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スミレ坂の勲功

 あれ程の惨状でも、総合的に見て作戦は()勝利と評価された。


 結果的に戦死者は、火弾の直撃を受け即死した、狼村の戦士長のトシオさんだけだった。


 戦士長として前面に立っていたから狙われたんだな。


 それ以外の戦士数の減少は、頭を射られた3名だ。

 彼らは、少なくとも半年は、戦士から外れる。頭の負傷の場合、技能や人格に変化が起きる事があるからだ。親しい人が長い時間を掛けて変化を確認し、必要なら再訓練を行う必要がある。

 話しを聞く限りでは、前世での脳外傷に比べると変化が少ないようだ。魔術で損傷箇所の機能そのものは強引に直しているのだろう。


 負傷者数も最初の殲滅戦時の惨状に比べれば少ない。治癒術士も多く、戦闘から5日経った今日対応が終了した。


 スミレ坂は、戦闘後2、3日無理に冗談を言おうとして痛々しかった。ウオサシが一生懸命慰めていたのが功を奏したのだろう。次第に落ち着きを取り戻した。ただ、前より厳しい表情が似合うようになってしまった。誠に済まん事をした。


 刃は怖い。内臓を酷く傷付けられ、スミレ坂が居なければ助からなかった者が何人もいる。

 その惨状で吐きながらも何人もの戦士を救命したスミレ坂は、当然ながら信者が増え、陰で『神々しさが増した』と拝まれている。そんな扱いを好む娘で無いのに…


 一方、ワシは単なる『鬼』から『戦鬼』に昇格したようだ。褒められる理由は無いが。甘んじて受けよう。滅びを防ぐには(もっと)もっと前進するしかないのだ。



 そう、スミレ坂と言えば、治癒術がレベル2に上がっている。戦闘によるSP取得なのだろうが、直接殺傷しなくても取得出来る事は少し意外だった。後方で戦傷者の対応をしている治癒術士はSP取得した気配は無いのに、どんな条件なんだろうか?


 クエストの情報では『戦果への貢献度』らしいが……謎だ。何者が決めているのか?あるいはどんな基準で定まるのだろうか?

  無論、スミレ坂の貢献は大だ。単なる勝利を大勝利に変えたのは、スミレ坂が踏ん張って任務を果たしたお陰だ。それを否定する者は、面罵した上で、見習い戦士扱いにしてやる。


 そしてワシは、何故か火炎操作と土操作を取得した。確かに……一瞬如何(どう)しても欲しいと思ったのは確かだが……此方の選択基準も謎だ。


 スミレ坂が落ち着いたならやるべき事がある。ワシは、スミレ坂とウオサシを探した。


「今回は余りに過酷な任務を割り振って本当に申し訳ない。でも、スミレ坂様が頑張ったお陰で大勝利を収める事が出来た。二度とこんな酷い事が起きないよう重々注意するので許して欲しい」


 スミレ坂とウオサシを小屋に招き入れて、心の底から平伏した。


「あはは(^○^)、面白い。タツヤが私を様付けしている。

 謝る必要無いよ。イモハミ婆さんを押しのけて志願したのは私だよ。一寸無様な姿見せたけど、その分彼に優しくして貰ったから大丈夫よ。

 私も彼もお互い惚れ直して、結婚するのが待ち遠しいわ。寧ろ、『良い機会を与えてくれた』と感謝したい位よw」


 どうやらワシが百面相する番のようだ。


「結婚云々は、本筋じゃないが。本当に謝って貰う必要は無い。寧ろ、僕も彼女も覚悟を新たにした。より、厳しい任務を割り振ってくれ。

 十分話したから、心の奥底の想いを感じる事が出来る。彼女の言葉は誠だ」


 惚気(のろけ)られる番でもあるようだ。


「しかし、まだ少女のスミレ坂に怖ろしい経験をさせたのは事実だ。もっと良い手段を編み出すべきだった」


「あはは、面白い。またタツヤが大馬鹿者になっている。私が少女なら、タツヤは幼児よw 本来まだ自分の名を持たない歳よw でも、今『マル』と呼ばれたら困惑するでしょ。

 まあ、そんなことより、どちらかと言うと、誰も戦士扱いしてくれない事が不満だわ。

 戦死したトシオさんには、『戦士長なんて、狙われ易い危険な立場を割り振って申し訳ない』なんて言わず『勇敢』とか『模範』と言っているよね。ウオサシは私と同じものを見たけど謝る気なんて欠片も無いでしょ。

 この違いは、私が戦士とは見られて無いからだよね。でも、志願した時に闘う覚悟はしたわ、私も。

 無様晒したからって、覚悟まで疑われるのは心外だわ」


 ワシの謝罪は、覚悟を疑う事になるのか……そうだな、初陣で無様な奴は何人もいた。でも、一合でも切り結べば、一矢でも放てば、『初陣にしては立派』と評するな。その基準だとスミレ坂は『初陣とは思えぬ破格な戦果』だ。その上で戦士扱いを希望するなら応じるのが礼儀だろう。


「スミレ坂の覚悟に気付かなかった。だが、言葉を返すようだが、スミレ坂を戦士扱いしているものもおわす。

 祖霊と神々がそうだ。

 高揚の魔術が有効なのも、今回治癒術がレベル2になったのも、スミレ坂も戦士なのだとすれば全て説明がつく。

 村長(むらおさ)や戦士長やワシがどう誤解してたとしても、この世の法則は曲げられん。スミレ坂の戦士としての名誉を守るよう、ワシから進言する」


「判ってくれて嬉しいわ。でも女としては、讃えられるだけでなく、結婚時の祝いの品を増やして欲しいわ。

 可能なら私の成人と同時に結婚したいけど……準備が全然足りないのw」


 なんだと! 予想より半年以上早い。村長さん大変だ‼︎


「その件も合わせて進言する。最大限希望に沿うように努力する」


次は、この世界のお金についての話です。

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