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山犬村の服従

 しばらく沈黙していた山犬村長(むらおさ)が、七村連合に従属することを申し出た。

 幾ら村長といっても思い付きで言って良いのか? ワシは、確認の為に質問した。


「村人全ての運命を変えてしまう話ですよね? この場で、軽々しく議題にして良い事では無いのでは?

 後で、『従属の話は村人からの支持を得られませんでした』と言われたら、お互い激しく困ると思うのですが?」


「従属の話は何年も前から、そこに居られる熊村長や狼村長には、ご提案している事です。防衛する負担が大き過ぎると断られていますがね」


「そうですか、経緯を知らず失礼しました」


 う〜ん、ワシの知らない三村での密談とかあっても不思議じゃないしな〜。でも、やり辛いな〜。此方側だけでの情報の擦り合わせが必要だなぁ。


「今、ワシらは七村連合の使者として来ています。連合としては、突然の申し出なので即答は不可能です。しばらくワシらのみで話たいので、場所を貸して貰えませんか?」


 ワシらは村外れの空き家に移動した。護衛に周りを警戒させた上での密談だ。


「この申し出の可能性については、先に話し合っておくべきだったな。連合成立前後では、話が全然違う。

 山犬村は、いつ滅びても不思議じゃない。既に誇り云々言える立場で無いからな。

 そういえば、先日の使者にはこの話はなかったのか?」


 熊村のブナカゼ村長が狼村のヤクモ村長に問いかけた。


「そう言えば『また、うちの村に従属したいと言っていた』と報告を受けたが、馬鹿げた話とまともに取り合わなかった。実は、七村連合への従属の話だったのかもしれんが……だったらワシの落度だ済まん」


 書簡も無いし、この手の連絡ミスは多いだろうな〜。というか、前世でも意図が正しく伝わる事は稀だったかもしれん。


「ヤクモ殿は、この話どう見る? 連合にとって良い話か悪い話か?」


「???どうもこうも? 女はかなり残っているから、子供は沢山増やせる。狼村の安全圏を作った後なら防衛も問題無い。怪我人もカスミユリ姉さんが対応できる。

 再生の費用は重いが得ではないか? 課す貢ぎ物も、(しぶ)とか(ろう)とか松ヤニとか女でも集められる物を指定すれば良いだけだ。

 考える必要もないほど自明に良い話だろ?」


「それもあるが、連合内に不和や不満が生じたりしないだろうか? 連合ができて、まだ数ヶ月、盤石とはとても言えん」


「貢ぎ物の分配は、防衛に掛かる負担も加味して決めれば良いだろ? 多少取り分が少なめでも狼村は我慢する。連合があって始めて成立する話だからな」


 ブナカゼさんとヤクモさんの間でもかなり温度差がありそうだな。他の村にとっては更に唐突だし、連合内で話がまとまるかな?


「そういえば、タツヤはどうしたい?」


 しばらく、二人で議論していたが、突然ブナカゼさんがワシに振って来た。うん? ワシの意見も聞いてくれるの?


「僕はまだ6歳で村々の交友への影響が全然読めない。山犬村を従属させる事で七村連合が『強欲よ』と警戒されるのか、『甘い』と侮られるのか、あるいは当然の話なのか……

 別の視点も沢山あるだろうし、これは村長の間で議論して決める話だと思う。

 その上で意見を言って良いなら、三つの条件付きで受けるべきだと思う。

 一つは、従属の証しとして、村長を変える権利を持つ事

 二つ目は、従属の儀には他の村も呼んで証人にする事

 三つ目は、従属を解消する条件を明示しておく事

 」


「一つ目は、貢ぎ物を確実に取る為、二つの目は他村の警戒を緩和する為で判る。しかし、三つ目は山犬村側が得なだけで連合にとって損では無いか? 私には意図が解らん」


「反抗を抑える為に戦士を使いたく無い。物凄く無駄だ。

 二十年もすれば、山犬村の戦士数は回復する。そうすると従属している事の不満から反抗が起きる。まあ、反抗しても戦力差で抑える事は出来るだろう。

 でも、貴重な男手をそんな無駄な事に使いたくない。少しでも多く魔物を狩ったり、田を広げたりした方が効率的だ。

 そして、その時の山犬村は、従属を解消する為に、貢ぎ物なら沢山用意するよ。きっと」


「がはははは‼︎ワシには真似出来んほどだ。流石は、ヒノカワ様に『引くほど効率重視』と言われるだけはある。ついでに、20年後の若い新妻も確保するのかw」


 ワシとブナカゼさんのやりとりを聞いてヤクモさんが爆笑した。この人、女オンナと(うるさ)いな。妻が三人いてまだ欲求不満なの?


「一考の価値はあるが、この三人で決める訳にはいかんな。とはいえ作戦を遅らせる意味も無い。ここは、私が預かって、ふたつだけ告げて帰ろう。

 一つは、従属する場合の条件は、新年の儀の頃までに七村で決める事。

 もう一つは、その結論によっては村長に隠居して貰う事。

 歳とった村長にも厳しい『鬼』との悪評が、タツヤに付くが気にしないよな? 隠居など、発案するのは此処ではタツヤしか思い当たらないだろう」


 ブナカゼさんが話をまとめた。


「ついでに、重傷者の救命と一人分の再生をして行くよ。大鬼(おおおに)を倒す魔力位は残せるし。

 再生の費用なんて山犬村では弁済不能だろ? これで、山犬村側からの従属の申出撤回は困難になる。

 後で気が変わったとかで振り回され無くなる分効率的(・・・)だw」


「少しは、風評も気にした方が良いぞ。妻が三人と妾が二人いるワシに言われたくは無いかもしれんが……」


 何故か? 自虐ネタを真に受けたヤクモさんに本気で心配された。あれ? やり過ぎた?


次から、前後編で戦闘を書きます。

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