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舞華の気持ち。

かなり久々の投稿です。いつもありがとうございます!

私は最近、振り回されている。


「舞華」


そう呼ぶ、甘い声を聴いているうちに、子守唄のように眠りについてしまう。朝起きれば、彼が横に居て、私は自分の気持ちを自覚していた。ただ、素直じゃない私は、寝ている隙に、好機チャンスとばかりに、おずおずと軽くキスをして、ドキドキするのが日課だった。綺麗な顔立ちに、少年と青年の間のような

まだあどけなさが残る。


「ん…舞華?」

寝ぼけ眼でこっちを見て来るのが、可愛くて、私は昨日起きたことを途端に思い出し、心音が激しく上がる。寝てる時なら、どうせ見ていないのだからと少々大胆になれるが、起きている時に、透き通ったアイスブルーに私の顔が映るだけで、たまに私はドキドキが止まらず、


「あ、朝ごはんならまだよ!料理長がまだ出来ていないって言っていたから。」


そんなのは嘘。気持ちよく寝ている青を起こすのが、忍びなくて、料理長には料理を作るのを待ってもらっている。


「…舞華が言ってくれたのか」

「…べ、別にそういうわけじゃないわよ!!」

「優しいな、ありがとう」


素直にお礼を言われて、それだけで、私の中の何かが満たされる。温かいを通り越して熱い。これは何だろう。私は答えを知っている。そして、彼には伝えていない。私は初めて会った時から、ずっとーでも、何となく恥ずかしくて言えない。そんな乙女心は私に、ついてまわる。


「馬鹿っ!」


素直になれず、私は部屋から出て行ってしまう。そこで、ばったり廊下で、うちで一番仲良しのメイド長に出会う。廊下が長いので、青はまだついてきていない、暫く走ったしとぴたと足を止めた。


「ねぇ、メルシィ。」

「何ですか、お嬢様。」

「…メルシィはどうやって、彼に気持ちを伝えたの?」

「お茶にしましょうか、お嬢様。」


メルシィに部屋に案内されると、相変わらず可愛らしい小物たちと、自分で作るパッチワークが趣味なメルシィ。ベッドのシーツまで作ってしまうほど器用で、カーテンも自作だと聞いた時は、流石に驚いた。

初対面では、美少女が入ってきたと思ったが、仕事ができ、有能な彼女は、他のメイドや使用人たちにも愛されている。


「お嬢様が好きなローズヒップですよ」

「ありがとう」


甘酸っぱい赤は、口に含むと舌に溶け、何だか少し落ち着いてきた。メルシィの作った紅茶のクッキーはとっても美味しくて、私は自分が不器用だと、思い出して苦笑いをする。


「…私は、使用人のロベルトと付き合ってる事は、お嬢様もご存じだと思います」

「ええ」

「でも、最初は全く相手にされませんでしたよ」


ふふ、と黒い三つ編みを触りながら、苦笑いをするメルシィ。


「嘘!あんなに仲良しなのに!!」

「…出来過ぎる女性より、出来ない愛らしい女性が好きなのは、私も知っていました。守ってあげたくなるそんな子が好きなんです、ロベルトは。」

「ぇえ」

「だから、転んだふりをしたり、出来ないふりをしていたりしてたら、余計に嫌われてしまいました。でもね」

「でも?」

「ロベルトが好きだって、正直に伝えて、私は私だって打ち明けて、それから少しずつ見る目が変わったんです。私も完璧じゃないし、泣きたいときは部屋で一人で泣いてる。それに、たまに緊張して、紅茶に入れる砂糖の量を間違えたり、悩み事はロベルトに正直に打ち明けました。」

「それで?」

「出来過ぎる女性なんて幻想だった。有能かそうじゃないかと言えば、差があるけど、そんなところも、気が付いたら好きになってたって。だからね、お嬢様もありのままでいいと思うんです。」

「―私のありのまま?」

「料理が下手でお裁縫も苦手で、いつも意地っ張りなお嬢様。」

「むっ…悪かったわね」

「でも、泣いてる人を放っておけない優しい方です。」

「…そんな事は普通よ」

「そういうところが、私は好きですよ。さぁ、このお菓子を持って行ってあげてください。

料理長も少し時間がかかりますよ。何て言っても、お嬢様の片思いの相手ですから」

「なっ…!私はべ、別に…」


背を押され、部屋を追い出されてしまった。私は、この気持ちを知っている。甘くて酸っぱくて、想うと切なくて、笑顔を向けられると、蕩けるようにドキドキしてしまう。


「…好きだなんて、言えない。」


恥ずかしい、言えないよ。でも、いつも意地悪してくるのに、可愛くて素直な、貴方が好き。部屋に戻ると、青が待っていた。


「…おかえり」


その笑顔が眩しくて、私は、思わず胸に飛び込んだ。何も言わず、強く抱きしめ返す青を改めて好きだと思って、料理が出来上がるまでずっとそうしていたのだった。


「振り回されてもいいわ」

「…何か言ったか?」

「ずっとじゃなくていいから、暫くこうしてて。」


ずっとじゃない。無限じゃない時を、どうか私に少し下さい。貴方に好きって言えるまで…。

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