七村連合の成立への旅
祭りの挨拶の一つとしてワシが演説を行なった。これからも、力を合わせ妖魔を駆逐し、豊かになる為、7村で兄弟になろうと呼びかけた。その瞬間は、まだ、歓声と戸惑いの声の半々だった。そして、近くにいた7村の村長が揃って、賛意の声を出した瞬間、会場は大歓声一色になった。
当然、皆々村への帰属意識が強い。村長らと力を合わせねば、何も進まない。どの段階で『クニ』構想を披露すべきか……何年も先だな。
祭りの余興の一つとして、アマカゼと拙いペア曲を披露した。妙な誤解を避けるには、舞踊が好きだと印象付けた方が良い。スミレ坂の発案だ。
一緒に練習する機会が殆ど無かった上に、体格差が通常と逆なので、何ともぎこちない。なに、アマカゼ一人、タイミングが合わなくても腕力だけで揚げて見せる。恥を掻かせはせぬ。
ペア曲があるのは知っていたが、アマカゼをリフトして回転している間、案外開放的な社会なのかもと感じた。その後の名手達の舞に比べ見劣りはしたが、喝采は多かったと思う。
次の日は、予定通りトンビ村で演説した。ついでに、タコ村へ向かう際、アマカゼも同行させるよう、村長に頼まれた。何でも婚約者としての立場をアピールしておきたいそうだ。嫌がる理由も無いので、無理の無い行程のみと断って同行して貰った。なお、女性が一人では肩身が狭いので、アカユリ姉も一緒だ。アカユリ姉は、最近アマカゼと一緒にいる事が多い。
次の日のタコ村での演説後、キバヤリ村長から家に呼びいれられた。ワシに同行している者も一緒だ。何だろう?密談ではなさそうだが?
「彼等は、タコ村を拠点に彼方此方の村を回っている者達だ。丁度、戻って来ていたので、今度の兄弟の儀の話をしたら、タツヤと会いたがっての。良い機会なので紹介する事にした」
そう言えば、昔奴隷商だった一家を援助しているってカニハミさんが言っていたな。
「ご紹介頂いた、旅商人のタビスケです。まあ、商人と言ってもこの時勢、噂話を飯のタネに村々を渡り歩いているだけです。
最近、注目されている、タツヤ様と直に話をすれば、酒の肴の一つも増えるかと、村長に頼んだんですよ。タツヤ様は、何か他の村に付いて知りたい事は御座いませんか?」
「ああ、失礼した。挨拶が遅れ申し訳ない。ワシはトンビ村のタツヤ、6歳で魔術士だ……」
どんな対応が無難か、まずは様子を見る為に同行者を含めた自己紹介から始めた。
よく考えたら、不味い話があればキバヤリさんが口止めするな。大戦と神託に触れない事に注意して、武張った面以外を見せれば良いか。
「そうだね〜、食べ物でも道具でも、何か変わった特産品の話は無いかな? そこにいる、シオハミさんには呆れられたけど、工夫と努力の成果を見る事が純粋に好きなんだ。
研鑽の末に到達した、その村特有の産物には、そういう物があるんじゃないかな?」
「そうですね〜手に入れる価値があるかは別ですが、村自慢の品ってのは、結構あります。というか、無い村の方が少ない」
女達によるワシの批評を含め、和やかに歓談が進んだ。何か、心外な事も言われた気もするが、今は侮られるより、怖がられる方が不味い。そう、ヒノカワ様のように天災扱いはされたく無い。
次の日は、クラゲ村だ、同じく演説した後で、ウオウミ村長の甥を含め2名に再生の魔術を掛けた。魔力の有効活用だ。殆どの魔力を消費したが、恒久連合の利を示す意味では、丁度良い。魔力なら明日には回復する。
夕食を共にした村長夫人のヤマカゼさんから色々裏事情を聞いた。ヤマカゼさんは、10歳の頃当時名前が響き始めたイモハミ婆さんに弟子入りした。弟子として、ほんの幼女だったカニハミさんの子守をする事もあったそうだ。それから20年ようやく開眼を迎えた年に、カニハミさんがタコ村に移住して来て大変吃驚したそうだ。
魚型魔獣の狩りが盛んな分、海辺の村では怪我人も手足を喪う者も比較的多い。近くて仲の良い分、カニハミさんに安く対応して貰っているが、数が多く村の財政を圧迫し続けているそうだ。
その為、近年タコ村への従属を願い出たが、実効性が無いと断られたそうだ。戦力の差が小さい為、裏切られても指を咥えて見ているしかない。
「7村連合なら、その点安心ね。というか、極端な話、トンビ村とタツヤさんが救援に来れば、クラゲ村の遅延など後でどうとでも処理できる。
逆に、だからこそクラゲ村にどんな屈辱的対応も可能なのよ。夫は、それを強く危惧していたわ」
「今後、信頼を深めていく事が重要だね。何か、一緒に取組む事業とかもっと考えた方が良いのかも知れないね。とはいえ、先立つ男手の制約も考えないといけない。トンビ村の女は大変だったとアマカゼに言われたよな。」
夫であるウオウミ村長にワシの本音を探れと言われているはずだ。とぼけるのは逆効果だから、思うまま言うしかない。
翌日、クラゲ村の戦士達と共に、舟でクジラ村に向かった。船酔いによる戦力低下を避ける為同行者は無しだ。クジラ村でも同じように演説と腹の探り合いをして、タコ村経由で急ぎトンビ村に帰った。
次は、再びの大苦戦です。




