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閑話 ブナカゼの深謀遠慮

 やはり、母さんは戦死したいんだな。


 母さんが部隊に随行する提案を聞いて、父上が私にしてくれた話を思い出した。


 祖霊なのか神々なのか判らんが、『存分に働いた。神託の完遂、大儀であった』と伝えてくれれば良いのに。母さんは、既に60を越えている。神託に違反する事を恐れて、体と心に鞭打ちながら努力を続けなきゃならないなんて、酷すぎる。

 挙げ句の果てに、気力が尽きる前にと、戦死か殉職したがるなんて、息子として悔しい。



    ◇ 



『フブキ様も、寄る年波には勝てず、ついにあの大戦で不覚を取った。妖魔王と相打ちになってしまったんだ。

 妖魔王の元に集まっていた多数の妖魔が、熊村に殺到した。一部は、柵と堀を突破し、連合による駆逐が終了するまでに多くの犠牲者が出た……いや、正直になろう。熊村は潰滅し、廃村必至の状態だった。


 治癒術が使えるトンビ村のユウナギさんがいたが、魔力が全く足りず……二刻経ったら起こせと言い捨てて魔力回復の眠りについた。その間に、未手当の者が何人も死んでいくのが判っていたが、そうせざる得なかった。


 その死にゆく者の中に、シカハミを宿した母さんと父さんも居たんだ。重荷を背負わせたく無いから、ここからは、シカハミ達にも秘密だよ。


 神託で治癒術を得た母さんは、まず自分と父さんを全力で回復させて、そのまま魔力切れで気絶した。見ていた者にすら、何が起きたか判らんほど短時間の出来事だ。


 だが、再び母さんが起きた時には、仲の良かった友達が何人も息絶えていた。その後、母さんは、ユウナギさんに指導されながら、一ヶ月も続く長い治療に当たり、熊村を生き延びさせた。治癒術が使える者が増えたのは大きい。それからは、死人がでる事は無かった。

 その間に、1人当たりの魔力を節約して、出来るだけ多数を救命する事も学んだ。


 母さんは、気付かざる得なかった。本当は、友達も救えた筈だと。父さんに全魔力を投入したのは間違いだったと。何年経っても悪夢を観るそうだ。


 おそらく、その悪夢が関係するんだろう。母さんは強い恐怖を抱えて生きている。


 神託は、【一生を通じて努力せよ】だ。努力を止めれば、罰として、神託で得た報酬を剥奪されるのでは? と。


 そして、母さんが得たと感じている報酬は、魔術ではなく、家族だ。あの時、治癒術を得られなければ、シカハミもお前も産まれた筈がない。


 努力を止めた時、子と孫、全てを喪うのでは? と恐怖している。


 だから、母さんは死にたがるんだ。自殺では、神託に違反した事になるかもしれない。努力の途中で死ねる機会を欲している。


 ブナカゼも何回か、母さんが危険な役目をやりたがる所を見ただろう? あれは、そういう事情だ。


 だけど、母さんはこの島にとって掛け替えのない人物だ。誰かが、死にたがる母さんを止めねばならん。父さんが母さんより先に死んだら、ブナカゼに、村長の座と共に、その役目を引き継いで欲しい。


 この村の誰も母さんに頭が上がらない以上、村長になるブナカゼが毅然と止めて欲しい。


 出来れば、思い詰める必要などないと、気持ちを切り替えて欲しいが……30年以上連れ添った父さんに出来なかった事だ。無理は言わないよ』



  ◇



 今回の提案を蹴る事は難しい。だけど、何とか母さんが生き延びれるよう、最善を尽くそう。その為には、上手くタツヤを煽てて、力を付けて貰わねばならぬ。出来るだけ多くの村に連合して貰う必要もある。


 タツヤは、煽てておけば勝手に強くなるか……というか? 本当に人なのか? 実は、神々の末席に連なる者が憑依しているとかのオチじゃないのか? 何か隠しているのだろうが、言動が時々怪し過ぎる。まあ、害は無さそうだから……放置しても良いんだろう。

 それより、近くで力のあるシカ村と三村連合は必ず巻き込みたい。何度か忍んで直接行くか。妖魔に苦しめられているのは、何処も同じ。糸口は必ずあるだろう。


 それより、死にたがりの母さんを改心させる方法が何か無いだろうか……無理だな。では、何か座って居るだけで良い役目を考案するか。魔術的な仕事や修行者の教育は、どんどんシカハミとスミレ坂に割り振っていけるだろう。


 実質的な仕事は少ないが、何か重要な感じがする仕事……相談役? 何か考えよう。


 連合の議長というのはどうだ? う〜ん、まだ機が熟していないか。もう少し、展望が見えないと無理だなぁ。



  ◇



 考えている内に、タツヤが次々アイデアを披露し始めた。何者だ? タツヤは? 皆引いているぞ! いや、これはチャンスかも知れん。


 私は、空気を変える為に発言した。


『これほど多量の神託を授かるなど、タツヤ殿は神々によほど愛されているようだ。

 この巨大な利益を前にして、恒久的連合に異論のある者はいるか?』


 ふう〜。何とかなった。これから、上手くやって母さんを連合の名誉職に付けよう。そして、『生きているだけで、多くの人が救われる。其れだけ十分な努力だ』と説得しよう。


 タツヤは……神々の末席の者が、お忍びのつもりで、下界に降りている。もう内心では、そう断じた方が良さそうだ。


 それなら、上手く誘導して、母さんの神託が完遂している事を認めさせよう。結構、お人好しだから、煽てれば何とかなるかも知れん。

タツヤは、また旅に出ます。

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