新戦法の検討
次の日は、遠視と魔力矢の習熟を行う事にした。殲滅済の繁殖地を訓練場に、矢の放ちと遠視の発動、魔闘術による矢の操作の総合的訓練だ。
戦力強化に繋がると戦士達は凄く協力的だ。標的設置係、観測係、伝令と即座に役割分担を決め対応していった。何度も反省会を挟みながら50回以上訓練し新戦法を編み出した。以前から練習していた遠距離の連続狙撃の発展形だ。
最初の魔力矢を追いかける形で視点を移動させる。繁殖地が見渡せる位置まで視点が移動したら、魔力矢の軌道修正に集中し、的に当てる。即座に二の矢、三の矢を放ち、後は、軌道制御と矢の射出を交互に行い、一気に10標的程度を処理する。この一連の攻撃を30秒程度で行う。
この攻撃の最中に本隊が雄叫びをあげながら侵攻すれば効果は絶大だろう。
早速その夜に幹部達に相談し、殲滅戦に導入した。効果はやはり圧倒的であった。実戦で多くの改善点が摘出されたが、今後はこの新戦法が前提となるだろう。なお、最も大きな改善点は、高揚を掛けるのを部隊の3分の一とし、連日殲滅戦を行う方式だろう。
妖魔を怯ませる為に人数は減らせないが、実質戦力は下がっても良い。元々、高揚無しで勝利出来る人数なのだし。ただ、追撃の為に脚の早い戦士がいた方が良い為、ある程度は高揚が掛かっていた方が良い。
更に、戦場整理に女性や戦士志望の子供も動員し人手を確保する。採取時の心得として、狼や熊への対処方式を知る女性は案外いる。
なお、リュウエンさんらは、所定の訓練に10日程掛かった後は、第二遊撃隊として精力的に活動している。毎朝夕、僅かながら時間をとって互いの魔術の実演をし合って関係も良好だ。早く、魔闘術と高揚を身に付けて欲しいものだ。
そして、作戦は狼村ステージに移行した。
熊村方向は既に掃討が済んでいる事もあり、狼村起点で対象となる繁殖地は5つである。連合の視点で厄介な点は、南西方向にある山犬村の扱いだ。この村は、狼村起点で作る予定の安全圏内にあるが、援軍要請に良い返事がない。
事情は推察出来るのだが、今後の他の方面での交渉への影響を考えると……頭が痛い。
善後策を話し合うため、ワシ、狼村長、熊村長で護衛を伴って山犬村に向かった。途中、最も詳しいヤクモ村長から話を聞いた。
山犬村は、人口は50人程度だが、戦える男は10人程度まで減少している。村の近くに繁殖地がある事もあり、村の生活は厳しく、いつ滅びても不思議ではない。
「他人事とは思えないのだ。熊村との関係を最優先していなければ、狼村も同じ状況に陥っていたかも知れない。ホシカミ婆さんの勧誘に応じて、カスミユリ姉さんを修行に出す決断をしたが……暴挙だと父上は随分陰口を叩かれたものだ。
しかし、結果としてそれが山犬村と狼村の分かれ目だった」
ヤクモさんが正直な想いを口にした。
山犬村到着後、直ぐ村長らとの話し合いを行った。以前のタヌキ村の例を紹介し、最低限として熟練戦士を5名だして貰えれば、七村連合としては面子が立つと主張した。
「あの繁殖地が無くなるのであれば、戦士以外なら何を出しても良いのだが、戦士を5名も出したら村の防衛が不可能になる。どうにもならんのじゃ許してくれ」
状況を詳しく聞くと、頷かざる得ない程状況は酷かった。
現状山犬村に居るのは、命名の儀前の幼児を無視して次の49名だ。
・未成年の男8人と女8人
・成人女性21名
・成人男性12名
だが、成人男性のうち現時点で村の外で戦えるのは、村長と若衆を含めても6人しか居ない。
2人は60越えの老人、3人は手足の一部を喪っており村外での戦いでは支障がある。最後の一人は正に今、重傷で明日も知れぬ状態だ。
これは、どうしょうも無いね。アイデアとして、戦える女性を出して貰うってのが浮かぶが……実現性が無いね。
この世界、女性を戦士数にカウントする事に凄い忌避感がある。遭遇時や防衛戦で戦わせる事自体は気にしないのに。
戦場整理に女性も動員しようと提案した時には、大騒ぎになったよ。これは、剥ぎ取りであって戦闘じゃないって納得して貰ったけどね。
「とはいえ、何の負担も無く山犬村が利益のみ得るような前例は、七村連合が舐められる事になるから困る。俺としては、狼村の為にも取り除きたいが……位置が位置だけに他村の理解が得られるとは限らない」
ヤクモさんの発言だ。襲われるのは、山犬村が先だし、狼村が利用し易い場所でも無いしね。
ヤクモさんは、説明を続けた。
「しかも、うちの連合には、イモハミ婆さんがいる。打診されたような、人を特に女を貢物扱いする提案には良い顔をしない。更に、誰とは言わんが、一生食わせねばならぬ娘より、期間限定で良いから男手が欲しいと言う、超効率主義者もいる。
勘弁してくれと言われても簡単な話では無いんだ」
後半は、ワシの事か⁉︎ 客感的に見て否定はできんか……一寸傷心しちゃうなw
山犬村の話が続きます。




