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アラフォーさんとサイボーグさん

病院で気が付いた僕は宝塚の男役のような女医の高木先生から話を聞きいている。自分の状況に訳が分からず困惑していた僕は病室の扉がノックされる音で我に返る。


タン!タン!タン!ガラッ!


「失礼します!!雪ちゃん!!大丈夫?」


僕好みの美魔女系女優に似たアラフォー女性が心配そうな表情で慌てて部屋に入ってくる。またもや身長が高い。この女の人は誰だろう?知らない人だ。


さらにその後ろからもう一人、背の高い涼やかな雰囲気の女性が部屋に入ってきて目が合うと静かに語り掛けてくる。


「雪緒。大丈夫?」


美人女優がSF映画か何かで女性型サイボーグを演じているような雰囲気。スキのない美貌のお姉さんだ。僕(二十歳のつもり)より2・3歳年上かな?ごめんなさい、貴女のことも存じ上げません。


しかし何だろう。今、この部屋には4人の女性がいるけど、皆、そろいもそろって背の高いモデルのような美人ばかりだ。ちょっと圧倒される。


「先生!雪緒は大丈夫でしょうか?」


アラフォー女性さんは何だか必死だ。


「体に異常は見当たりません。ただ、ちょっと・・」


「何か問題がありましたか?」


サイボーグお姉さんは冷静だ。でも心配そうなのはわかる。先生は二人を落ち着かせるようにゆっくりと答える。


「少し記憶障害の症状が出ているようです」


「記憶障害!?どういうことですか?」


二人は何が起きているのかよく理解できていないような面持ちだ。高木先生は僕を見て優しく語り掛けてくれる。


「篠塚さん、こちらのお二方がどなたか分かりますか?」


残念ながら全然わからない。正直に答えるしかない。


「いえ。すみません。分かりません」


「え!?・・・どういうこと?雪ちゃん、お母さんの事、分からないの?」


アラフォー女性は泣きそうな表情で僕に食い下がる。僕の母さん、そんなに美人じゃなかった。背も高すぎるし。まあ、雰囲気はないこともないけど・・・。いや、やっぱり違いすぎる。


「・・・そんな。先生、何とかならないんですか?」


「落ち着いて下さいお母さん。明日、専門医の診察を受けましょう」


少しだけ取り乱すアラフォーさんにサイボーグ姉さんが声を掛ける。


「母さん、落ち着いて。雪緒の前だ。本人が一番つらいはずなのだから」


アラフォー女性はこちらを振り向く。なんだかとても申し訳ない気がしてきて、思わず顔を伏せる。


「そうね。ごめんなさい、雪ちゃん・・・」


「いえ・・・大丈夫です」


「「「・・・」」」


みんな、黙ってしまう。そりゃあ、そうだろう。記憶障害の人なんて、見たことないものね。


この展開、なんとなく理解してきた。この二人はきっと「この世界の僕」のお母さんとお姉さんなのだ。確かに元の世界にもお姉ちゃんはいたけどこんなに美人じゃなかった。


一人暮らしの唯一の趣味がケータイ小説で、転生物や転移物は読みまくっていたけど、そんな感じなのだろう。でも、実際こういう状況になるとかなり気まずい。二人に対して申し訳ない気持ちで一杯だ。


そうか。こういう時って、自分の身に起きた現実は割り切れたとしても、他人に心配をかけてしまう罪悪感は簡単に割り切れるものではないのだ。


綺麗なお姉さんたち、ごめんなさい。



*******



先生とアラフォーさん、サイボーグさんの3人は明日以降の予定について相談している。その間、看護師さんが、コップに白湯を入れて持ってきてくれた。


「ゆっくり、少しずつ、お飲み下さい」


「ありがとうございます」


落とさないように両手でしっかりと持ち、ゆっくりと少しずつ飲み込む。熱くも冷たくもない。何の変哲もない液体だけど、おいしい。僕はのどが渇いていたのか。


うん?・・・看護師さんが頬を赤くしてこちらを見ている。その視線、痛いくらいですけど。なんでしょうか?僕の顔に何かついていますか?


看護師さんの視線に違和感を覚えつつ白湯を味わっていると先生たちの話が終わる。


「篠塚さん、明日は午前中に診察を受けましょう。恐らくすぐにどうこうできる話ではないでしょうからね。診断が終われば午後にも退院いただけると思います。念のためもう一晩、こちらでお休みください。それでは、私たちは戻ります。何かあったらそのボタンでお呼びください」


「はい。ありがとうございました」


サイボーグさんが返事をしてくれる。この方、しっかり者のようだ。

高木先生と看護師さんが部屋を出ていかれた後、アラフォーさんたちは部屋にあった椅子を寄せて僕の近くに座る。近くで見ると二人とも美人で背が高いので迫力がある。二人は顔を見合わせておもむろに話し始める。


「雪ちゃん。さっきは取り乱してごめんね。私はあなたの母親で、敏子というの」


「私は姉の泪だよ」


そうか。そう来たか。

二人とも僕の母さん、姉さんと同じ名前だ。見た目はかなり違うけど。


「「・・・」」


二人はこちらをじっと伺っている。僕が何かしゃべるのを待っているようだ。何か言ったほうが良い?でも、何を言えば・・・。とりあえず笑顔で挨拶するか。


「あの・・・コンニチワ」


う・・・。ちょっと場違いだったかな?でも <初めまして> じゃ、失礼かもしれないし。気が付くと目の前の二人の表情が緩んでいる。


「「かわいい!!」」


顔を赤くして少し笑顔になる二人。とりあえず間違いではなかったようだ。




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