第121話(敵)
ガラスの割れるような甲高い音を聞いた気がした。
ただそれは俺自身がそう感じただけで、幻聴だったのだろう。
実際に目の前でガラスが割れた形跡はなかった。
ただ、恐ろしいほどの汗が、俺の体中から噴き出ている。
思わず膝をついてしまった俺に、シーナたちが駆け寄ってきた。
「アキラ、大丈夫? 今、何があったの?」
そう言ってシーナが片腕を、ロゼッタがもう片腕を支えて俺を立たせてくれた。
それでどうにか立ち上がった俺は、
「“支配”されそうになった。まさか、俺がこんなことになるなんて……二人やセレン達は大丈夫だったのか?」
「私達は平気、ロゼッタは?」
「こちらも特には何もないわ。セレンは?」
「私も大丈夫です」
といった話を聞いて、どうやら俺だけがやられたらしい。
なんて事だと俺が思っているとそこでマサトが、
「……俺の力を作用させて、その力は使えないようにしたはず。どうしてアキラに効果があった」
焦ったようなマサトの声に、目の前の敵は嗤う。
「もちろん貴方の特殊能力は私の力に干渉して、使えなくしてしまう。それは、この城を手に入れる前から気づいていましたよ。以前に一度接触して、能力を確認しましたからね」
「お前、あの時の! お前のせいであの子は、友人を傷つけてしまったと悲しんでいたんだぞ!」
「それがどうかしましたか? 私はこの世界の支配者となる人間です。たかが一人や二人傷ついた所でどうだというのだ?」
マサトの言葉にそう敵は、なんとでもないことのように答える。
だが実際に人が死ぬといった大ごとになったわけではなかったのだろう。
だからこれまで……野放しにされていた。
そこでようやくそこにいた敵の姿を俺は、完全に立ち上がり視界に収めることができた。
敵は、黒い服の男だった。
髪は茶色で、同じように茶色い瞳。
20~30代の人物に見える。
意外に若い。
だが、不思議と印象に残らない顔の男だった。
とても普通の、どこにでもいるような人間。
大それたことも出来なければ野望を持つこともないような、平凡な人物。
そんな印象しか受けない。
こんな人物が? まさか?
そう感じてしまうような存在だった。
むしろ、俺達を襲った彼が操っていたであろう人形の方が個性があった気がする。
そしてそんな彼のすぐそばには黒い布に包まれた人一人分の塊が転がっている。
あれは何だろう、そう俺が思っているとそこで、敵が俺の方を見たのだった。
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