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スミレ坂争奪戦開始

 翌日、朝から祭りが始まった。次の日のことを考えると、昼から酔っ払って寝入った方が遥かにマシと結論が出ていた。


 連合の全ての村長が参加し、祭りは開始された。

 ・ワシの呪術士としてのお披露目

 ・村長らによる「お見合い連合」結成の宣言

 ・参加戦士全員による「燃える縁談大作戦」開始のエール

 ・スミレ坂らによる戦勝祈願の舞の奉納

 ・各村2名参加の「スミレ坂争奪戦」の決意表明


 と進んだところで、予定外の事が起こった。熊村の若者達による、スミレ坂争奪戦への参加表明だ。


 一応、熊村からも2名参加しているが、それ以外の若者が自分達も参加したいと主張し始めたのだ。何でも、熊村の秘宝であるスミレ坂がおめおめ他村の男に取られるのは、大変な屈辱らしい。


「スミレ坂様が好いた男が他村にいるというなら、仕方ありません。しかし、熊村の男が弱いとか、スミレ坂様を大切にしていないとみられる事は噴飯ものです。恥を雪ぐ機会を頂きたい」


 村長達も予想していなかったのか、会場のざわつきを抑える者が居ない。確かにもっともな話しだが、弱兵が増えすぎるのは、治癒術士として困るんだよな。嫌われ役を買って出るか。死なれるより嫌われる方がまだマシだよ。


「口だけは立派だが、弓も斧もまだ初心者、さらに槍についてはまともに扱えていない。大口を叩くには、実力が不足し過ぎていないか?」


 ワシの苦言に、相手は一瞬にして赤くなって、反論した。


「呪術士殿に分かってたまるか⁉︎」


「ワシには、他人の技量を見破る魔術がある。それによると、君は弓と斧がL1、それ以外に役立ちそうな技量も無い」


 我ながら酷い奴だ。


「まあまてタツヤ、それだと実力があれば大口を叩いても良い事になる。スミレ坂争奪戦とは言っても、スミレ坂の気持ちに反した事はさせられんぞ」


「私は、面白いと思う。実力者が私を巡って本気で競い合うのは、女の誉れだ。また、熊村の男が本気を魅せたいのなら、観てみたい気もする。

 武勇が低すぎたり人数が多すぎるのは問題だが、ここにはタツヤがいる。鑑定して選別するのに大した時間は掛からんだろ?」


 熊村戦士長とスミレ坂がそれぞれ意見を言った。


 村長達が集まって、少し意見を交わした。そして、熊村の村長が代表して言った。


「武勇を誇りたいのは、全ての男の本能だ。参加者を絞り過ぎた。細かい条件は、此れから決めるが、明日の闘い以降に追加参加希望者を受け付ける。

 それと、上位者がスミレ坂に求婚出来るのは、これまで通りだが、スミレ坂に蹴られた場合は好きな娘に求婚する権利も与える。

 スミレ坂も他の娘も同じだが、スミレ坂争奪戦による求婚を断れるのは、娘本人だけだ。身分違いだったりで親に反対されて苦しんでいる者もどんどん参加希望して良い」


 うん? 何か趣旨が変わっていないか? それに、相変わらず実質的な意味が無い。村々に名を轟かせた勇者なら、たとえ村長の娘に求婚しても門前払いは出来んし、する理由もない。


「ああ、これは大声では言えんが、いい交わした男が参加してしまった娘は、お見合い本番迄にスミレ坂に事情を話しておきなさい」


 村長の補足に、会場は爆笑に包まれた。祭り参加者全員に話して、大声も小声も無いだろう。


 食事と酒も出て場は騒がしくなって行った。ワシはアマカゼと連れ立って、彼方此方挨拶廻りを始めた。意図して、アマカゼを観て嬉しそうにするのも忘れない。


 まあ、切っ掛けがどうあれ、連れ添う気でいる者の存在を感じると、自然と嬉しく温かい気持ちになる。


 アマカゼと歩きながら話して、スミレ坂争奪戦の条件変更の裏が分かった。アマカゼが、スミレ坂の居心地を考えて、武勇の競い合いの側面を強調する事を村長らに頼んだそうだ。他の好いた娘への求婚の権利は、そこでアイデアとして出たということだ。

 娘達と話する際にスミレ坂を擁護するのも怠りない。二人は、本当に仲良しになったんだな。そんな話をしたら、思いっきり呆れた顔で言われた。


「全てタツヤのせい。タツヤの態度が曖昧過ぎたから、今まで手を打てなかっただけだよ。

 まあ〜、昨日タツヤがその面は見掛けの歳通りと分かったから、もう怒ってないけど」


「でも、申し立てしたあの男の子は、何であんなスタンドプレーしたんだろう?」


「はあ〜、一々説明するの疲れるけど、タツヤを選んだ私の役目よね。

 あれは、スミレ坂さんを女神とも慕っての行動だよ。自分が棒にも箸にも掛からないのが耐えられなかっただけだよ。

 だいたい、それもタツヤのせい、重傷で苦しんでるあの子を『死にはしない』と平然と切り捨てる鬼のタツヤの後に、美少女に治療して貰ったら、女神にしか見えなくなる。

 皆んな、心情が痛いほど判るから、何も言えなかったのに……。若い子達は、タツヤの事を鬼と再認識したわよ。どうやってフォローすべきか……。タツヤは、何考えてあんな事言ったの?」


「それは『我ながら酷い奴』と思うけど、死なれるよりは、嫌われる方がマシだよね?」


「……タツヤって……まあいいよ。フォローするのもタツヤを選んだ私の役目だわ」


 祭りでは、その後も色々あったが、夜明けと同時の出陣に向けて、戦士は皆早目に寝た。


お祭りの翌朝には、本格的な作戦行動が始まります。

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