第37話 取扱説明書
機械音声のようなもの。
ここの入口のような場所にもそれを聞いたが、この剣を作った異世界人がこういった物が好きだったのかなと俺は思った。
とはいえ、特殊能力を認識したと言っていたから、それを理由に剣が抜けるかもしれない。
だから俺はその柄を握りしめてゆっくりと力を込めて引き抜こうとする。
剣は、あたかも初めから何かに覆われていただけであるかのように引き抜ける。
銀色の刀身に銀色の柄、柄には赤い石が一つついている。
二束三文で売っていそうなデザイン性も何もないシンプルな形の剣だ。
伝説の剣というからにはもう少し何かそれっぽくてもいい気がした。
岩に刺さっている時は何となくそういった雰囲気と風格が漂っていたが、抜いてしまうとただの剣にしか見えない。
なんなんだろうなと思ってとりあえずシーナの方向とは別方向に横に凪いでみると、
「軽いな。これ、本当に金属なのか?」
「見せて。伝説の剣がどんなものか見てみたいわ」
シーナが好奇心でそういうので手渡そうとするも、シーナが持った瞬間、
「お、重い……」
「大丈夫か!」
慌てて俺はシーナの持っている剣の柄に手を伸ばす。
ただ柄の部分が短いので、俺の手がシーナの手に重なってしまう。
シーナの顔が目に見えて赤くなった。
「ご、ごめん」
「べ、別にいいわ。それよりも早くこの剣を持ってほしいわ。重いもの」
「そ、そうだな」
俺はそう答えながら、柄から手を放すシーナから剣を受け取る。
そういえば同い年ぐらいの女の子とこうやって手が触れたのはいつ頃だっただろうかと思い出そうとして、それ以上考えるのを俺はやめた。
いいんだ、彼女いない歴=年齢だし。
そう思いながらも再びこの軽い剣を手にする。
銀色の剣。
その中で何の変哲もない赤い石の部分に俺が触れるとそこで、きんっと耳障りな音が一瞬して、すぐに薄い緑色の、光の板のようなものが現れた。
書かれている文字を読むと、
「『“なんちゃらカリバー”を引き抜いて頂きありがとうございます。本製品は、異世界人“専用”の武器となっております。その異世界人の特殊能力を一部吸収、複製し、剣に付加させて使うことができます。また、自動再生機能もついているのでお手入れは特に必要ありません。もしもの時に使うよう、使用上の注意を幾つか守って、適切に使用してください』……なんだこれは」
俺はつい、そう呟いてしまったのだった。