落ち込みきったワシの醜態
夕方近くになり、ようやくトンビ村に到達した。無論、状態の悪い重傷者は、次々と移送班が編成され、先行させている。
ワシの顔を見て、クサハミ婆さんがいきなり治癒術を掛けた。もの凄く暖かく気持ち良い感じがする。
「愚か者!治癒術は、自分にも掛けられるんじゃ。こうなる前に自分自身を回復させろ。その方が、魔力的にも有利なんじゃ‼︎」
落ち込んでいた為か、ワシはこんな当たり前の事にすら気が付いていなかった。
「休ませてやりたいが、魔力が不足している。暖かい粥を食べたら、重傷者の対応に参加しておくれ」
ワシはクサハミ婆さんの言葉に頷いた。じっとしているより、何か仕事をした方が、精神的に楽だ。
用意された粥を掻き込んで、ワシは臨時の治癒小屋に行った。そこには、タコ村のカニハミさんも来ていた。昨日の惨状に比べると幾分ましな気がする。魔力が尽きるまで対応し、ワシは寝る為に戦士小屋に向かった。今日の宿直は、クサハミ婆さんが担当してくれる。
翌朝、状況を確認した。損害は、戦死1名、器官再生が必要な重傷者が、熊村側に9名、トンビ村側に5名運び込まれている。それ以下の重傷者が計29名、軽傷者や体調不良者はカウントしていないが相当数いる。予断を許さない者が熊村側にまだ数名いる為、カニハミさんも朝一で熊村に向かった。
なお、未手当で緊急搬送した2名のうち1名は、危険を冒して前進していたイモハミ婆さんと早期に合流出来て、命を取り留めた。ありがた過ぎて涙が出る。
戦える者は、今日明日総出で戦場の後始末と逃亡した小鬼の山狩を行う。何故そんな事を?と疑問を示した若衆は、凄まじい勢いで罵倒された。
当たり前だ。妖魔は学習能力も道具を操る能力もある。ついでに何らかのコミニュケーション能力もある。人の闘い方を見た妖魔を生かしておけば、次はもっと手強くなる。鏃を妖魔側に回収されたら…棍棒など比較にならない脅威になる。
「悲惨な状態に思えるかも知れんが、この程度なら直ぐにも戦力を回復出来る。我々は、タコ村側への作戦を早期に開始すると決めた。
4日後には、遊撃隊の活動を再開して欲しい。全く休みが無い状態だが、グズグズすると、若者の士気が砕けかねん」
ワシは、今日はトンビ村で負傷者対応と作戦会議、明日戦死した熊村のフカボリの葬儀に参列して、トンビ村に戻った翌朝から大鬼釣りを始める予定だそうだ。早めに目に見える戦果を挙げる事で士気向上の一助にする。そのため、こんなハードスケジュールになっている。
10日あれば、要器官再生者を除く戦士は復帰し、戦力の再編が出来る。そこで、直ぐ繁殖地の殲滅戦を経験させ、若者の自信を回復させる。
とてつもなく、楽観的だ。本当に同じものを見たんだろうか?
作戦会議において、夜を徹して行われた分析と議論の結果が紹介された。
「結論のみ言うと、妖魔を侮りすぎた。慢心じゃ。奴等にも情報収集と分析の能力がある事を意識していなかった。その為、誰も情報封鎖の必要性に思い至らなかった」
対策として偵察隊の強化が必要で、連合参加の村に追加派遣なり要員交代の依頼を掛けるそうだ。また、次世代の育成の為、小鬼を標的とする遊撃隊を何隊か編成する。
ワシらの第一遊撃隊が大鬼を狙うのと同時に第二以降の遊撃隊で小鬼を削る。偵察隊が大鬼の索敵をする前提なら、危険は許容範囲だろう。
その日も魔力が尽きるまで対応した後、早めに寝ようとしたら、アカユリ姉さんとアマカゼに連れ出された。少しでも元気を出して貰おうと、アマカゼがワシの好物を一生懸命作ってくれたそうだ。
嬉しいが、ワシには特別扱いされるような価値が無いと思う。まあ、何を言っても暗い愚痴にしかならん。黙って甘えておこう。アマカゼは、色々娘達の間の噂話を面白そうに話していた。
次の日、同行したトンビ村戦士長に葬儀での注意点の説明を受けた。『繰言など言わず自信ある態度を見せろ』、『少しで良いから、フカボリについて覚えているフリをしろ』の二つが強調された。
完全記憶を使って、フカボリの戦い振りを調べてみた。ああ、前に出過ぎだ、実力に釣り合っていない。ワシが、フカボリの戦いの詳細を説明すると、少し考えてから『フカボリの欠点まで言う必要ない。ただ、勇敢だったとまとめろ』と注意された。当たり前だろ。その位は配慮するさ。
葬儀でフカボリの父母に会い少し話をした。注意は守って、フカボリの勇敢さを讃えたつもりだが、上手く言えたか自信が無い。
その日も魔力が尽きるまで対応した。治癒術士を5人も掻き集めた為か、危険な状態の者は居なくなった。その為、トンビ村に戻る際は、スミレ坂とシカハミさんも同行する事になった。
再生の魔術を使えるイモハミ婆さんとカニハミさんが熊村で要再生者の対応をする。トンビ村では、クサハミ婆さん、シカハミさん、スミレ坂で重傷者の早期復帰を図る。要再生者は、動けるようになりしだい熊村に移動させる。皆、大忙しだ。ワシも落ち込んでばかりいてはいかんな。
そして、トンビ村に戻ったワシは予定通り大鬼釣りを開始した。
タツヤは、主人公なので、頑張れます。
次は自信回復です。




