めしないよ、必ず誰かと一緒にいるときにすること」


分かった、そうだね。変な誤解を受けないようにはしないとね。でも、なんだかちょっと気が楽になった。みんな悪気があるわけじゃないっていうことは周囲の俯いている人たちの態度から伝わってきた。ただ単に異性にとても興味があるだけなんだ。


そう考えると視線も少しは気にならないかも。この調子で来週から学校も立派に通いちゃんと卒業してやる。そして気象予報士の試験に合格し、いつか気象関係の仕事に就くんだ!


さあ!勉強するぞ!





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