イモハミ英雄詩
「いや、その二ヶ所は違うよ。弓矢を持つかどうかは、妖魔王発生とは直接の関係はない。
生意気にも、『名前』を持つボス大鬼が候補なんだ。
島全体で25の『名前』がある。シカ村南と南西の……この辺りだね。この二ヶ所が候補だよ。
トンビ村西のこの位置に、もっと成長した、『名前』持ちが居たんだけど、何時の間にか消滅した。
滅ぼしたのは、タツヤくんでしょ?」
「そう言えば、魔力矢を3発当ててようやく倒した奴がいたな。あれが名前付きという奴なのか」
「シカ村南西の奴は、トンビ村西の奴の名前を引き継いでいる。まだ、若いから、本命はシカ村南だね〜
ああ、『名前』の引き継ぎは、嫌な現象だよ。
島にある25の『名前』は、狩っても減らない。別の場所に、同じ名前の奴が出現する。昔、大戦発生を阻止しょうと5、6匹倒した時に判明した」
ワシとヒノカワ様で、村の広場に大きく地図を描いて議論をしている。多分、ヒノカワ様の地域情報把握も地図形式なのだろう。話が通じやすい。
「理想を言えば、無人地帯にある32の繁殖地の内、シカ村側から8、外側から14潰したいね。そうすれば、数で圧倒される事は無くなるだろう」
「そこまですると、大戦発生が早くなるよ。大丈夫なのかい」
「援軍確保の為の打通作戦は、春に進めるから、間に合う。無人地帯での作戦進捗に合わせて、時期が早まる事になるな。シカ村の方は大丈夫か?」
ワシは、アカツノさんに問いかけた。
「構わない。体調に気を付けながら、近場から作戦を始めている筈だ。夏までには終わらせる。それより、避難先の準備の方はどうだ」
「食糧は手配済だ。去年も豊作だったから、トンビ村から米を一月分事前輸送する事になっている。春に総出で運ぶ予定で、経路の確認を始めている筈だ。避難小屋の建設の方は、帰って進捗の確認が必要だ」
「避難小屋?」
「説明していなかったか。200人弱の大人数が短期間寝泊まりする為の巨大な小屋の建設を計画している。ただ、本当に作れるのか? の検討段階だから、余り期待しないでくれ」
「君たちは、マジで本気だね〜。これまでにない頼もしさに嬉しくて泣きそうだよ」
振り返ると、ヒノカワ様が、本当に薄っすら涙ぐんでいる。
「イモハミ婆さんのサーガのクライマックスなんだろうな。
成人したばかりの若い女性が、奇蹟により瀕死から立ち上がり、壊滅的状態の村を再建する。更には、何十年もの献身的努力で地域全体の状況を改善し、多くの弟子も育てあげる。
そして、妖魔への大反攻の狼煙を上げ、多くの勇者と共に勝利し、歴史的大転換を果たす。
永遠に語り継ぐべき伝説になるよ(T ^ T)
タツヤくん、そう思うでしょ」
ヒノカワ様が涙を流している! 実は、イモハミ婆さんの事をそんなに想っていたのか‼︎
「そうだ! 全くだ! 100の年月が何回巡っても残る様に碑文を作るよ。何十世代先でも正しく伝わるよう、サーガを岩に刻もう」
「?ちなみに、碑文とはなんだい? 言霊を岩に宿らせるような魔術なのかな?」
イカンイカン、端折り過ぎた。ワシは慌てて文字の概念を説明した。説明を聞いて、ヒノカワ様は暫く考えていた。
「タツヤくん。戦鬼って大袈裟と少し同情してたけど……真だったんだね。戦を有利にするためなら、想像外のエゲツない手を用意するんだ。
作戦に参加しなかったら、碑文とやらに村の名が残らない。つまり、永遠に臆病者の汚名を負わせるって事だよね。
何が、君を駆り立てるのか……頭の中を覗いてみたいよ。
ほら、態度が曖昧だった村の代表が真っ青になっている。そんなやり方だと、きみはマジで戦鬼として語り継がれるよ」
「それだけのことをしたし、此れからもやらざるえない。そんな風に評されるのも当たり前だし、覚悟の上です。少しでも有利にして、戦死者を減らす事が優先です」
あれ? 1人崩れ落ちた。ワシ、そんなに酷い事言って無いよね?
「まあいいさ。語り継がれる勇者の群れに参加するんだ。どの村も、志願者は必ずいるだろう。
言霊で思い出したけど、言霊の宿り木を整備しないか? 絶対量としては不利だけど、緊急時の魔力は節約出来るよ」
ヒノカワ様が説明を始めた。何でも、固定された宿り木の間なら言霊の魔力を大幅に節約出来るそうだ。緊急時に、言霊の魔力消費の影響で、動き始めるのが、数日遅れるのを防ぐことができる。
「魔力を注いで維持してくれる人が居ないと無理だけど、可能なら、此処と、熊村、シカ村、ホシカミさんのカラス村に置きたいな。
そうすれば、後10日位とかの事前警報するのが楽になる。
どう? テンヤさんスナコさん。協力してくれる?」
「此方こそ、是非ともお願い致します。ヒノカワ様のご厚情をスナコ共々この通り感激しております。
村を代表して、厚く御礼申し上げます。
貴重な魔術でお疲れになると思います。どうでしょう。今日もテン村にお泊まりになっては? 高名なヒノカワ様のお話を間近で聞きたいと、村の娘達も熱望しております」
その後、宿り木の設置と魔力矢の威力確認をして、ワシらももう一泊した。そして、翌早朝に帰路に就いた。帰りは、強行軍にしよう。
次は、連合に帰還して、打撃部隊を創ります。




