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七村連合設立の議論

 熊村のブナカゼ村長(むらおさ)が姿勢を正し、皆を見回してから、七村連合設立を提案した。


「この連合を恒久的な物にし、お互いが何時でも助け合える様にしたい。そうすれば、妖魔の繁殖地を一つ一つ消滅させ安全圏が作れるかもしれん。夢の様な話とは思わんか?

 そのため、まずはこの7村で兄弟とならんか?兄弟なら、和議に労を割くのは当然だろ。」


「返せぬ借りを積み重ねれば、永遠に風下に立たねばならぬ。そんなこと、耐えれる筈もない」


 ネコヅメさんは筋論で山猫村長レースを乗り切ったんだよな。まあ、当然の反応だな。でも、前提が間違っている。


「冷静になってよ。この連合が上手く回れば、数年で完遂出来る様な借りだよ。具体的に欲しいものの目星もある。

 目の前の危機を乗り切る為に、数年間借金を負う。そう考えれば、何も変じゃ無いよね」


 皆しばらく考えていた。そして、クラゲ村のウオウミ村長が切り出した。


「本当に頑張れば返せるのなら、先に甥っ子を直してやりたい」


 損得勘定、特に背景が明白な話は楽で良いな。


「その人が闘える男なら、大戦(おおいくさ)の貴重な戦力だ。直接闘えない女性でも、矢を作るとか留守中の見張りに立つとか、戦力強化に何か貢献出来るはず。

 大戦で連合する前提なら、直しに行くのは寧ろ必然だよ」


「無論じゃ、左足を損なっても闘う心は失っていない。そういう子じゃ、参加出来れば必ず大戦で十分な働きをするはずじゃ」


「その点じゃが、私からも提案がある。カニハミとも相談したが、連合内では謝礼を最小限にしても良い」


 ワシとウオウミさんの話に、横入りする形でイモハミ婆さんが切り出した。連合を恒久化する為の手札の一枚だ。


 そもそも、再生に大きな謝礼を要求するのは、熊村の防衛力強化に使うためだ。援軍として期待出来る戦士の場合、謝礼を要求する方が熊村防衛上不利になる。

 軽々しく考える大馬鹿者が出ないよう、謝礼を無くす事は出来ないが、特に戦傷者とハッキリしている者は、滞在費に色をつける程度でも良い。

 そう、イモハミ婆さんは提案した。


「さっきの『数年で返せるはず』という話の根拠を教えてくれないか? 疑うようで悪いが、何しろ、長いものでは30年以上和議の貢ぎ物を用意出来なかったケースがある。

 言っておくが、欲しい物があるなら、何でも直ぐに差し出す覚悟はある。だが仮に、数年後に年頃になる娘をタツヤの妾に寄越せという話なら、今から覚悟を固めさせてやりたい」


 狼村のヤクモ村長が、別の面から質問をしてきた。え! そういう風に理解されるの? ワシそんなに好色と思われてるの? イヤイヤ、妻が三人の貴方じゃ無いので。


「まず、トンビ村の視点で説明しよう。

 娘は別に欲しくない。無理強いして良い結果が出る事など滅多にない。欲しいのは、純粋に労力なんじゃ。作戦中、何度か田を広げる手伝いを打診しただろ」


 トンビ村のクマオリ村長が代わりに説明を始めた。


 切り拓いて田にするのも、田植えも収穫も、田は兎に角人手が掛かる。しかし、その分収穫は多い。恒久的な連合が成立し、移動経路の安全が確保される前提なら良い手がある。田植えと収穫だけ他村からの応援を得て、これまでの数倍の田を管理する方法だ。そうすれば連合全体の食糧事情が大きく改善し、子供が沢山増やせる。

 その前段階の土木作業と討伐に力を貸して貰えれば、それで十分な対価になり得る。


「欲を言えば、十年以上先になるだろうがガマ村を再建したい。あそこの生き残りが最も沢山いるのはウチの村だ」


 そう、テルヒコ兄もその生き残りだ。母さんから2年前に聞いた話を思い出していた。


「タツヤが個人的に欲しいものがあるように聞こえたが?」


 ヤクモさんが続けて疑問を投げかけた。


「明かした方が安心出来るだろうね。ワシの欲しい物は、現時点ではどの村も持っていないものなんだ。でも、何年も苦労と努力を重ねれば、開発出来ると思う。

 多分最も早いのは、担架だろう。これがあれば、戦傷者の後送がかなり楽になると思う。」


 ワシは、担架、革鎧、テント、構造船の開発のアイデアを披露した。


「担架にしても、強度と重量、使い勝手など何度も痛い目にあっての試行錯誤が必要だろう。構造船に至っては、この世代で成功するかすら怪しい。

 全て夢の中でチラリとイメージが見えただけの曖昧な話だ。でも、苦労の巨大さと実現出来た時の利益を考えれば、対価として十分だろう。

 ワシが直接手掛けて見たい気もするが、技量も時間も全然足りないから、協力して欲しい。」


……


「これほど多量の神託を授かるなど、タツヤ殿は神々によほど愛されているようだ。

 この巨大な利益を前にして、恒久的連合に異論のある者はいるか?」


 ブナカゼさんが締めに入った。賛意の声しか聞こえない。


 力のある川沿い三村が積極的だったから何とかなると思ってたけど、1村も欠ける事なく合意できてホッとした。いや、油断しちゃいけない。条約調印した後でひっくり返る前世のアメリカみたいな村があるかも知れない。


 同じような事を考えたのかもしれない。ブナカゼさんが続けて発言した。


「各々村人の総意を纏める必要があるのは判る。だが、この手の事は勢いが重要だ。10日後にトンビ村で兄弟の儀を行う予定で動こう。

 タツヤ、今日の祭りで7村が兄弟になるべきことを演説してくれ。それから、トンビ、タコ、クジラ、クラゲも回って欲しい。そうすれば、村の総意がまとまり易いだろう。

 各村長は、演説に盛り込む内容をそれぞれ考えてくれ。

 無論、大戦と神託には触れんようにな。

 あとの細かい話は、兄弟の儀の後でじっくり話し合おう」


次は、ブナカゼ村長視点の閑話です。

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