第102話(俺は気づいてしまった)
桟橋を引き上げる大きな音。
その音にかき消されて聞こえなくなっていたあの音は、また聞こえるようになっている。
ざわざわといった耳障りな音。
あの町のダンジョンで聞いたあの音と同じだ。
俺の耳にもようやく聞こえてきたその音。
相変わらず気色の悪いそれを聞きながら俺は、周りを見回す。
あれらが本気でこの城の外に出ようとするのなら、この程度の扉は壊せるだろうが、
「この前の洞窟の件を考えると、外には出てきにくいか。周りの指令がない限り」
俺の言葉にシーナたちが頷く。
そして声のする方をシーナが見ながら、
「それにこんな城に仕掛けていくのだからそこまで量は多くない……と思うの。音も少ないし」
「そうだな。あの洞窟と違って明かりもともされていて敵の位置が捕捉しやすいのは都合がいいが……あそこにある壺、やけに細かな模様が描かれていないか?」
俺はそこで置かれていた大きな壺に目を移した。
細かい四角や三角といった幾何学模様が作り出され、その下のようには絵画のような人の絵が描かれている。
この世界に物体に印刷する技術が沢山ある、と考えていいのかどうかが疑わしい。
なんとなく、そう、なんとなくだがこれは職人が手書きで丁寧に作られた一品のような気がしなくもない。
一体幾らくらいするんだろうか?
俺の額に冷や汗が浮かぶ。
よくよく考えればお城というえらい人たちの住処なのだからそういった物があってもおかしくはない。
そう思ってみるとあそこに飾ってある彫刻や、絵も……。
俺は新たな事実に気づいて凍り付いているとそこでシーナが、
「どうしたの、アキラ。顔色が悪いけれど」
「……ここにある絵画や壺は非常にお値段が高い職人技の品物なのでは」
「そうね」
「こ、壊したらどうしようか」
「緊急事態よ! それに壊したのは、ここにあの怪物の魔道具を置いていった人たち、ってことでいいわね!」
俺は念押しをシーナにされて、頷いた。
確かに緊急事態だし、実際にその怪物が壊しているかもしれないし、賠償金を払わされるのは嫌だ。
だがここにある貴重そうなものが破壊されるのも忍びないので、特殊能力で、“効率チート”で、できる限り効率的に最適された攻撃で敵本体のみを攻撃できるよう念じる。
他の場所にあたるということは、それは無駄に魔力を使い“非効率的”だからだ。
そう考えたところで、目の前に黒い箱が姿を現したのだった。
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