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ヒノカワ様との密会

 西方作戦で7つ目の繁殖地を殲滅した後で魔力操作がL3に上がっている事に気付いた。試した所、上空から魔力矢で支障なく攻撃出来るようになっている。


 密かに検討していた事を相談する為に、ヒノカワ様に言霊を送った。


 直ぐに返事が返って来て、3日後の5月21日にテン村で落ち合う事になった。その日は、戦士達の休息日に充てる事にして、9つ目の繁殖地を潰した足でテン村に向かった。


「もう一匹の名前付きボスを倒すこと自体は、問題ないよ。ただ、大戦の発生は早まるとは思う」


 ヒノカワ様が、言霊での問い合わせに答えてくれた。


「可能なら、名前付きボスだけでなく、矢持大鬼や魔法持ちといったやばい奴らを先に抹殺しておきたいが、そうすると戦士の集結が間に合わなくなるのか……」


「ここに来る前にシカ村の防壁も見たけど、そこまでしなくても、十分勝利出来るんじゃない? 君は、何を目標にしているんだいw」


「戦士達に大勝利を経験させ、自信を回復させる事だ。

 その自信を元に、村々の関係を大きく変える。

 いずれは……10年位掛かるだろうが……妖魔を駆逐仕切れる体制を構築する」


「しかも、僕や君抜きでもそれが可能な体制かい? イモハミ婆さんに聞いた時は、何時もの乙女ジョークと思っていたけどね。マジなんだw」


「ああ、真剣に考えている。必ず、この状況を変えてみせる。そう誓っている」


「……そこまで考えているなら、少しフライング気味に、警報を出すことも出来るよ。

 僕の予測だと、西側の掃討戦が終わっても、一月程度は余裕があると思う。たけど、君の抹殺作戦を考慮して、早めに警報を出して、戦士の集結を開始する。君は、僕と妖魔王殺害の秘術の訓練があると言って、人目に付かなくても不審がられないようにする。

 何日かずれても、それで僕に文句を言う度胸のある者がいるはずないんだからw」


「頼んで良いだろうか、恩は忘れない」


「借りと感じる必要はないさw タツヤ君は、僕の役目を引き継ぐ気あるんでしょ。この年になると、ふと気になってしまうんだ。自分が死んだ後のことを。

 フブキ様が戦死した後、島全体がどれほど酷い状況になったか、僕は嫌という程知っている。

 僕が死んだ後、そんな状況に舞い戻るのかと思うと……安心して死ねないね。

 でも、君が居れば、安心して老後を過ごせるよ。可愛い孫達の将来に悲嘆しなくて済む。

 君の大構想に全力で協力する動機は、僕にもあるのさ。いや、この島の全ての者が同様だと思うよ」


「励ましてくれてありがとう。そう言ってくれると、少し心が軽くなる。多くの者に無茶ばかり言っているから心苦しくなる事が有るんだ」


「何をトンチンカンな事をw 一番、無茶振りされているのは君だろw この一年出征している日数の方が多いんじゃない?


 それはそうと、この際だから、率直に聞きたい事がある。無論、秘密は守るよ。クニを作る事を考えているのかい?」


 何故そんな事を気にするのか? とは、思うが、建国を阻止しえる実力の持ち主だ。機嫌を損ねるのはマズイ。


「時期尚早過ぎて、関心の無い振りをしている。だから、機密にして欲しい。

 いつか、クニという枠組みが必要になると考えている。村単位だと、例え連合があっても、大規模な事業は難しい。損する村、得する村が出て、調整が難しいから」


「昔あったクニは、滅びたんじゃない?」


「そう。クニの長に十分な器量の者を確保し続けるのは難しい。全くアイデアが無い課題だ。

 だが、クニがあった時代の方が、無くなった時代よりマシだったという言い伝えをイモハミ婆さんから聞いた。

 神託で得ている様々な知識を総合しても……あった方がマシという結論になる。

 とは言っても、クニが欲しいという意見が、大勢から公然と聞こえて来るまでは、無理をするのは禁物だ。建国の為に、大量の死人を出したケースを、神託の知識で知っている」


「君がクニの長になるんじゃないの?」


「誰がなったとしても、人は慣れによって堕落する。力が大きいほど、堕落する事を防ぐのは難しい。

 さらに、その息子・娘に器量があるなどと、誰も保証できない」


「本気で、マジで考えているんだねw 君をどうやってその気にさせるか頭を悩ましている人がいるけど、バカみたいだw

 まあ、良いさ。機密は守るよ。そして、僕は君が作るクニを支持する。というか、孫やひ孫を守るためには、君に賭けるしかないのさ。

 作ると決めた時は、言霊を飛ばしてくれ。僕が断固とした支持を宣言すれば、反対意見は減るだろう」


 え⁉ 非常に、有難い話だが。信じがたい。聞き違いじゃないの? 思わず、目をパチクリさせてしまった。


「何を、驚いているんだいw 考え抜いて出した、合理的な結論なんだけどな。

 考えてみろよ。僕自身は、『戦士をかき集める体制』を構築するなんて、思いつかなかった。魔力は、まだ僕の方が上だけど、この点は、君の方が圧倒的に上だ。というか、たった一年で、何百人もの戦士をかき集めるなんて、協力者が何人いても、『馬鹿げている』と一笑される挑戦だったよ。君が実現するまではね。

 孫やひ孫が安心して暮らせる世を確保するために、タツヤ君に賭けるのは、分の悪い賭けじゃない。というか、他にない」


「いや、すまない。仮に、クニを作る場合、ヒノカワ様だけは必ず説得しなければ、と思っていた。その大きな課題が突然解決してしまったので、驚いているだけだ。

 ヒノカワ様、感謝に堪えない。必ず、期待に沿えるよう、努力する」



次は、大戦の開始です。

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