決戦(後編)
武者震いがする。
6月13日の夜明け前にリュウエンさんと手分けして全戦士に高揚を掛けた。
夜の間に断続的に少数の鬼が襲いに来たが、全て見張りに倒されたそうだ。状況から考えて、組織的偵察行動ではなく、飢えた奴らの暴走だろう。敵は、統制が取れていないようだ。
夜明け一時間後には、全ての戦士が配置終了しており、ワシの魔力もほぼ回復していた。そして、巨大な気配が迫ってくる事を感じた。敵が動き始めたようだ。ヒノカワ様も一瞬目を瞑ってから明確に指摘した。
「動き始めた。それでは予定通り行こうか。
そこの君、敵が動き始めたって伝令よろしくね」
ワシらは、予定通り一旦シカ村から少し離れた場所に移動する。敵の最も薄い箇所を特定し、迂回しながらの高速接近で、一気に強襲するためだ。シカ村を策源地にすると飛び出した瞬間に集中攻撃を受ける可能性がある。
ヒノカワ様と一緒に飛びながら、気になっていた事を聞いた。
「ヒノカワ様、一昨日頃からまた各段に魔力が増えているようですが、何かあったのでしょうか?」
「ああw 魔力強化のレベルが上がったんじゃないかなw タツヤ君を見ていて、漠然とより魔力が欲しいと思うより、はっきり『魔力強化』という魔術のレベルを上げたいと願う方が効率的かなと思って試してみた。そうしたら、一昨日あたりに魔力が増加したんだ。
良い勉強になったよタツヤ君」
そうこうしている内に、敵がシカ村を攻撃し始めたようだ。戦闘音が聞こえてくる。ワシらは、外苑を移動しながら、襲撃点を探っている。
「南南西から切り込むよ。準備は良いね。さあ、突撃だ」
ヒノカワ様の号令に従い、トップスピードでの突撃を開始した。退却時の事を考えて、途中の鬼どもは上空からの攻撃で蹴散らしていく。疲労回復を何度も掛けながらの忙しい突撃だ。
妖魔王から200m位置で着陸、途中に護衛が30匹はいる。ワシと、ヒノカワ様が同時に火炎攻撃だ。敵は、シカ村への攻撃を中断してワシらを包囲しようとしている。だが、遅い。既に、妖魔王の位置は把握済みだ。
散発的に飛んでくる矢や魔術を置き去りにしながら、低空での高速飛行で30m位置まで一気に接近だ。
打ち合わせた通り、ヒノカワ様が妖魔王の尻尾や取り巻きを叩いている間に、ワシが全力の魔力矢を叩き込む。命中した。だが、まだ形が残っている。もう一発、妖魔王は肉片に変わった。
ワシの体に異変が、彼方此方から血が出ている。無視して、一気に後退だ。
飛行中にどんどん魔力も減っていく。ヒノカワ様が飛びながらワシを掴んだ。ワシを抱えながら、飛行してくれるようだ。
そして、約30分後ワシらはクジラ村に到達した。既にワシの魔力は枯渇仕掛けている。
治癒小屋に運び込まれたワシにヒノカワ様が治癒術を掛けている。
「ヒノカワ様、ワシに構わずシカ村の救援に向かって貰えないだろうか」
ワシは、激痛に耐えながら絞り出すように訴えた。
「断る。シカ村より君の方が優先だ。当たり前だろ。シカ村が滅びても君が居れば何時か再起の日が来る。しかし、君が死ねば、僕の死後またあの時代が再来してしまう。
第一、あそこまで徹底的な手を打ったシカ村が負けるはずなかろう。既に3倍程度の数の優位を確保した。強力な防壁もある。さらには、後詰も次々来る予定だ」
「しかし、直す端から次々傷ついていく。際限がない。呪いが薄まるまで待つしかないのではないですか」
ここには、カニハミさん他多数の治癒術士がいる。ヒノカワ様を無駄な事に付き合わせるより、より戦を有利にする策があるはずだ。
「そうかも知れないが、そうでないかも知れないんだ。
この呪いを解除するキーは、日数ではなく、魔力の消費量かも知れない。僕は、何度か呪われたが、呪われるたびに、少しづつ回復するまでの時間が短くなっている。僕の魔力回復量が増えたから、解除キーの『量』を満たす時間が短くなっているという仮説も成り立つ」
そう言って、ヒノカワ様はワシの治癒を止めない。しかし、ヒノカワ様ですら、暫くすると魔力切れになった。その後は、カニハミさんら他の魔術士が交代しながら治癒術を掛けてくれた。
ワシが、しきりと気にするためシカ村の状況も教えてくれた。『全く問題ない。』そうだ。
初日の大攻勢で門自体は破壊されたが、撃退には成功し、敵は半減した。それからも、断続的に襲撃は繰り返されているが、最早脅威では無い。再度高揚が掛けれるようになったら、反撃開始する予定で、クジラ村や海岸の基地と調整を行っているようだ。
ヒノカワ様の仮説が正しかったのだろう。二日後の夕方に魔力が回復し始めるのを感じた。治癒後に再度傷つく事も無くなった。体力を回復させるために、ワシは粥を掻き込んだ。腹を膨らませ、その日は魔力回復の為に寝ることにした。
日の出前、クジラ村に到着済みの150名に高揚を掛けて、ワシはシカ村に飛び立った。ヒノカワ様も同行してくれる。『手柄を奪うつもりないから、見学させて貰うだけだけどね』などと憎まれ口を叩いているが、ワシを心配してる事を肌で感じる。
シカ村について、慌ただしく高揚を掛け作戦を確認した。そうこうしている内に、後詰が配置についたと伝令が来た。さあ、掃討戦だ。腕がなる。
掃討戦では、ワシには殆ど出番がなかった。精々逃げ足が早い鬼を空中から始末しただけだ。
さあ、作戦は次の段階に移る。人の領域の奪回作戦だ。とは言え、今日は祝宴にして良いだろう。見張りは、後詰の若衆達が競って志願してくれている。
次は、リュウエンさん視点です。




