村長宅での話
道具作りは、覚える事が多く大変だった。素材を選り好みする余裕などないため、手許にある石材・木材を上手く活用出来るよう知恵を搾るのが大変だ。
集中すると呼吸が乱れるため、無意識に出来るようになるまで、魔力操作の修行は若干停滞した。
夏頃、腕力がある程度ある事に気付いたカシイワ師匠が、自分用の武器を作る事を勧めてくれた。早速、自分用の石斧、弓、槍を作ったところ、毎日の訓練も命じられ、少し後悔した。
道具作りと武器の修練で話しをする村人も増え、ようやく全員の名前と職業を把握する事が出来た。少し驚いた事に村々を廻る旅商人的な人もいた。彼らの為にトンビ村にも一軒余分な家が建てられている。
季節は巡り、秋の収穫祭も済んだ頃、父に連れられて村長の家に向った。
「父さん、何があるの?」
「いいから付いて来なさい。村長直々にマルに話しがあるそうだ」
不安にしかならない事を言われて村長の家に入ると、そこには見知った3人の顔があった。村長のクマオリ、戦士長のハチカワ、呪術士のクサハミ婆さんの3人が揃ってワシに何の用だろう?
村長が切り出した言葉に不安は益々募った。
「悪いが、タチオノは席を外しくれないか、場合によっては村としての判断が必要なんじゃ。親とはいえ同席するのは遠慮して欲しい」
そう言って、父を追い出した後、余程酷い顔をしていたのか、ワシを安心させようと3人がそれぞれ話始めた。
「マルは、まだ5歳だが身体はもう7歳と言われても違和感がない。立派に育ってくれた事を村長として誇りに思っている」
「弓の練習風景を見たが、筋が良い。このまま精進すればきっと優秀な戦士になれるだろう。戦士長として一緒に闘う機会が来るのが楽しみだ」
「布も道具も採取も良く勉強しているようだね。皆から色々聞いているよ」
何なんだ?褒められて気持ち悪い。
3人は、目配せをし、呪術士のクサハミ婆さんが代表して言った。
「マルの命名の儀を次の新年に行う事を考えている。また、その後暫くの間、修行のため熊村に行ってもらう。その相談なんじゃよ。
余りにも前例が無いし、マルが耐え切れんようなら無理強いはできん。それで、まずマル本人の考えを確認したいんじゃ」
「修行って何をするの?」ワシは咄嗟に聞いた。
「父母と離れる事や、村を離れる事より、そっちの方が気になるんだね」
ギクと固まったワシを見ながらクサハミ婆さんが続けた。
「そんなに怯えなくても良いよ。ワシらは、マルには何か父母にさえ言えない秘密がある事には気付いているよ。
ただ、マルの頑張りから、村に害をなすような意図は感じなかった。大方、祖霊か神々から何らかの神託を課せられたんじゃろう。それなら、マルの力を健やかに伸ばす事がマルにとっても村にとっても最善じゃ」
殆ど見透かされている!とにかくこの場を乗り切るんじゃ。
「僕そんなんじゃ」警戒しながら呟いたワシに、クサハミ婆さんが続けた。
「ああ、秘密の中身を話す必要はないよ。誰にでも話せぬ秘密の一つ二つあるもんじゃし。時期が来る前に暴いても良い事など無い。
実は、ババはマルが魔術の修行をしているのには気づいている。誰からも教えられていないのにね。そこで、ここいらで一度信頼出来る魔術士に教えを請うた方が良いと考えている。だから、熊村のイモハミ婆さんを紹介しようと考えているんじゃ。うちの村と熊村との仲は良いし、イモハミ婆さんは、ババの母でもある。他の点を含めても最高の修行場所じゃ」
ワシは、クサハミ婆さんを信じて話しに乗ることにした。
「熊村までいくって、どんな修行になるの?」
「呪術士になるためには、薬になる動植物と風向き雲色といった風水の知識、一年を司る日と月の巡りの知識、様々な祝詞、沢山覚える事がある。基本それらを抑えていれば呪術士を名乗って良い。
しかし、それ以外に奥義たる技があるんじゃ。それは、魔法とか魔術とか呼ばれる。イモハミ婆さんは、若い内から魔術に目覚め、近場の村の中では、最高の使い手なんじゃ。マルにはまず基本的な修行法を学びに行ってもらう」
ワシにとっては、願っても無い話しだった。思わず飛び付いてしまった。
「僕、修行したい。魔法使えるようになりたい」
それから、話しはトントンと決まった。ワシは6歳で命名の儀を行ない、その後熊村で修行する事になった。命名の儀までの間は、クサハミ婆さんの所で呪術士としての詰め込み教育じゃった。しかも、男としての武器の修練も手抜きは許されんかった。
そうそう、名前は前世と同じタツヤとした。