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ムササビ村の調査

 ミナミカゼさんの指摘を受けて、ムササビ村長(むらおさ)は、苦い顔になった。


「それが出来るなら、良いのだが……何度呼び掛けても色好い話がない。村から出た者は出た者で日々の暮らしに必死なんじゃ」


「そうでしょう。多くの村が、男手の確保に苦慮しています。移民、例えそれが単なる帰郷でも難しいのは変わりありません。人を引き寄せようとするなら、村に相当の魅力が無いと無理でしょう」


 ミナミカゼさんは、ムササビ村長の方から『村を乗っ取ってくれ』と言わせようとしている。エゲツなく酷いやり口だが、胸は痛まんな? 『誓約』が発動しないって事は『人への残虐』には当たらんのか……


「山犬村の例では、戦士を移住させたと聞いたが……」


「巡邏に必要な戦士です。彼らは、狼村の南西方向の巡邏基地として、山犬村を見ているでしょう。居心地がよければ永住する事もあり得ますが……、山犬村の因習に馴染めなければ、狼村に戻る事もあるでしょう。

 私の義理の母も、移住を経験していますが、辛い目にあって後悔した事もあるそうです。

 移民は、する方もされる方も気楽に考えてよい事ではありません。

 大戦に大勝利すれば、その点では遥かに条件の良い移住先が二つか三つ出来ます。シカ村の決断は聞いてますよね。

 新たな村は、新しい住人で一から決まり事を定める自由があります」


 此処まで言われると、何を要求されているか流石に気付くんだろうな。ムササビ村長が、最小限の条件を切り出した。


「村の名前が残り、今いる村人がこの近くで住み続けられるなら、何をどう変えて貰っても良いんじゃ。妖魔に皆殺しにされて滅びる事に比べれば……

 例え、奴隷のような扱いでもずっとマシだ」


「誤解して貰っては困ります。私どもは、決して今の村人を虐げるような気は有りません。

 ただ、私どもにとっても軽々しく扱える案件で無い事をご説明しただけです。

 仮に、ムササビ村を従属させて、連合から移民を募るとしても、解って無い事が多すぎて、何とも言い兼ねます。

 先ずは、調査をしょうと思います。この周りで何が採れて暮し向きがどうなるのか? 現在残っているのはどんな住人で付き合い易いのか?

 今回、十分調査して、持ち帰らせて頂きます」


「良い結論が出るよう協力は惜しみません」


「ありがとうございます。タツヤさんの方からは何か有りませんか」


「ワシの方は、珍しい石材や木材が無いか、彼方此方廻らせて貰う。村人が気付いていない特産品のネタとかあれば、移民が募り易くなる。岩場を魔術で砕く際に凄い音が出たりするから、周知して欲しい。調べる為に持ち帰るが良いかな?

 後、防衛方法を考える為に地形も調べさせて貰うよ。

 ミナミカゼさんには、村人の話を聞くのと既存の産物の確認を進めて貰うつもりだから、案内人はミナミカゼさんの方に付けて欲しい」


 適当な事を言って、村人にも秘密に調査をせねばな。



 土操作で表土を除けると茶色の母岩が見えた。鑑定では、高品位赤鉄鉱って出ているな。平地のド真ん中に鉱山がある事に違和感はあるが、鉱業も地質学も馴染みが無いからな。いつか……何百年か先に研究させよう。


 カシイワ師匠に決めていたブロックサインで合図してから、自然に聞こえるように注意して言った。


「見たことのない石だね。カシイワ師匠は知っている?」


「いや、ワシも見たことないが、結構脆そうで石器には向かんぞ。とはいえ、他の石材、木材は知っているものばかりだしな。駄目元で持ち帰って一通り試すか?」


「そうだね〜、変わった変化をする石だったら良いな。このままだと、移住を募るネタも無いし、荷物になるけど帰りに運ぼうか。

 それなら、破砕するから、皆んな耳を塞いで」


 次は、製鉄所の位置決めだ。機密を守れるよう、分村にしたい。多量の炭焼窯も併設する必要があるし、出来れば将来的に水車を作れる場所が良い。


「カシイワ師匠、この斜面は窯を作るのに便利そうじゃない?」


「そうだなぁ、直ぐ下に川があるから、窯専用の分村を作れるだろうな。切り開いて見なければハッキリしないが、川向うなら、田も作れるんじゃないか?」


「大構想だねw 先ずは、切り拓きながら、焼畑じゃないw この付近で木材や炭の需要があれば良いんだろうけど、どの村も自給自足が基本だからなぁ」


 護衛にも秘密の計画だから、詳しくは話せないが、ワシとカシイワ師匠の間では、分村の位置が決まった。


 その後、ミナミカゼさんと合流し、一晩泊まって連合への帰路についた。熊村に2月10日の夕刻に到着し、今回の使者の任務が終了した。


 実は、テン村から職人が既に来ていて、熊村の分村で防具作りの作業が開始されていた。分村には、各村から職人が集まり、テン村の職人と議論しながら、作業を進めている。計画では、一月ばかりで各々これぞ! というものを作り比較し合う事になっている。

 寸法を測って貰いワシの分も作って貰う事にした。


 ワシは、せめて打撃部隊と戦士長、村長分は防具を整備したいと考えている。強者から、整備を進めないと、意識が切り替わる訳はない。


 そして、2月12日にトンビ村に帰った。トンビ村を出たのが確か1月14日だったから、約一月旅暮らしだった訳か。長かったのか短かったのか、結構濃厚な日々だったな。


次は、アマカゼとのふれあいです。

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