最終作戦会議
実は、シカ村の戦況を確認した時に、弓持ちの繁殖地の殲滅の手伝いを提案した。
現状の戦力なら、チマチマ削るより一気に踏み潰した方が損害が少ない。この提案に賛同した村はかなりあり、一名、二名と言う感じだが戦士を送ってくれる事になった。
大規模殲滅戦の時に比べ条件は圧倒的に良い。敵に魔法持ちも大鬼アーチャーも居ない。ワシの魔力は倍以上になっている。リュウエンさんが火弾を取得し、200mラインからの魔術攻撃の手数も倍になっている。
人数に余裕があるため、未熟な者は外す事も出来る。スミレ坂の役は、イモハミ婆さんが断固としてもぎ取ってくれた。
シカ村での土壁造りが一通り終わった5月1日に、200名の勇者と殲滅戦を行う。
出陣前の短い時間に、狐村のマナブさんが近づいて来た。
「凄い人数ですね。此処まで多くの村々が参加するなんて、夢みたいですね」
「ああ、マナブさんも参加してくれて嬉しい。村々を代表する勇者が此れ程集まってくれるとは、感激している。此れを機会に村々の協力関係がより強くなって行くだろう」
無論、シカ村の100名と七村連合の40名が主力だ。だが、少人数ずつでも多数の村が参加するとバカにならない数になる。
「やあ、マナブさん。狐村を代表して援軍に来てくれたこと、深く感謝しているよ。道中やシカ村での滞在に何か不便はないかな。あったら小さい事でも言って下さい。村の娘達が知りたがっているんだw」
リュウエンさんだ。シカ村の衆は、忙しく挨拶に走り廻っている。ワシも見習うべきだが……挨拶に来られる方が多い。
「何を言っているんだい、タツヤw きみは小さいのだから、一ヶ所にいて貰わないと見失って皆困ってしまうよw」
ごめんなさい。僕七歳児でしたね。
多くの作戦を経験して、戦訓が溜まっている事もある。繁殖地から500m程度の位置から始まった殲滅戦は、接敵すらさせず圧勝した。重傷者もワシの残り魔力で対応可能な程度しか出なかった。もっとも、イモハミ婆さんが『これは、ババの仕事じゃ! 乙女の癒しを信じてよ(^_-) 』と、相当に意味不明な事を言ったので任せてしまった。
イモハミ婆さんのウィンク……何か、イモハミ婆さんしか知らない懸念事項とか有るのだろうか? それとも、単に戦場だから、緊張しているのだろうか?
全員に高揚を掛ける方式にした為、中2日開ける必要がある。その期間を利用して、大戦についての作戦会議を進めた。
天気が良くて助かった。野外で車座になっての会議は、晴れていなければ行えない。
実は、各村に無理を言って、アマカゼ他数名の少女が会議を傍聴している。彼女らは、アマカゼと文字の開発と普及を進める同士で、最小限の記録を作る事を目的としている。
まあ、最初から上手くは行かないだろう。先ずは、文字を扱える者にしか出来ない仕事があると自覚して貰えれば十分だ。
余りの無茶振に少女達の何人かは悲壮な顔をしておりその真剣さが、了解を得られた一因でもある。
「タツヤ殿は、戦鬼だ。戦を有利にする為なら、少女だろうと重い役名を割り振る。
何度聞いても理解不能な仕事だが、超効率主義者でもあるから、無駄な仕事ではないんだろう」
各村から、一名でも戦士が参加した事は大きい。移動経路の状態や防衛戦での役割分担等の議論が具体的に進んでいく。
大きな問題として、シカ村の防壁が強力過ぎて、援軍自体が入りにくいというものがあった。敵が近づくまでに防壁内に入らないと合流時に大きな被害が出る。
早めに合流するしか無いが……その為には移動日数、連絡手段等、様々な事を考える必要がある。
特に、シカ村からクジラ村への連絡を随時行う必要があり、魔力の節約の為、宿り木を設置し維持する事になった。
他には誘引に失敗した場合の連絡と再集結の段取りが、大きな問題で、ケース毎の議論が複雑過ぎて大変だった。結局、次の点のみ決めて柔軟対応すると決した。
・足の速い未成年者による連絡網の整備
・言霊による熊村からの定期連絡
・別の村が標的になった場合の全兵力派遣
・シカ村に間に合わなかった部隊のクジラ村待機
また、シカ村での戦いでは、次のような技能も必要で、希望があれば、シカ村が何時でも訓練を受け付ける事になった。
・ロープやハシゴを使っての防壁の登り降り
・狭間付き胸壁での弓矢の使い方
その他、矢や食糧の備蓄、予備武器の準備など、大量の問題が話合われた。
「余りに複雑過ぎて覚えきれるものじゃない。どうしたものじゃろうか」
ツバメ村の戦士長だ。この人は、三村連合との合同部隊の長として100人程度の戦士を率いる必要がある。
「明日の殲滅戦後に1日か2日残っていて下さい。書記の少女らに、覚える必要がある事を整理させます」
文字の有用性を認識してもらうチャンスだ。有効活用しようw
なお、西方作戦は、5月9日に山犬村から再開する事になっているので、3日半はアマカゼを含めた書記の少女らと作業が出来る。
5月4日の殲滅戦終了後、直ぐにアマカゼらと作業に入った。とは言っても、少女らが正解に覚えていられる訳はない。一応、会議中に、記録すべき重要事項は伝え、それらは木簡が作られている。しかし、全然足りない。
部隊を率いる立場で覚えておく事、経路の村として覚える事、長距離連絡係のスミレ坂が対応する事、それぞれの立場で整理し直さなければ役に立たない。
結局の所、ワシや残った村長、戦士長らの口述筆記に終始する事になる。
「タツヤ、そんなに記憶力が良いなら、わざわざ木簡を作る必要無いんじゃない」
アマカゼが疲れ切った顔でそう零した。
「時間が経てば忘れていくさw 第一、ワシが同時に何箇所にも居られる訳は無い。
それに、上手く有用性を示せれば、村長夫人レースの切り札になるでしょうw」
軽口を叩いていると、隣で記録すべき事項を暗唱していたテンヤさんが、話しかけてきた。この人の記憶力と理解力は、ずば抜けている。手伝ってくれて随分助かっている。
「寧ろ、知らない娘は、落伍確実になるだろう。
タツヤ殿、この秘術を娘にも伝授してくれないだろうか。対価は貝貨300枚でどうだろうか」
周りの少女らが息を飲む音が響いた。思わずアマカゼと目を合わせた。任せますという感じで首を振ったのを見て、ワシは返答した。
「価値を認めて頂き感謝に堪えない。ただ、この術は知っている者が多い程価値が高くなる。高名なテンヤ殿の娘さんなら、此方から招待したい。
どうだろう、アマカゼ、対応してくれるかな?」
「ええ、お祖父様にお断りする必要はあるけど、否という事は無いと思うわ。今回の会議に招請された事を羨んで、学びたいという娘は、七村にもいるの。タツヤが西方作戦をしている間に、合宿でもしようかと考えていたの。タツヤの小屋を使わせて貰っても良いでしょ?」
「ああ、アマカゼの好きにしても良いよ。滞在費が問題なら、ワシの財布から出しても良い。色々大変だが、頼んで良いかい?」
「婚約者としてのお役目、承りました」
次は、ヒノカワ様との密談です。




