「生」への執着
冴えない人間だった。
目立った不可もなく、勿論、可もない。
色のない人生だった。
花もない人生だった。
強いて
強いて褒められるなら、働き者だった。
残業を惜しまず、
精一杯、働いた。
幼い時は、ゲームの勇者、漫画の主人公に憧れたものだ。
その特別な力に、能力に。
そして、今、オレはここにいる。
冷めた不味いコーヒーを片手に持ちながら、会社の休憩所の椅子に座って。
「まぁ、所詮は妄想の産物だったなって、悟ったけどな。」
「しげしげの幼い時って、そんなにシビアだったの?」
「シビアだった・・・・。」
「しげしげ、変にグレなくてよかったね。」
「そーだな・・・・。
なんか別の意味でグレた感じするけど。」
そう言うと、隣でクロワッサンを貪っていた同僚が能天気な顔を更に能天気にして首を傾げた。
その目は相も変わらず曇りがなく、オレは逃げる様に窓の外の空を見上げた。
「どんよりしてんなぁ。」
思わずそんな言葉がもれた。
見上げた空は暗い雲で光を遮り、オレのテンションを1下げた。
「しげしげー、そろそろお昼休憩終わるよ?」
「そーさなー。
午後の外回り行きますかーー。」
約1時間落ち着けていた腰を痛めながらオレは立ち上がる。
そんなオレとは違い、同僚は立ち上がると「ブーーン」と言いながら廊下を走っていく。
あれ、おかしいな・・・・・
アイツ、今年で38歳だったはずなんだけどな。
オレと同じ歳のはずなんだけどな・・・・
「心の老いが悲しい・・・・」
一人虚しさを抱えて、アイツの後を着いていく。
暫くして、年相応に落ち着きをとりもどした同僚と小さな交差点に差しかかった。
するとまた、いきなりテンションのあがった同僚が白線だけを踏んで交差点を渡るという奇行をし始める。
既にそんな同僚の奇行を見慣れているオレは、それを微笑ましく後ろから見守る。
その時だった。
酷いクラクションが交差点一帯に鳴り響いたのは。
「・・・・・・・・・・・・・っ!!」
「しげっ!!」
思わず顔をそちらに向けた。
すると猛スピードでこっちに突っ込んでくるダンプカーを視界に捉える。
その端ではさっきまでマヌケな顔をしてた同僚が必死の形相で走って来ているのがわかった。
刹那、視界が激しくぶれた。
むしろ、歪んだ。
一度目の衝撃の後に浮遊感。
二度目の衝撃で沈殿感。
ダンプに吹っ飛ばされた体は硬いコンクリートに強く叩きつけられ、全身を痛みが包む。
「重隆!?ねぇ!!重隆!!」
「・・・・・・・・ひろ・・む。」
38歳の男が・・・・
取り乱すなよ・・・・・
情けない・・・・
なんて情けない・・・・
ぼんやりとする視界で同僚の顔を見て思った。
こんなに、生きたいと願うなんて。
あれほど生に無頓着だったのに。
死ぬ間際に、「生きたい」と思ってしまうまんて・・・・。
なんて情けない・・・・。
「しげっ!!
寝るな!!」
オレだって、寝たくねぇよ・・・・
でも、眠たくて・・・・・
眠たくて、仕方ないんだ・・・・・