クエストの始まり
転生してから4年ワシはどうやら『マル』という名前らしい。
竪穴式住居で父と母と4人の子供計6人で暮らしている。ようやく言葉も体も最小限の事が出来るようになった。
産まれて直ぐに意識はあったが、この4年間ままならぬ体と理解不能な言葉、オムツさえない不衛生な生活に随分苦しめられた。
余りに酷い状態に一度は自殺を考えたが……具体的手段を検討した瞬間、凄まじい激痛に悲鳴をあげた。誓約とやらの影響なのだろう。自殺する前に、痛みに殺されるところじゃった。それから丸一日寝込んでしまい母には凄い心配を掛けたようだ。
そう、父母は随分愛情深く接してくれる。前世のワシはこれほどの愛情を息子達に掛けれたのだろうか?また、父母は成長の早いワシを随分自慢にしておるようじゃ。
そう言えば、鉄器時代のはずじゃが、村では鉄器どころか青銅器も見ない。それどころか如何なる金属もなさそうだ。この村はかなりの辺境かもしれない。
とはいえ、米を含む農作物があることから完全に孤立している訳ではないようじゃ。日本で言うと弥生前期だろうか?
まあ、異世界と言っていたから、前世の考古学を当てはめるのは危険じゃな。
「マルいくぞ」
おっと、上のテルヒコ兄が呼んでいる。晴れた日は、村の広場で遊ぶのが日課だ。大人達の仕事の邪魔をしないよう子供だけで過ごしている。今、出来ることは身体を作ることだけ、今日も1日駆け回るとするか。
代わり映えしない毎日だが、転生時の話が気になっている。子供し気が付かないだけかもしれないが、魔法も魔物も見ない。技術レベルは低く、やれることは多そうだが、何から始めるべきか皆目見当が付かない。根本的にこの世界についての知識が不足している。
ツラツラと考えていると突如頭の中にイメージが!
【クエスト:魔力操作習得】
魔法の基礎である魔力操作は、地道な努力で誰でも身に付けられます。クエスト受託後に修行方法が提示されるので、魔力操作を身に付けて下さい。
クエスト成功時報酬:世界情報初級1つ、地方情報中級2つ
クエスト失敗時罰則:無し
クエスト期間:最長5年(目標2年)
クエスト?唐突だな…でもやってみるしかないか。
すると今までなかった知識が頭の中に刷り込まれた。
何々、
『魔法を使えるようにするには、体内の魔力器官を成長させる必要がある。呼吸法で少しずつは成長していくから地道に続けるのが有効である。あと魔力が流れる現場に曝されたり、無意識に魔力を使う機会を増やすのも効果がある。
この修行の難点は僅にでも魔力を感じれるレベルになるまでは、進歩を確認する手段が無いことである。そのため、途中で疑問を感じ挫折することが多い』
…ということは、無心に5年は続けろというクエストなのか…
もう少しましな習得法はないんじゃろうか?
その日の夕食時、ワシは父母に聞いてみた。
「村に魔法が使える人はいないの?」
「魔法? クサハミ婆さんの薬草やまじないのことかい? それとも、村長が噂する火と水を操る偉大な強者のことかい? 何れにしろマルが気にすることじゃないよ」
母さんが優しい声で問い返してくれた。
「魔法が使えるようになりたいなって」
「「「ダハハハハ」」」
何故か皆んなに爆笑された。父さんが笑いを堪えながら
「チョットだけ賢いかなって思っていたけど、マルもヤッパリまだまだ赤ちゃんだなぁ。
クサハミ婆さんは、マルみたいに小さい子を弟子にしたりしない。村長の話は大袈裟だし、会おうとしても遠い村まで旅が必要だ。マルだと途中で妖魔に喰われて終わってしまうなwwww」
「村長? 弟子? 妖魔?」
ワシは、社会の有り様を聞くキッカケに飛びついてみた。すると、自分も笑っていた事を棚にあげて母が父に苦言した。
「お父さん、マルはまだまだ赤ちゃんです。知らないことは沢山あるので、そのように笑ったら可哀想です」
丸く収められても困る。ワシは、ただただ知りたいんじゃ!甘えた声でねだってみた。
「僕、もっと沢山の事を覚えて、お父さんお母さんのお手伝いしたいの」
暫く沈黙が続いたあとで、父が不自然に優しい声で言った。
「マルがこれだけ賢いなら色々教えても無駄じゃないだろう。あすからサトニナと一緒に夜語りを聞かせてやろう」続けて母が
「お父さん、マルだけ贔屓にしてはいけません。マルに聞かせるなら、テルヒコとリンも一緒です。それと脚が十分になったら早めに採取に連れて行きましょう」
「そうだな。それなら…マル。明日から朝と夕に走り込みをしろ。せめて村を10周分母さんから遅れずついて走れるようになれ。これはお父さんからの課題だ」
話しはあらぬ方向に進んだ。課題を詰め込まれて、明日からワシはどうなるんだろう。子供も過労死ってあるのだろうか?
導入部終了です。これからは、週3回投稿を目標にします。
H30.5.13 父の発言を見直しました。
修正前:村長の話は眉唾だし、本当だとしても遠い村まで旅が必要だ。
修正後:村長の話は大袈裟だし、会おうとしても遠い村まで旅が必要だ。
父は、これまでに2回は大戦に参加した筈なので、直接見ていなくても、偉大な強者が実在していることは、知っているはずです。