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自信回復

 大鬼釣りを開始してからの6日は、思ったより順調に進み、大鬼を5匹も仕留める事が出来た。偵察隊も第二以降の遊撃隊も着実に増強され、少しだが次の作戦に明かりが差した気がする。


 トンビ村とタコ村間の繁殖地の大鬼残数は0となっている。因みに、タコ村方面には、他にタコ村とクジラ村間に一つ、タコ村とクラゲ村間に二つの繁殖地がある。それぞれの大鬼残数は、タコ村ークジラ村間が1、タコ村ークラゲ村間が、2と3だ。


 今日は、作戦の段取りを行い、明日繁殖地一つの殲滅戦を行う。前回のような失態は決してしないと、幹部達は青筋を浮かべて作戦の詳細を議論している。


 なお、前回の作戦の負傷者は、要再生者の5人を残して既に戦力として復帰している。スミレ坂争奪戦への追加参加を含む、各村からの追加派遣者により、全兵力は前回より多い。もっとも、情報封鎖作戦にかなり割く為、本隊は、1割減だ。


 翌朝、情報封鎖を行う偵察隊から2時間ほど後に、本体と共に出陣した。さて、敵は向かって来てくれるか、それとも追い駆けっこが必要になるか、どちらだろう。


 蓋を開けてみると……妖魔も混乱するようで、統一した動きをしなかった。300m位まで近づいた時に繁殖地内で騒ぎが始まった。約20匹程度がバラバラに向かって来たため、接敵すらさせず全滅させた。残りは逆方向にバラバラに逃げて行ったが、偵察隊により足止めを受けこれも殆ど被害なしに全滅させた。


 結局、本日の重傷者は、情報封鎖作戦での一名だけであり、その場でワシが治癒して終了した。慢心してはいけないが、上手くやれた事に嬉しさが込み上げてくる。


 その日、戦場整理も終え、夕方にタコ村に到着した。そして、戦勝を祝った宴会が始まった。酒は飲めないが、女性の唄と舞を観て楽しみ、自らも踊りを楽しもう。物凄く心が晴れた気がする。若者達も自信を回復させ、より強くなってくれるだろう。


「若者は、踊りを楽しめる位には、自信を回復したようだ。この10日余りの心労が報われた気がする。

 タツヤ良い笑顔をしているぞ」


 近くにいた、トンビ村戦士長がそう声を掛けて来た。見ると心底安心した顔をしている。ここでふと、自信を回復させる事が重要な『若者』とは、ワシの事だと気付いた。


「見苦しい醜態を晒してしまい申し訳ありませんでした」


「謝る必要はない。期待以上の功績を挙げ続けているんだ。その分心労も多いだろう。話合わねばならぬ事は多いが、今日明日は、疲れを癒せ。

 そういえば、何か欲しい物はないか?」


 欲しい物か? 幾つも有るけど此処には無いものばかりだな。ワシは少し考えて、目の前にあるものを頼んだ。


「踊るのは楽しそうだ。色々な踊りを試してみたいな」


 そうしたら、周りで聞いていた娘達がキャーキャー言いながらワシを引っ張って行った。少し不味いかもしれん。

 夜かなり遅くなるまで、娘達から色々な踊りを習って過ごした。流れるような女舞が混じっているのは気のせいだろうか。

 いつか、前世にあった剣舞とかを開発出来れば格好いいだろうな。


 翌朝、起きると、クエストが完了している事に気付いた。治癒術がL3に到達している。そうこうするうちに、朝食を用意してくれたシオハミさんが、予定を聞いてきたので、希望を伝えた。


 海の側で、報酬の未知魔術を調べていると、スミレ坂が近づいて来た。


「ボウっとして過ごすと聞いていたが、何か難しい事を考えているな。気に病む事があれば相談しろ。タツヤの場合、面白いで済まん事があって困る」


 この子にも凄く心配掛けたんだよな。信頼できる相手だし、相談しようか。


「極秘だけど、スミレ坂を信じて相談したい事がある。神々から報酬で得る魔術の選択で悩んでいるんだ」


 表情を色々変えて、しばらくして「任せて」と絞りだすように言った。吃驚すると百面相するのが癖なんだw


 色々話したが、『高揚』がもっとも有効だろうと意見が一致した。


 昼飯にスミレ坂と二人で村に戻ると朝会ったシオハミさんが待っていた。カニハミさんの長女で17歳、呪術士見習いをしている。一緒に食事をした後で二人の男を連れてまた海の方に向かった。


「父上から、タツヤを慰める為だから、全て見せてやれと言われている。今日は時間の許す限り舟の事を教えてやってくれ」


 シオハミさんは二人の男にそう言った。そうか、機密とか当然あるんだろうな。滅多に無い機会だ好意に甘えさせて貰おう。


「この辺りの舟の種類を一通り知りたい。そして、構造とどんな道具を使っているかも知りたいんだ」


「別に、構いはしませんが……余り意味はありませんぜ。舟を作るのに一番必要なのは根気です。大きな舟は、運も要ります。構造や道具を知っても舟は作れませんよ」


「ああ、別に舟作りの技を手に入れたい訳じゃない。工夫と努力の成果を見ることが純粋に楽しいんだ」


「……では、此方にいらして下さい」


 物凄く怪訝な顔をされたが、親切丁寧に説明してくれた。特に何か隠している様子もない。丸木舟が主で、丸木舟に側板とかを追加して大型化した準構造舟も少しだけある。

 実は、大きな舟を作る為にも武力が重要らしい。巨大な木を切り倒し、運び込むまで妖魔を排除し続ける必要があるからだ。今回の燃える縁談大作戦には、舟を作る者も大きな期待を持っているそうだ。


 男達と別れてから、シオハミさんが(こぼ)した。


「タツヤさんが、何を好むのか全く掴みきれんの。昨日の様子から、ほんの子供とはいえ、『英雄色を好む』と安心していた。スミレ坂さんと二人きりになるところから、さらに確信を深めたのだが……」


「あはは、勇気出して大胆な服装して来たのに無駄になっちゃたよね〜。面白いw」


 え? 膝まで見える変わった服装だと思っていたけど、海辺に行く当然の配慮とかじゃなかったのか?


「ワシ、色を好むような行動した覚えないのだが?」


「……いや、別に悪い事じゃないし、誤魔化す必要ないから。娘達に囲まれて、凄く嬉しそうだったし。誰かれ構わず熱い視線を飛ばしていたのも、皆んな見ているから、否定されても驚くだけだよ」


「そんな事してたの‼︎ アマカゼさんに伝えなきゃ。尊重するって誓ったのもう忘れてしまうなんて、全然面白くないよ」


 ワシの反論に、二人が噛み付いた。言われて見ればそう見えるのか! 迂闊だった。少しでもフォローせねばならん。


「いや、昨日は舞踊が楽しくて、少しでも技を覚えようと真剣に見ていただけなのだか、誤解させたのなら娘達に謝った方が良いのか?」


「スミレ坂さんと二人の世界を作っていたのは?」


「それは、私が説明した方が良いわね。魔術について議論していただけだよ。機密が多いから余人を近寄らせる訳にいかないのは、理解してくれるよね。今この村にいる魔術士は二人だけだし、仕方ないよね」


「本当に、羽目を外したんじゃ無いの?」


 シオハミさんの問いに、アマカゼを尊重する機会だと感じて、ワシは説明した。


「アマカゼが居ない所で羽目を外す必要はない。アマカゼは、一番にワシを選んだ女性だ。だから、ワシはアマカゼを愛しているし、一緒にいると幸せだ。

 まだ6歳児だが、ワシはそれだけで十分だ」


「……」

「あはは〜、面白い。6歳児に惚気(のろけ)られるなんて、滅多にある事じゃないw」

「……そういう事にしていた方が、娘達への説明は楽だな……クラクラするから、話はここまでにしょう。

 ああ、舞踊の腕なら、娘達より上の既婚者が何人かいる。必要なら紹介しよう。何時でも言ってくれ」


 分かって貰えて何よりだ。


次は、クエストで得た魔術についての話です。

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