テン村での会議
三日後の1月26日の昼過に付近の村から代表が集まり会議が始まった。
何故か、説明済みのキジ村の者までいる。
大イカ村:テン村北北西約10km、海沿いの村
サメ村:テン村西北西約18km、海沿いの村
蟹村:テン村西約13km、海沿いの村
サバ村:テン村南西約16km、海沿いの村
ヤギ村:テン村南西約9km
キジ村:テン村南東約12km
テン村を除き上の6村が参加している。ワシとアカツノさんは、それぞれ七村連合とシカ村の方針を説明し、幾つかの質疑対応をした。
一通りの説明が済んだところで、テンヤ村長が本題を切り出した。
「シカ村が誘引をする予定ですが、此方に来る可能性もあります。その場合、テン村、キジ村、大イカ村の3村が前線になります。
抜かれれば、後方の村も無事では済みません。時期をみて、戦士を派遣して貰えないでしょうか」
「大戦では、全ての村が連合する慣わしだ。当然、そう対応させて貰う。伝令は、テン村から飛ばしてもらえるな。
タツヤ殿も言霊の送り先が、テン村一ヶ所の方が、魔力の節約になるだろう」
事前に根回ししてあったのだろう、ヤギ村長が即座に応えた。どの村も首肯しており、この話は簡単に済んだ。そして、テンヤ村長がより難題を切り出した。
「もう一つ、提案があります。シカ村は遠過ぎて、戦士を派遣出来ない。つまり、シカ村が犠牲を払って誘引に成功した場合は、此方の村々は何の貢献も出来ない。
それでは、忘恩の徒とか臆病者の集まりとか、謂れ無い誹りを受けるかも知れん。
そこで考えました。貢献方法を。無論、大きな被害を受けるシカ村への物資援助もあるでしょうが……闘う訳では無いので、誹りを免れ無いかも知れません。
よく考えたら、敵を減らす事が貢献になります。妖魔王に引き寄せられる、大鬼、小鬼を事前に狩ってしまうのです。
昨日、ご覧になったように、十分な戦力を揃えれば、繁殖地を蹴散らす事は可能です。
此れだけの村が集まって、7歳の幼児一人分の働きも出来ない訳は有りません。そんな弱音は、一言漏らしただけで、末代までの恥となるでしょう」
実は、昨日『実力を示して頂いた方が、大戦への協力が得やすくなります。』と煽てられ、戦士60名ばかりと共に、一つ潰して来たところだ。早めに来た村の代表は、殲滅された繁殖地跡を確認している。
「私らシカ村は、大戦までに6つの繁殖地を殲滅するつもりだ。七村連合さんは、可能な場所は既に殲滅し、尊い犠牲を二人出している。
此方側からも、一つでも減らしておいて貰うと感謝に堪えない。
説明したように、私らの夢は無人地帯の奪回です。此方にも住む村を奪われた方々が居られるでしょう。なにより、子や孫に少しでも良い世を残してあげたい。是非とも協力して頂きたい」
アカツノさんだ。さて、わしの番か。一応、言霊を使って、イモハミ婆さんとブナカゼ村長には相談済みだ。
「お願いします。ワシは、大戦は既に始まっていると考えています。敵の戦力を削ぐのは、大戦への参加と同義です。
此方にも、治癒術を使えるスナコさんが居られます。だから、十分な数を揃え武勇を存分に発揮すれば、犠牲も最小限に出来ます。
戦訓を伝える為に、此方からも誰かベテランを派遣しましょう」
皆が悩んでいる顔をみて、テンヤ村長がさらに話を進めた。
「勿論、この様な重大事を即決出来る訳は、ないと思います。難しい決断をするには村に持ち帰って議論が必要でしょう。
でも、作戦を開始出来る春までに真剣にご検討頂き、是非ともご参加下さい」
「持ち帰るまでも無い。大イカ村は闘う。無論、詳細はよく話し合わせて貰うがな。のう、キジ村も同じだろ」
「勿論だ。座して待つなど、馬鹿げている」
「他の村を盾にして安全を図るなど、末代までの恥、ヤギ村も参加する」
「ありがとうございます。皆様の勇気と厚情は、末永く語り継ぎます。
それでは、明日が新月なので、月がふた巡りした、新月の日を目標に、話を詰めさせて頂きます。
他の村の方も是非とも参加をお願い致します」
大まかな話はこうやって、テンヤ村長のシナリオ通り進んで行った。その後、折角の機会だからと地域内での議論が行われる事になり、ワシらは中座した。
鍛錬で時間を潰していると、ヒノカワ様からの言霊が届いた。
『タツヤくん、西の方に遠征しているのかな? それなら、顔をみたいので、何処にいるか教えて。
あ、宴会の準備とかは無くても良いよ。美味い飯と酒があれば十分だから、滞在している村の人に話通しておいて』
……まあ、どうせ今日は宴会だ。主賓を変えるだけで済むだろう。テンヤ村長に伝えるか……
歓迎する旨伝えて欲しいと言われたワシは、あえて皆の前で返信した。
「ヒノカワ様。ご無沙汰しています。トンビ村のタツヤです。今日丁度、大戦への対策会議の為に、テン村に付近の村の重鎮が集まっています。
親睦を深めるため、テン村長も、張り切りって宴の準備を整えています。皆で、高名なヒノカワ様のご来訪をお待ちしておりますので、是非ともお越し下さい」
宴会では、接待係の若い女性にチヤホヤされて……ヒノカワ様は、翌日の昼近くまで起きて来なかった。帰るのが、また1日延びた。
次は、イモハミ英雄詩です。




