合格発表
とりあえず二人とも合格した。同じ大学にね。
家から通える公立大学の理学部で僕も瞳ちゃんも推薦だ。高校は瞳ちゃんに対しては、もっとレベルの高い大学を受験してほしかったようだ。でも本人が僕と同じ大学しか受ける気がないことを知ると、あっさり引き下がったらしい。僕たちの関係は、周りから見ても将来結婚するだろうと思われているようで、その可能性を下げてまで進学にこだわるような選択を女性が選ばないことは十分に共感が得られるらしい。男性が少ない世界特有の共感だろう。前の世界ではありえない。ていうか、結婚ってそんなあっさり言うことじゃないでしょ。
今日は高校の卒業式を翌週に控えた3月上旬の金曜日、気象予報士試験の合格発表日だ。瞳ちゃんと僕は午前中で授業を終えて我が家に帰宅した。そして今、リビングで姉さんが操作するノートPCの画面に二人で注目している。財団のホームページには、既に結果が出ているはず。母さんもお店を店員に任せ今日は早めに帰宅している。
「瞳ちゃんは大丈夫よね。問題は雪ちゃんよ。受かってたらみんなで祝勝会に行きましょうね」
「ちょっと!何!その差別!自己採点ではほとんど差はなかったって!」
うちの家族、勉強関係はとにかく瞳ちゃんを信頼していて僕の信頼はゼロなんだよね、まったく。確かに自己採点では負けちゃったんだけどさ。
「さあ、出てきたよ。このPDFをダウンロードして、と」
心臓がどきどきする。ああ、前の世界でも緊張したけど、やっぱり何度やっても緊張するな。
「まずは瞳君の番号で簡易検索してみるか・・・・お、ふむ。合格だね」
「「瞳ちゃん!おめでとう!!」」「おめでとう!瞳君」
さすがに瞳ちゃんもうれしそうだ。
「ありがとうございます。でも本番はこれからですよね」
「そうそう!さあ、泪!はやく雪ちゃんの番号も調べて!」
「よーし。いよいよだね。番号は・・・と、さあ検索するよ」
「いいから早く!」
姉さんが簡易検索を実行すると、あっけなくその番号のところに画面が移動した。見つかった場所は合格した人の番号が載る場所だ!
「やったー!!」思わず叫んでしまう。
「おめでとう!雪ちゃん」「よかったね、雪緒」
母さんと瞳ちゃんが笑顔で祝福してくれる。これくらい明るく言われると、素直にうれしい。
「雪緒、よく頑張ったね。おめでとう」
姉さんは、なんだか抑えた感じでやさしく祝福してくれる。あれ?以前ならこんなことでは涙は出なかったのに、なんだか視界がぼやけてくる。姉さん、そういう言い方やめて。泣きそうになっちゃうよ。
「さあ、雪ちゃんに瞳ちゃんも本当に良く頑張ったわね。大学も資格も合格って、合格づくしで本当におめでたいわ。今日は母さんがおいしいものを食べさせてあげるからね」
僕たち家族と瞳ちゃんの4人で入学祝兼資格合格祝勝会に出かけることにする。さあ、あとは大学でしっかり気象の勉強をするぞ!
この時の僕は、これからの4年間の学生生活と、さらにその先の気象関係の会社への就職を思い、自分の将来に対する期待に胸を膨らませていた。
祝勝会からの帰宅後、その “将来” が突然やってくることも知らずに。