トンビ村安全圏の成立
サツキさんが説明した様に、兵力提供には協力的だった。最も拘った点は、対等な関係の共同事業であることを明確に宣言することだった。
「その位置付けだと、トンビ村とハヤブサ村との経路から比較的離れた一ヶ所が問題にならんか?」
「問題無い。其方の提案に一つ追加したのは此方の事情、それを考えると釣り合いは取れている。
それより、最初の殲滅戦の前日に、参加各村の代表が集まって、協業の儀を行う事は確実に頼む。その際、戦力差があってもこの戦いでは平等であり、過去のわだかまりは全て水に流す事を宣言する事も重要じゃ」
「ああ、戻って何としてでも説得する。別に、悪い話じゃないから其れ程問題無いと思う。その代表が遊撃隊のメンバーでも構わないんだな? それと、三村以外の参加も一定の戦力を出す前提で良いな」
「大丈夫だ。遊撃隊のメンバーは皆、村を代表しても不思議無い精鋭だろ。他の村の参加は、偵察隊が出来る戦士なら5人、それ以外なら10人を最低限とする。ただ、彼らは作戦全期間村を離れなきゃならんのは配慮してくれ」
主に、トンビ村長とカラス村長との間で話が進んだ。
作戦の流れは、まずはハヤブサ村起点で二つの繁殖地の大鬼釣りをする。十分減った段階で三村からの70名と追加参加村の兵力で殲滅戦を行う。その後、作戦起点は、トンビ村に移るが、戦力集中の段取り等はこれから議論する。
なお、協業の儀は、今から10日後を想定している。
最初、ハヤブサ村側から作戦を行う事は、稲刈りが始まっているトンビ村に都合が良い。三村側は、人のやり繰りが大変だが、勢いを重視して作戦の早期開始を主張した。
協業の儀までに大鬼釣りは順調に進み、11匹もの大鬼を倒した。目標の繁殖地二つが残数0になっているだけでなく、残りの繁殖地も、1匹と2匹に減少していた。
やはり偵察隊が居ると効率が段違いだ。これなら、大お見合い祭までに終わりそうだ。
協業の儀の日に集まった戦力は、次の通り十分な数だった。
・三村70人
・七村連合23人(ワシと遊撃隊含む)
・ツバメ村15人
・タヌキ村5人(トンビ村の北、ハヤブサ村の西の村)
殲滅戦もあっさり戦死者無しで終了した。また、今後の作戦の流れも決まった。
遊撃隊と偵察隊だけ一度トンビ村に行き、大鬼を狩る。再度ハヤブサ村に集結してから殲滅戦を行い、トンビ村に至る。最後に、戦場整理しながら三村連合側はハヤブサ村に戻る事となった。
作戦の進行中、他にも有益な話が幾つかあった。20年前から安全圏の運用を行なっている三村連合では、それなりのノウハウが溜まっている。
一つは、様々な魔獣との戦訓である。七村連合では経路の巡邏時に見た事無い魔物と闘い不覚を取る事が大きな課題となっている。それについて、お互いの経験を教え合うという名目で、同数の戦士を派遣し合う事を提案してくれた。
もう一つ重要なのは、魔草の情報である。邪気を吸って植物も変化する。その中には非常に有益なものもある。特に、意識不明者にも使える回復薬の材料になるものは途轍もなく重要だ。
七村連合で使う薬は、経口摂取であるため、酷い重傷だと役に立たない。しかし、手間も作成に必要な魔力も多いが、塗り込む事で効果がでるものがあれば……何を対価にしても惜しくない。
その情報を親切に教えてくれた。しかも、タダでだ。
「イモハミさんとの仲もあるし、いずれ気付く事でもある。借りと感じて貰えれば十分だよ。ああ、勿論この借りだけで、何か無理を言う気はないから安心しなさい」
ホシカミ婆さんの言だ。一般的に『タダより高いものは無い』のはこの世界でも同じだが、返せる事が自明なので怖くない。上手く借りを溜めておこう。7村連合側での説得工作でも意味があるだろう。
これらの作戦が全て終了した時は、すでに稲刈りも終わり秋も深まっていた。前世の暦なら、9月末日か10月始日にあたる。
また、最後の殲滅戦で警報の魔術を習得した。クサハミ婆さんと村長に、いる時だけでもと頼まれたので、4人でトンビ村周りの警報を張りに行った。
4人とは、ワシとクサハミ婆さんに加え、呪術士見習いのトリハミさんとハテソラさんだ。無論、二人はクサハミ婆さんの娘でトリハミさんが長女だ。ついでに言うと、ハテソラさんは、随分お世話になった採取班のリーダーだ。
そんななか、大お見合い祭を10日後から熊村で3日間に渡って行う事も決まった。移動に2日掛かる村もあり負担も多いが、大きな記念行事であり期間は長めである。
そのタイミングでヒノカワ様からの言霊が届いた。言霊は、開封しないと意味をなさない。ワシは一人になって聴くことにした。
「タツヤ君、驚く程頑張っているようだね〜。魔物地図の変化を見ると、お酒が旨く飲めるよ。
大戦について話があるから、10日後に熊村に来てね。熊村に集まれそうな魔術士には、僕の方から声を掛けておくよ。
ああ、イモハミ婆さんに、返信用の言霊を送っておくから、場所とか日時とかの都合は、魔力が切れる3日後までに返信してね。
普通の魔術士だと魔力不足で送れないけど、イモハミ婆さんなら何とかなると思うよ」
携帯どころか郵便局すらない世界、仕方無いとは思うが、唐突で一方的だな。しかし、それが許される実力者だし、逆らえんな。
次は、クサハミ婆さん視点の閑話です。
背景色を変えれるのに気付いたので変えてみました。
作者は、老眼なので、読みやすい色が良いのかな?
H29.11.4修正
誤:イモハミ婆さん
正:クサハミ婆さん
後半の警報張り部分




