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予想外の苦戦

 夜明け前から、トンビ村は騒がしくなった。夜明けと同時に出陣する以上、準備は夜明け前に全て済まさねばならない。

 今日は、大鬼残数0の最も近い繁殖地を3倍以上の数の優位で一気に殲滅する予定だ。


 準備は順調に進み夜明けと同時に出陣した。無論、偵察隊は、空が白み始めた時点で先に出発している。

 二時間程進み、後500m位の所で、全く予想外の報告が届いた。『繁殖地から小鬼が集団で熊村方向に逃げ出した』

 即座にワシを含む幹部で相談し、とにかく追い掛ける事が決まった。連絡等の雑事も手抜かりはしない。追い掛けるうちに夜になる事も想定すべきだ。


 小鬼の足跡を追い更に二時間程経った時、これも予想外の連絡が届いた。『逃げ出した小鬼は、次の標的である熊村に近い繁殖地に合流した』


 ワシは、イモハミ婆さんやヒノカワ様から聞いていた妖魔の性質を思い出し、天を仰いだ。何故、最悪想定の一つとして検討しなかったんだ。純粋に数が二倍になるだけでも不味いのに、何故、検討対象としなかったんだ。


 他の幹部は、『時間を掛けて徐々に数を削るべき』と『更に十分な戦士を集めるべき』の二策の優劣を議論していた。ワシは、その中に入って告げざる得なかった。


「時間を掛けるのは非常に不味い。最終的な戦死者数を最も少なくする手は、今日明日中に叩きのめすことだ」


 ワシは、事情を手短に説明した。


 繁殖地の容量を超えて増えると、妖魔は邪気不足で飢餓に陥る。そうすると、共食いを始めるが、喰った方はより上位の妖魔に進化してしまう。最悪の場合、今のワシには手に負えないレベルの妖魔が生まれ、そのまま大戦(おおいくさ)に発展してしまう。


「そうなると、大回りして作戦位置に行くか、予定通りのコースで移動して予定の倍数の側面攻撃を覚悟するかの二択しかないの」


 付近の地理に詳しい熊村の戦士が指摘した。繁殖地の地形上、斜面の上側から攻撃した方が有利であり廻り込む予定だった。その際、数の優位を考慮し、比較的繁殖地に近いコースが想定されていた。


「妖魔の動きが読めない以上、距離をおけば、更に不覚を取る可能性がある。誘い込むつもりで予定コースとする。なお、殲滅は諦め左右隊は作らず、本隊を厚くし、ガチ殴り合いとする。

 これは、総隊長としての決断だ」


 この連合部隊全体の隊長を務める熊村戦士長が断を下した。


 移動しながら次々と段取りを揃え、残り1kmで小休止して最終隊列変更と作戦の徹底を実施した。ワシに対しても魔力の温存の為、魔力矢の威力を少し落とすよう指示があった。足止めが出来れば十分だと。


 繁殖地から約200mの位置で妖魔らの雄叫びが聞こえた。良かった、誘い込めたようだ。小さな谷を挟んでいる分、地形的にも若干有利だ。


 見下ろす形で、魔力矢に集中して大鬼2匹を狙撃、成功した。死んではいないが、眉間が砕かれ転倒している。相当の時間稼ぎになるだろう。その間にも、周りから全力の弓矢攻撃が続いている。ワシも急いで参加せねばならぬ。

 それから、何時も通りの流れで接敵し、乱戦になった。後衛に廻ったワシの所にまで何匹か吶喊(とつかん)してくる。護衛と共に止めを刺した。


 小鬼が粗方倒れたところで、隊長から合図が出た。追撃可能なベテランは、ワシの護衛2名を残し大鬼の始末と逃走した小鬼の追撃に移る。残りの者で倒れている小鬼に止めを刺しながら、負傷者への対応をする。


 接戦だった分、状況は酷い。2撃以上受けた重篤な者が多数いる。部隊の半分近くが重傷者だ。だが、魔力が圧倒的に足りない。


 直ぐにも死にそうな者から、11名治癒した段階で限界が来た。これ以上魔力を使うと動けなくなる。いや、戦死者は出したくない。何とかもう少し……追加で1人治癒しただけで、酷い吐き気と眩暈がする。これ以上すると気絶して、回復する魔力を活用出来なくなる。


 真っ青な顔でワシが首を振ったのを見て、状況を察した皆が緊急搬送班を編成し、未手当の2名を運んで行った。


 救急車どころか、まともな担架すら無いんだ。とても、助かるまい。いや、ワシに今できる事は魔力の回復だけだ。他の事を考えるのは止めよう。


 その間にも、追撃していたベテラン達が次々戻ってきた。戦士長達幹部が議論し、重篤な12名の熊村への移送を優先する事にした。他は此処で野営する事になった。幸いにも食糧、松明、ムシロといった野営道具は、近くまで来ている。


 日が沈むまでにやらねばならぬ事は多い。動ける者は皆忙しく働いている。ワシは、魔力の回復と重傷者の状況を天秤に掛けながら、対応していった。容態が急変する者用に魔力の余裕を確保したいものだ。


 運の悪い事に、日が沈んでから雨が降り始めた。皆の体力が削られていく。テントも雨ガッパもない事が此れほど辛い事だったなんて……ワシは全然技術移植の役目を果たせていないんだな。


 翌朝、大量の重傷者を抱えながら、トンビ村へ出発した。6歳児の身体には、(こた)えたのだろう。ワシも自力では歩けなくなり、父に背負われての移動だ。途中で、熊村へ向かう一団とすれ違った。その中にいたスミレ坂がワシを見て目を剥いていた。ワシはどんな顔をしていたんだろう。


次は、ショックを受けたタツヤの様子です。

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