燃える縁談大作戦の終了
その後、熊村に移動し作戦が進んだ。
順調だったので、慢心していたのだろう。一人戦死者を出してしまった。クラゲ村からスミレ坂争奪戦に参加していた16歳のトビカニだ。若衆にしては、忍び足、周辺警戒、斧が全てL2、弓と槍もL1とかなりバランスの取れた実力者だった。
大鬼接近の合図を聞き落としたのか、無視したのか、若者4名の班で大鬼と遭遇戦になってしまった。接敵し、どうにもならない事に気付いて、仲間を逃がすため殿をしたそうだ。
我々が着いた時には、既に死亡していた。無論、大鬼はその場で始末した。
その後、徹底的な反省会が開かれ、連合内で共通サインを作る事と、遊撃隊参加前の訓練基準──最短でも5日掛かる──を作る事が決まった。実質的にスミレ坂争奪戦参加が締め切られた事になる。
そして、雨の影響を受け少し延びたが、熊村到着後25日で燃える縁談大作戦が終結した。作戦開始の祭りから丁度2カ月、予定の半分以下の日数だ。色々、込み上げて涙が止まらない。
ワシの力も魔闘術が上がったりで次のようになっている。特に体感で魔力矢の消費魔力が半分になった事が嬉しい。ベテラン戦士と比べ斧や槍の模擬戦はまだまだだが、魔闘術の効果で腕力と敏捷性なら見劣りしないようになった。
呪術士技能L1/舞踊L1/動植物知識L2
布作成L2/石器作成L1/木工L1
弓矢L3/斧L1/槍L1/忍び足L2/周辺警戒L2
魔力操作L1/魔力強化L1
治癒術L3/再生L1/解毒L1/鎮静L1
魔闘術L2/高揚L1/鑑定L1
全ての繁殖地が殲滅されて2日、作戦終結の祭りを控えた昼間、熊村の外れに9人の男女が集まり密議が開かれた。各村の村長、イモハミ婆さん、ワシだ。来年にも予想される大戦への対策会議だ。余人に気取られる訳にはいかない。
現状、大戦が近い事を知らされているのは、各村の村長、戦士長、魔術士の計26名だ。密議をするには多すぎる。9人でも多いが、これ以下だと密議の実効性が無い。ここの全員、明らかに拒否権を持っているのだから。
「伝えた筈だが、ヒノカワからの情報によると来年にでも大戦を覚悟せねばならん。少しでも犠牲者を減らす為にやれる事は全てやらねばならん」
ヒノカワから直接事情を聞いているイモハミ婆さんが切り出した。過去何度かの経験も加え、対処大綱の説明が始まった。
ヒノカワから連絡があり次第、全ての戦力を妖魔王に最も近い村に集める。ヒノカワが妖魔王を倒すのと呼応して、妖魔の軍勢を撃破して、残敵の掃討に移る。
戦力の集中が速ければ、妖魔の軍勢が十分集まる前に決戦でき、その分有利になる。
「私は、老い先が短い。だから、軍勢に追随し、戦傷者の救命に当たる事にするよ。タツヤに、打撃戦力と治癒術士両方の役目をさせるのは無理があるからね」
「その手しかあり得んだろ。当然俺も先陣に立つ」
イモハミ婆さんの覚悟を引き取る形で、タコ村長であるキバヤリさんが決意を述べた。村長になった当初結構苦労したそうで、根回しの際『兎に角発言しないと会議は回らないからね』と笑っていた。続けて、何人か賛意の声をあげ作戦大綱は了解された。此処まではシナリオ通りだ。
まだ、キバヤリさんの発言は続く。
「それと、来年以降もこの連合を継続する事は当然として、少しでも多くの村を大戦に巻き込みたい。
俺としては、争いがある村との和議を進めて貰いたい。連合の勢いを見て、提案とかは来ているのだろ? 子や孫に言い含めれば、簡単に進む筈だ」
村々の争いは、落ち度がある方が貢ぎ物を贈って手打ちするのが普通だ。だが、どの村も余裕がなく、貢ぎ物を準備出来ず長引いているケースがある。
もう一つの手段は血縁を結ぶ事である。その場合、落ち度がある方から、嫁入りまたは婿入する事になる。悪くみれば、人を貢ぎ物にするとも取れる。
「そうは言っても、好き合っている者同士を引き裂くのは辛い。それに、数も足りない」
最も残件が多いクジラ村のシオフキ村長が苦渋の声をあげた。そういえば、カニハミさんが『優しいのは良いのだが……』と評していたな。
実は、熊村とタコ村は対立関係の村が無い。トンビ村も落ち度のあるケースは処理済みで、残り二件についても嫁を受け入れる事で内々に話しがついている。この三村に比べ残りの四村は、和議出来ていない関係が多い。
「それについてだが、提案がある。アイデアとしては聞いた事があると思うが、ワシが再生の魔術を掛けに行っても良い」
ワシは、根回しが十分でない勝負を始めた。恒久的な連合に昇格させる前提でイモハミ婆さんとカニハミさん含め数人とは根回しが済んでいるが、四村は抵抗感がある。
実は、熊村とタコ村が対立関係を持たない大きな理由は再生が使える事である。手足を喪った者を復帰させる事は、それだけで十分な貢ぎ物になる。逆に、相手にとってもそれが出来る実力のある村との和議は、最優先になる。
「そうは言っても、トンビ村に借りを作るだけ、今ウチの村に返せるものが無い以上、成立する話じゃない」
山猫村のネコヅメ村長の反論に、ワシは熊村長と視線を交わし、発言を促した。此処からが本題だ。
密議は続きます。




