火魔法兼用方式
トンビ村の窯は、東側にある斜面を切り拓いて正に今、造られている最中である。堀がある為判り辛いが、村は低い丘陵の裾にあり、窯のある斜面と連続している。当然丘陵の頂上には物見櫓がある。
翌日、ワシらは再建された東の門から斜面に向かった。複数ある窯の内、小型の試作窯を使って作業をするつもりだ。
火魔法兼用方式と名付けたが、実質単なる思い付きだ。火炎操作による温度上昇の促進、遠視の応用による焼け具合の直接監視、魔力操作と魔闘術の応用による窯内配置の変更を組み合わせるだけだ。上手くいけば、一回の試行で釉薬を成功させられる。
無論、手順は複雑だし、体力と魔力が持つかもある。失敗する要素は沢山ある。だが、『失敗は成功の元、そもそもタツヤが楽しめれば、それで十分だw』とカシイワ師匠は非常に好意的だ。
汗を拭ったり、水や食料を運んだりとアマカゼにまで色々手間を掛けさせている。何くれと世話を焼かれると普通に嬉しく、心が満たされる。だから、素直に『可愛いね』と言ったら『バカ』と返された。先は長い、少しずつでも信頼感を育てて行けば良いさ。
何とか爆発とかも無く、夕方には焼き上がったようだ。燃え残りの燃料をある程度掻き出し、朝まで放置だ。
家に戻ると、家族とソメアサ師匠がいて、明日の旅立の為の打ち合わせを行った。ソメアサ師匠が焼き上がりを如何しても観たいと主張して、出発は昼となった。
なお、アマカゼにお財布の内容を説明されて、涙目のアカユリ姉を『私が理解しているから大丈夫』とソメアサ師匠が宥めていた。
翌朝の窯出しには、焼き物造りに熱を入れている男女が10人以上集まっていた。2つ失敗作があったが、最初としては合格点だ。特に、前世で読んだ『馬鹿でも創れる美肌焼』の通り調合した透明釉は成功だ。ソメアサ師匠が喰い入るように調べている。
釉薬が完全に流れ落ちている物と歪みが生じた物の失敗作2つも、温度の問題だろうから同時に焼かなければ何とかなるだろう。後の試行錯誤は、他の人に任せよう。挑戦したい者は、何人も居そうだ。
「ほぼ予想どおりだね。昨日の繰り返しが入るけど、説明して行くよ。混ぜる粉毎に、適切な温度と出来上がりへの影響が違う。まず、失敗したこれは釉薬が熔ける温度が低すぎて……」
「複雑過ぎて覚えきれない。手分けして試すしか無いけど、悔しいね。全て覚えて整理できるほど頭が良くないと、美に近づけ無いのかい?」
ワシの説明で頭が痛くなったのか、コミカメを揉みながら、ソメアサ師匠がそんな悲嘆を零した。ワシの完全記憶は反則技だからな〜。
「ようやく分かった! 文字があると難しい事を考えられるってそういう事だったのね。配合毎の変化を木簡に書いて並べて比較する。そして気付いた事を更に木簡に書く。そうすれば、どんどん考えが深まるわ‼︎ 」
アマカゼが突然大声を挙げた。大声にも驚いたが、それより、その一種の哲学的思考に驚いた。欲目かもだが、アマカゼは天才なのかも知れない。
「文字って、筆と墨を欲しがった時に言っていた言葉だね。絵を描く気も無いのに欲しがるから、不審だったけど、何か美に繋がる秘密があるんだね。
今は旅立ち前で時間がないけど、後で教えてね」
釉薬の善し悪しを議論している輪を抜けて、カシイワ師匠に近づいた。此処から見て気付いた疑問を解消する為だ。
「此処から見ると、西の田んぼを野焼きしたように見えるけど、排水路とか整備したの?」
「そうか、タツヤやアマカゼの歳だと知らんだろうな。排水路は元々ある。今まで、冬も沼田にしていたのは、村の防衛の為だ。
10年程、排水できなかった影響で収率が落ちていたが、野焼きもして、来年は大豊作確実だ。ついでに、本来は冬野菜も作るんだ。今年は、田を拡げる事に注力するがな。
ハテソラさんが調べて、クニ時代の遺構も案外残っている事が分かっているから、暫くは田をドンドン拡げられる。
そのうち、七村連合内では食いきれなくなるかもなw」
戦い続けた成果はこんな所にも有るんだね。何か報われた気がする。戦死した4人の家族も、そう感じれたら良いな。
でも、田の拡大に力を注ぐ中、窯を増やすのは大変だろうな。
「カシイワ師匠、ワシは、明後日には移動する。だが、今日・明日だけなら、窯造りに協力出来る。土操作を使えば穴だけなら比較的早く掘れる。
候補の場所とか形状とかを教えて欲しい」
「貴重な魔力を使わせて悪いな。でも、焼き物はトンビ村の特産品として重要になる。だから、窯は増やすべきだが、その分頼まれた『ふいご』が遅くならんか懸念していたんだ。
穴だけでも掘ってくれると捗って助かる」
そして、その日と翌日は、魔術での穴掘りと、ハテソラ師匠に案内して貰っての遺構と地形確認で過ごした。
終わってみると、結構、充実・リフレッシュ出来た休暇だった。そう言ったら、アマカゼに笑われたけど。
次は、アマカゼとの海岸散策です。




