新年の祭り
しばらく、毎日投稿を挑戦してみます。
採取に参加するようになって、更に忙しくなった。小さい子供に混じって遊べるのはせいぜい7日に1回になってしまった。
魔力操作取得の呼吸法に割ける時間も減り、採取の合間の休憩時間に所構わずやっている。変に見えるかもしれないが、息を整えているだけと誤魔化している。
ワシが参加している採取班は、子供への教育担当班だ。
リーダーのハテソラさんは、若くまだ独身ながら、こんな役を任されるだけあって知識が豊富だった。さらに、投石や弓矢も上手く、誰よりも早く獣に気付き、さっさと狩ってしまう。意思の強い表情と合わせ、前世のファンタジー映画で出てきた『森の妖精(男性)』というイメージを受ける。
若衆も優秀だし、危険があるならかなり早い段階で退却を開始する。そのため、慌てて逃げ出すような事は一度もなかった。
この班は、その性質上出来るだけ彼方此方回って、幅広く覚えさせる事を重視している。その為、覚えることは多いはずだが、余り苦にならない。
そう、採取するようになって身体だけでなく頭脳も異常に高性能であることに気が付いた。多分、罰の一つ『完全記憶』の効果なのだろうが、一度行った採取場所や教えられた草木の特徴をさも今見ているかのように思い浮かべられる。写像記憶というものか?
さらにどの品種に対応するか考えていたら、前世の植物図鑑の挿絵が浮かび上がった。さすがに、驚きの余り叫びそうになった。
まさかと思い、家に帰ってから色々試した結果に絶句した。
・前世を含め全てを写像記憶している。
・古いこと、関心の低いことは流石に時間が掛かる
・集中する事が必要な場合がある
ワシは、どこまで弄れてしまったのだろう…
そんなこんなで、採取に参加するようになってから2カ月ほど経ったある日、父が言った。
「村長から5日後が新年だと連絡があった。リンの命名の儀の準備をしなければならない。リンは名前をきちんと考えているか?」
リンの代わりに母が応えた。
「アカユリが、良いと思います。婆さんが亡くなって三年、血縁者の中で今年命名の儀をするのはリンだけです。それに、婆さんは織るのも編むのも上手かった。手先が器用なリンの名前として相応しい」
「そうだな、そういう意味では良い名だなぁ。リンは、アカユリ婆さんを覚えているか? 良く遊んでもらったよな」
「父さん、覚えているよ、遊んでもらえなくなって寂しかった」
「リンは、アカユリで本当に良いか? 自分の名前なんだから、希望があれば何を付けてもいいぞ」
「アカユリで良い。いつまでも婆さんを覚えていられそうだ」
父がリンに確認して話は終った。
ありがたい事に新年の日は晴れていた。
暦が無いから、年の始めを村毎に決める必要があり、その日に命名の儀も元服も行うのか……理解は出来るけど誕生日が無いのはなんか寂しいな。
当日の朝そんな事を考えながら村の広場に向かった。
広場には祭壇が設けられ、村人が大勢いた。全員いるか確認するように村長が周りを見渡した後、おもむろに語り始めた。
「弱まっていた太陽の勢力は、今日復活に転じ、また新しい年が始まろうとしている。去年は、収穫も良く赤児も沢山産まれた。今年もより大きな恵みを得られるよう、祖霊に努力を誓い、神々に祈りを捧げよう。
トンビ村を代表して、新年の始まりをここに宣言する」
それから、
・去年産まれた子の紹介
・命名の儀
・15歳の元服
・村の役付きの挨拶
・特別な功績者への表彰
・死者への挽歌
と祭りは進んだ。グズる子供は、すぐに他の場所に追い払われたが、ワシは、静かに歌や踊りを楽しんでいた。
食べ物や飲み物が運ばれ、騒がしくなっていった。ワシは、一人でも多く村人の顔を覚えようと、見知った顔がある話の輪に紛れ込んでいた。
酔っ払ったのか顔の赤い男がワシを見つけて、怒鳴った。
「何で、5歳の子がこんな所にいる‼︎幾ら何でも背伸びし過ぎだろ‼︎」
怪しまれた事に内心オロオロし、自分の迂闊さを呪った。
「確かに。理解出来ない大人の話など聞いても退屈だろうね。背伸びしたいなら、村に伝わる踊りを覚えた方が良いよ」
近くにいたハテソラさんがそう笑ながら、ワシの手を引いていった。
広場の反対側では、拍子に合わせて20人ばかりが踊っていた。ワシもハテソラさんに連れられて、その輪に加わった。見たことの無い踊りに最初戸惑っていたが、案外動けるもんじゃ。何曲か踊ったところで、怪しまれぬよう広場を抜け、家に帰った。
あとで、村人について覚えたことを整理したが、顔が分かるのが8割、名前が分かるのが5割、職業まで分かるのは精々3割程度しかない。自分の住む村についてさえまだまだ知識不足だ。
冬の間は、採取の頻度は少なくなったが、代わりにアカユリ姉と一緒に、叔母のソメアサさんに布の作り方を教えられ、やはり遊ぶ時間は少ないままだった。