貝貨の祟りとシカ村訪問
翌日の朝に、カニハミさんの紹介でマコさんという女性に会った。タコ村の貝貨の実質責任者だ。最初、酷く警戒した目で見られた。
「最近、フブキ様が残した昔話を手に入れてね。昔の話に興味を持っているんだよ。貝貨の運用を長年続けているなら、面白い話や教訓話が有るんじゃ無いかと。
ワシも貝貨を欲張り過ぎて祟りとかに逢いたくは無いんだよw」
「……そうですね。貝貨に祟られた話なら幾つかあります。村ごと祟られて悲惨な目にあった話でもしましょう。
その村は、新たに貝貨を発行しょうと長年に渡り技術を磨き、(中略)
貝貨の儲けで村人は丸々太り、(中略)
そして、誰も寄り付かない廃村となってしまいました」
良く、こんな長い話を諳んじられるものだ。つまりは、裏付け無く通貨を発行して、破産したって事だろ?
「いやぁ、含蓄深いお話しが聞けて大変勉強になりました。貝貨には奥深い秘密が沢山有るんですね。
此れから、連合周りの取引が増え、貝貨の流通に気を使うと思いますが、よろしくお願いします。何か、お困りの事が有りましたら、何時でも相談して下さい。7歳児ですが、精一杯対応いたします」
「それでは、大戦に必ず大勝して下さい。今、貝貨に祟られない為には、それが重要です」
確かにな。負けたら、いきなりバブルが弾けて、貝貨の行き場が無くなるな。心せねばならん。
一人感心していて、ふと周りを見ると、アマカゼとカニハミさんは居眠りしている。
長居し過ぎたの?
そう言えば、リュウエンさんらとの約束の時間だ。強行軍で今日中にシカ村に行く予定だった。
シカ村には、日没ギリギリに到着した。強行軍だったが、最近覚えた『疲労回復』の魔術が便利でワシもアマカゼも遅れずに済んだ。多分、明日アマカゼは筋肉痛で苦しむだろうから、介抱する人を頼んでおく必要があるな。
まあ、丸2日は滞在する予定だ。若いから、帰りには回復するだろう。
「多い上に、比較的遠い場所もある。大変だけど、本当に鑑定をお願いして良い?」
「それを言うなら、リュウエンさんらには長い間遊撃戦と殲滅戦に付き合って貰った。貸借りと考えると全く返せていない。
だから、大戦を有利にする作戦の一部と考えて欲しい。大戦に参加する村がそれぞれ出来る事をしているだけだ」
「調べたい繁殖地は9個だ。分散していて、1日では回りきれないけどお願います。その内、3つは弓矢持ちと見ているが、詳しい戦力は判明していない。
ああ、無論偵察隊を多数繰り出して、何が有っても遅れを取らないように対応するよ」
ワシらの滞在の手配をしてくれたリュウエンさんだ。
翌朝、ワシは七村連合を代表して、慶賀の使者への返礼を述べた。それと、大戦に対する七村連合の方針、全力を挙げての援軍派遣と女子供の避難先の確保も説明した。
「今回の大戦は、必ず大勝できる。皆さんが死力を振り絞れば、妖魔などもう怖がる必要ない‼︎ 妖魔を狩って狩って狩りまくって明日を掴み取ろう。
えい! えい! おー!」
耳が痛くなる程の大歓声が返って来た。聞いていた通り士気が非常に高い。
途中でみぞれの日があり、鑑定に3日掛かった。弓矢持ち繁殖地の一つは案外戦力が低いので、シカ村の士気高揚も兼ねて殲滅した。
リュウエンさんはもちろん。女性のリュウセツさんも、勇んで前線に出張って来た。繰り返すが、士気は非常に高い。
そして、1月5日の日没前にタコ村に戻って来た。
村々の取引の交渉も終了したようで、タコ村に残っていたのは、トンビ村の衆と熊村の衆だけだった。そして、夕食後、もう一つの密談が始まった。ムササビ村の話だ。
「ムササビ村を乗っ取る方法に悩む必要は無くなった。軽く話したように、山犬村と同じ条件で構わないから、従属させて欲しいと使者が来ていた。
だから、いつ頃どんな段取りで乗っ取るかに、話の焦点を移そう」
ブナカゼさんが要件を切り出した。
「時期は、大戦の後にしないと戦士のやり繰りに支障が出るね。段取りというか、経路の確保にも課題があるか…遠くて日帰りで見回るのは難しい位置だよね。採掘だけするか、そこに工房も造るか? うーん。どちらにしろ一度現地確認は必要か…」
「そういう段取りもあるが、先ずは人材の検討だろ。名工については、カシイワ一択で、『場合によっては家族と別れてでも』と覚悟も固めている。
より問題なのは、村長のなり手だな。熊村に腹案があるのではないか?」
クマオリ村長だ。そっか、そっちの方は余りアイデアが無いな。
「相談したかったのは、正しくその点だ。実は、熊村の村長レースが微妙な時期での…今こんな話を振ったら拗れるんだ。
だから、出来れば他の村から候補を出して欲しい。トンビ村に候補はいないか?」
「他村の村長になる事は、村長レースに敗れるのと同義か……難しいの。
だが、話だけはしてみるさ。要は、ミナミカゼとトリハミを出して欲しいという趣旨じゃろ」
ワシには、全く分からんかったが、クマオリさんとブナカゼさんは、通じあったみたいだ。
次はミナミカゼの決意です。




