家族
その写真を見たとき、僕はこの世界の「僕」と自分に確かなつながりを感じた。何かの不思議な現象が僕を別の世界の「僕」にしてしまったのだろう。この現象に戸惑い不安になっていた僕の心に、写真の幻想的な光が優しく差し込む。
「雪ちゃん」
気が付いたら敏子さんが優しく僕を抱きしめてくれていた。なぜだろう、涙が止まらない。
「雪ちゃん、不安なのよね? 病院でも帰り道でも、ずっと。安心して、家族がいるから。雪ちゃんの事、必ず守ってあげるから」
ああ。この「僕」にとって、貴女は本当の母さんだったんだね。ありがとう。貴女の温もりでずっと不安だった気持ちが少しずつ和らいでくる。僕、貴女のこと、さっきまで心の中で他人のように呼んでいました。
「・・・ごめんなさい。母さん」
「謝ることなんてないわ。分からないのは仕方がないの。安心して」
よく見ると、優しい母さんも涙を流している。
「私たちも、このまま雪ちゃんの記憶が戻らなかったらと思うと不安で悲しかったのよ。だって大切な私たちと貴方との思い出が全部忘れられてしまうのよ。小さなころから育ててきた雪ちゃんに、もう二度と前と同じに我儘を言ってもらえないって、それはとっても悲しいことだったの」
・・・ごめんなさい。
「でも、雪ちゃんも私たちと同じように悲しくて不安だったのよね。お互い悲しい事を抱えているのよ。でもこれだけは忘れないで。貴方は私の大切な息子で、私は貴方にとって甘えて頼れる母親だって事を」
その時、部屋に姉さんが入ってくる。泣きながら抱きしめ合う僕たちを見ると、ほんの一瞬、驚いたような顔になる。だけど直ぐに何かを察したように姉さんもその輪に加わり、優しく僕と母さんを抱きしめてくれる。きっと姉さんも同じなんだ。
ごめんなさい、姉さん。
心の中でサイボーグなんて呼んで。
姉さんは、僕と母さんに優しく語り掛ける。
「雪緒。病院でもずっと落ち着いていたけど無理していたんだね。でも、私たちの前では何も無理して頑張ることはないよ。悲しい事や辛い事は私や母さんに打ち明けてほしい。私たちも君に忘れられた事は悲しかったよ。だからこそ、私たちはみんなで支えあうんだ。辛い事も悲しい事も一人で抱えずに3人で分け合うんだよ。私たちはかけがえのない家族なんだから」
僕たちは、そうやってしばらく3人で抱き合い涙を流していた。