ホシカミ婆さんと三村連合
ハヤブサ村に着くと、村長が出迎え、カラス村に案内された。どうやら三村そろっての交渉がしたいらしい。相手の人数が増えて交渉が厳しくなるが、確保出来る兵力が増える可能性もある。
その夜は、旅人用の家で泊まり、翌日朝からカラス村長の家に招かれた。そこには、三村の村長・戦士長とカラス村の呪術士がいた。それぞれが自己紹介をした後、暫く近状などの歓談が進んだ。
「その歳で既にイモハミさんと同程度の魔力を持っているんだね。ヒノカワにはまだまだ及ばないが、とてつもない天才だね」
ホシカミ婆さんが、ワシの事を誉めた。ホシカミ婆さんは、イモハミ婆さんの2つ歳下で、16歳から34歳までの長きに渡り一緒に暮らした一番弟子だ。と言うか、イモハミ婆さんに惚れ込んで伝道をした張本人だ。
実は、ホシカミ婆さんが実証するまでは、血縁関係が無くとも修行次第で魔術士になれるとは、一般的には信じられていなかった。その頃いた魔術士は、クニがあった時代からの家系とイモハミ婆さんのように唐突に使えるようになるケースだけだったからだ。
他人の魔力が見える魔術士自身には、毎年魔力が増えていく有様から、『長期間の修行に耐えさえすれば、魔術士になれる。』ことは自明と解ってはいるが、その確信を伝える手段はない。だから、継げるのは日常的な監督──悪く言えば、幼少期から続く洗脳──が可能な親族に限られていた。
成人後直ぐイモハミ婆さんに会ったホシカミ婆さんは、全てを捨ててその話に賭ける事にしたそうだ。村を逃げ出し、婚約を破棄し、親から勘当され、人生の大部分を修行のみに費やす。結果として、両親の死に目にどころか葬儀にも1周忌にも出れない。
エライ覚悟を持った人物だよな。見ると、決意が表情に刻まれている。
軽々しく熊村から出れないイモハミ婆さんに代わって、村々を回り何人もの女性をイモハミ婆さんに弟子入りさせた。しかも、熱意と信念、様々な交換条件を駆使して、自分のように故郷を捨てさせるような哀しみを味あわせず。
そして、魔術士になって故郷に錦を飾る事で、イモハミ婆さんに弟子入り希望者が殺到するキッカケを作りあげた。
以前ヒノカワ様が言ったイモハミ婆さんの功績──30人以上の魔術士を育てた──の半分は、ホシカミ婆さんに帰する。
そんな偉人に誉められると自然と決意が新たになる。
「この力の大半は、共にこの数ヶ月間闘い続けてくれた、戦士達の功績です。だから、この力でより良い未来を模索する責任も有ります」
「ほう。具体的には何をする気かな?」
「一つは、妖魔に怯えなくて済む安全圏を広げます。もう一つは、村々を豊かにしたり強くしたりするため、工夫を一生懸命考えます」
ホシカミ婆さんの問いにワシの指針を答えた。
「話しが脇にそれたね。確か用件は兵力提供だったね。それなら、まず何をするつもりなのか詳しく聞かせてくれないか? 使い走りの話だけで決めて良い事でも無いからね」
同行しているオオカゼさんがトンビ村東側3つの繁殖地の殲滅計画と達成された場合の利点を説明した。
「大鬼を先に倒しておいてくれるなら、戦死者は最小限になるだろう。ただ、情報封鎖作戦とか遊撃隊とかサインの共通化とか、よく分からん話があるな」
カラス村の戦士長の言だ。
「もう一つ、ハヤブサ村により近い繁殖地も潰したいものだな。そうすれば、トンビ村とハヤブサ村の行き来が安全になる」
「あちらの連合七村とは、他にも和議の交渉中の案件があるぞ」
「こっちの三村だと限界まで動員しても80人が限度だ。120人などとても無理だ」
「いやいや、忍び足に長けた者は多い。聞いた感じだとそちらの数の方が重要じゃ」
「戦い方を十分擦り合わせんと思わぬところで下手を打つな」
「条件次第では、ツバメ村を巻き込む事も可能ではないか?」
色々な意見がでた。『一度三村で議論するので、その間に村の見学でもしていて欲しい』と言われ、退席する事になった。案内は、村長の妹のユキコさんとホシカミ婆さんの長女で村長の妻でもあるサツキさんだ。
見た感じ二人とも魔術士だったので聞くと、二人ともイモハミ婆さんの弟子だった。サツキさんは治癒術と警報を使え、ユキコさんは3年前に開眼したばかりで術は使えないそうだ。
村の案内をしてもらいながら村々の関係など聞いてみた。始めから説明するつもりだったのだろう。幾つか重要な話が聞けた。
ハヤブサ村もスズメ村も村長の夫人が呪術士をしている。そして、共に魔術士見習いでもあり、数年以内に開眼すると考えられている。
話に出てきたツバメ村は、カラス村の南東にある比較的強い村である。スズメ村からは比較的近いため3村連合とも関係が深い。この村には、13年前までクニ時代からの魔術士の家系が残っていた。更に、今はホシカミさんの次女が、村長夫人と治癒術士を兼ねている。
「うちらの連合では、何とかツバメ村含め仲の良い村への打通作戦が出来ないか、大きな課題なんだ。そこに、燃える縁談大作戦の噂が伝わって来てね。信じ難い壮大な話に真意を測りかねていたら……あっさり成功させた。
そこまでの戦力があるなら、何年先でも良いから、ウチの連合の課題に協力して欲しい。だけど、どれほどの対価を要求されるか想像するとね。
そういう意味で、仲を深める絶好の機会、断る選択はハナから無いんだ。だけど、一方的に損したり舐められる訳には行かない。
今、どうやって良い提案を作るか、村長らが議論していると思う。決して、酷い事を言う気は無いので、安心して欲しい」
歳上のサツキさんが交渉の裏を説明した。それだけ、交渉成立に積極的なのだろう。
次は、そのままの流れでトンビ村の安全圏作戦が進みます。




