リュウエンさんの修行
村に戻った時、丁度ワシ、ヒノカワ様、イモハミ婆さん、リュウセツさん、リュウエンさんの5人が揃っていた。
「お願いだ。僕に、魔闘術と高揚を教えて欲しい」
いきなり、リュウエンさんが頭を下げた。うん? よそ見していたようには見えなかったんだが?
「今日は、魔力をかなり使ったから、明日朝でよければ実演するよ。特別な修行法を期待しているなら、そんなの無いよ」
「リュウエンは、暫くタツヤ殿と共に修行したいと頼んでいるんだよ」
「それは……ワシは構わんのだが、遊撃隊のメンバーが何と言うか……余り忍び足とか弓矢に熟達しているように見えないし……」
リュウセツさんの指摘で誤解に気付いたワシは、言葉を濁すしかなかった。修行? いやいや。魔物を沢山倒すしか無いよね。
「魔術の修行と忍び足や弓矢になんの関係があるんだい?」
「ワシの魔術の多くは、遊撃隊と共に倒した魔物から力を吸い取った結果取得出来たものだ。そのため、足手纏いにならないように忍び足や周辺警戒の技術が必要なんだ」
「修行に付き合う熟練の戦士をシカ村から送って貰えれば、何番目かの遊撃隊として遇する事は可能かもしれん。村長らと相談する必要はあるがの。
シカ村の籠城隊内に高揚と魔力矢を使える者が居れば、戦いはより有利になる」
ワシの説明にイモハミ婆さんが捕捉した。
「今後の予定は、村長会議で決めるんだよね? その時一緒に議題にするの? なら、遊撃隊だけでなく、殲滅戦での止め係も提案すると良いかもね。陰惨で手柄とも数えられない仕事だけど、少しは力を吸い取れる」
「タツヤ君は、幼い顔に似合わず、エゲツない程効率重視だなぁ〜。おじさん、少し引いちゃったよw」
ワシの提案にヒノカワ様が枯れた笑い声をあげた。あちゃー失敗したよ(~_~;)
個別に積もる話をする人もいる事から、魔術士達に今日は泊まってもらう。そして、ワシとイモハミ婆さんは七村連合の村長会議に出る事になった。以前の密議の参加者に加え戦士長らもいる。こちらも参加者が16人もいて、普通の竪穴式住居だと狭くて息が詰まる。
連合参加の村を大幅に増やすために、ロングハウスかせめて仮設テントが欲しいな。
魔術士達で勝手に話を進めたにも関わらず、『それしか、あり得んだろう』と話はトントン進んで行った。ただ、シカ村が掃討に成功して、再び大戦発生位置が此方に移動する懸念が狼村から強く指摘された。それもあって、来年秋までに全ての村の安全圏を作る方針が固まった。
順番としては、熊村、狼村、クラゲ村、タコ村、クジラ村、山猫村の順だ。仮に、大戦で援軍を送る約束をする村が有れば、そことの打通も考慮する事になった。
なお、人のやり繰りの問題から、大規模動員するのは出来るだけ短くしたいとの意見が強かった。その為、他村からの動員は、10日後の情報公開時に募る若者を中心とする。リュウエンさんの参加は、二つの条件付で歓迎と決まった。
一つ目は熟練戦士を数名シカ村から派遣する事、二つ目は遊撃隊参加の為の所定の訓練をクリアする事である。当たり前と言えば当たり前の話だ。
その話をリュウセツ、リュウエンさんにした所、連れて来た護衛を置いてリュウセツさんが帰ると言い出した。クジラ村までは、シオカゼ村長と一緒に帰る。そこからは、シカ村から迎えを派遣する。ヒノカワ様が、シカ村に残っているタツハナさんにメッセージを送ってくれ、それで本決まりとなった。
皆んな凄く協力的だなぁ〜。
なお、狼村と山猫村は、熊村に近く、熊村起点で作る安全圏内に入ってしまう。その為熊村起点の作戦には兵を出す。同じく安全圏内に入るため、連合外だが鷹村にも援軍を出すよう打診する方針だ。
熊村の安全圏の直ぐ外のヘビ村とも交渉する予定で、その結果によっては殲滅する繁殖地が1つ追加され、5になる。
それらの段取りが定まり、リュウエンさんと護衛達は直ちに所定の訓練の内容を確認するため、戦士小屋に向かった。
なお、どの村も同じだが、戦士小屋は何個かの竪穴式住居を隣接結合させた構造をしている。そこに、成人前から結婚するまでの男が寝泊まりしている。他村からの戦士が来て手狭になると、彼らは両親の家に寝泊まりする。
似たような物に機織り小屋があり、此方は未婚の娘が利用する。当たり前だが、どちらも異性の出入りは基本禁止だ。この禁忌は比較的強く、違反者──特に悪質だったり複数回の場合──は、村から追放が課せられる決まりだ。
縦長のロングハウス式にした方が面積が稼げるような気がするな。熊村の分村なら土地も有るだろうから、提案してみようかな。
さて、リュウエンさんらの目がない内に残りの要件も片付けよう。
次は道具開発についての話です。




