大戦対策会議
熊村の離れに魔術士達が集まった。秘儀の話があると、遠巻きに警備兵を配置した上での堂々とした密談だ。こんなケースだと魔術士の立場は便利だな。
前例の無い会議でもあり、また【言霊】の魔術の性質から直接ヒノカワ様と面識のある者を増やした方が有利だ。そのため、七村連合では、大胆な手が取られた。ヒノカワ様と既に面識がある、熊村のシカハミさんと、クラゲ村のヤマカゼさんが連合外の魔術士を呼ぶ為に旅に出た。
シカハミさんは、近くのヘビ村へ護衛に担がれて移動し、逆にヘビ村の治癒術士を呼んだ。ヤマカゼさんは、ツバメ村に居るホシカミさんの次女を呼ぶ為に、カラス村に移動した。カラス村からツバメ村へは、同じくヒノカワ様と面識のあるサツキさんが移動している。
七村連合では、タコ村のカニハミさんが連合北部の対応用に残るだけで、残りは全員会議に参加だ。治癒術士不在の村がでるため、何か起きたら、夜中だろうと移動する方針だ。
移動経路の安全性が高くなっているので、護衛を多数配した強行移動という手が使える。繁殖地単位の大規模襲撃を誘発する為、去年までは自殺行為だった手だ。
なお、七村連合の対応と関係なく、トンビ村から西に25km(ワシの脳内地図基準)程度離れたシカ村から、クニ時代の魔術士の末裔が、自慢の孫息子を引き連れて参加した。大変お疲れ様です。
ヒノカワ様主観による実力順席次による参加者名簿はこんな感じだ。
・ヒノカワ様(猪村)
・イモハミ婆さん(熊村)
・タツヤ(トンビ村)
・リュウセツ(シカ村)、60越の女性
・リュウエン(シカ村)、30前の男性
・ホシカミ婆さん(カラス村)
・カワハミ(熊村)
・カスミユリ(狼村)
・ヤヨイ(ツバメ村)、ホシカミ婆さんの次女
・ユレニジ(ヘビ村)
・シオカゼ(クジラ村)
・ヤマザクラ(山猫村)
・クサハミ婆さん(トンビ村)
・スミレ坂(熊村)
・ユキコ(カラス村)
・ハナハミ(熊村)
16人もいるがその内12人はイモハミ婆さんの弟子だ。
「現在の予想では、来年の秋、シカ村の南から大戦が始まる。50日程前に終わった今年の大戦の影響は、もう安定した。予測精度は比較的高い。時期のズレはあっても場所は変わらないだろう。
無論、付近を広範囲に掃討し尽くせば、他の地方に押し付けられるが、位置が悪すぎて無理でしょ」
ヒノカワ様の宣告から会議は始まった。
「前に、私等の作戦も影響を与えるように聞いたが、どうなんじゃろ?」
「無論、影響しているさ。大戦が発生し得ない土地を大規模に広げている訳だからね。元々、より発生し易いと思っていたのはトンビ村西だった。だけど、見事に掃討しちゃったよね。あの辺り、大鬼の数が多かったり変わった妖魔がいたりしただろ?
自分の村の周りを掃討する事に、他の村が文句いう道理は無いから気にする必要は無いと思う。
ああもう一つ、秋と言ったのは、君達の今後の活動も加味してのものだよ。この勢いだと七村連合の周りは、来年秋までに掃討し尽くすよね」
イモハミ婆さんの問いにヒノカワ様が応えた。
「そうすると、最初に襲われるのは、シカ村と考えて良いのかね。簡単に滅ぼされる気は無いので、出来るだけ準備しなきゃならん」
リュウセツさんだ。シカ村は、この近隣では最大の人口を誇る。単独でも戦えるかもしれない。
「七村連合では、大戦の連絡を受け次第、最も近い村に戦力を集中させる方針だよ。それをシカ村への援軍として受け入れてくれないか?
大戦は、全ての村が連合するのが習わしじゃろ」
「三村連合でもある程度の援軍を送る事は可能だよ」
「援軍も嬉しいが、それより女子供の避難先を確保してくれないか? 戦士だけなら心置き無く徹底的な戦術が取れる」
「それには、事前にクジラ村の食料備蓄も増やす必要があるね。一年あるから、干物ならある程度貯められるかも知れないよ」
「別の方向に向かったら如何するか? 大回りになる分遅れを取るかも知れない」
「そこは、私が監視するさ。だから、部隊には誰かメッセージを受け取れる人がいて欲しいな。出来れば、タツヤ君以外でね」
こうやって、作戦の大綱は決まって行った。
誘引してでも、戦場はシカ村にする。女子供は、逃がした上で400〜500の戦士とイモハミ婆さんとリュウセツ、リュウエンさんで立て篭り、妖魔の数が減ったら逆撃をする。ワシはヒノカワ様と共に行動する。大戦の情報は、今から10日後を目処に各村民に公開する。
なお、ある意味当然だが、シカ村は独自に事前掃討が可能か試してみるつもりらしい。
しかし、この世界の者は、もの判り良過ぎないか? 普通、もっとグチャグチャに揉めるものだろ?
イモハミ婆さんと軽く根回しっぽい事はしたが全然足りないだろ?
次は、魔術比べです。




