祭前日
同じように、タコ村戦士団も迎えにいき、祭前日に予定していた戦力が集結した。なお、襲撃して来た繁殖地は、30名以上繰り出して掃討し再利用出来ないように全て焼き払ったそうだ。
先の戦闘において、武器の持ち替えに手間取る者が居る事が分かった。重傷者5名全てがそれに関係する。当人か、庇う為に不利な姿勢で闘ったかだ。
その為、若衆と未成年者には、何度か持ち替え訓練をさせ、不合格者は武装を変えた。
3名が弓矢専念、18名は近接戦専念となった。ワシも鑑定で振り分けに協力した。
大体、L3で早弓が出来るようになるのか。弓の名手を集中させるべきか相談すべきだな。
祭前日の夕方近く、何故かスミレ坂と許婚のアマカゼが一緒にやって来て3人で過ごす時間を持った。二人共何かぶち撒けたいものがあるそうだ。うん? ワシ何もした覚えないんだが?
「村長達の悪ノリが広まって、居心地が悪くて困っている。もし、面と向かって『男漁り過ぎ』とか酷い事言われたら、笑い飛ばせば済むのだが……それでも視線が痛い」
スミレ坂が珍しく暗い表情で愚痴を零した。
村長らの悪ノリとは、13から17歳までで戦功3位までの男にスミレ坂への求婚の機会を与える、公称『スミレ坂争奪戦』の事だ。各村から若く有望な男を連戦させる口実として考案されたものである。
実は、次世代のリーダー候補を競い合わせ成長を促す以外の意味は無い。何故なら、3位までに入っても、婿入どころか求愛する義務もなく、さらに他の者が抜け駆けてスミレ坂に求愛する事を禁じる気も無い。
有力な参加者として、熊村長の末息子のタケル、タコ村長の長男のウオサシ、狼村長の5男のアサギリなどが居るが、実は婚約者が居たり、時期村長だったりで、イマイチだ。
誉れを讃える出汁に使われる事にスミレ坂が同意しただけだ。そんなことは、参加者全員が知っている。
「明日の為に唄と舞を練習すると、何処からともなく若い娘が集まって厳しく品定めされるんだ。それが辛くてアマカゼに取りなしを頼んだんじゃが……」
「スミレ坂さんなんて、全然マシだよ! 笑い飛ばされたら、恥をかくのは周りの娘の方! 嫉妬する方が浅ましいって皆んな分かっている。
それより、私の方が肩身が狭い。タツヤに本当に相応しいのか? なんて問われたら返す言葉が無い」
アマカゼが怒って言った。
「うん? 兄ちゃんや姉ちゃんに聞いていたのと違うな? 確か、4歳も下の男を押し付けられて同情されているって聞いた」
ワシは、ポロリと余計な事を言った。
「何時の話しよ! それは⁉︎ 第一私は望んで許婚になったのだから、同情される理由なんてない‼︎
タツヤが最強で最高の男になるのは分かりきっている。今から、唾を付けておけば、私は幸せになれる。必ず」
アマカゼが、そこまで考えていた事にワシは吃驚した。
「ワシと一緒になって幸せになりたかっただと……ワシは、何も見えていなかったんだな。有力な者を一族に取り込む、一種の風習だと思っていた。誤解していて、誠にすまん」
呆れたように2人が視線を交わした。
「バカなの?」
「私に聞く話しではないが、時々大馬鹿になるのは同意する」
「人の許婚をバカにするなんて、失礼しちゃう!」
「アマカゼの方から切り出した事だ」
その後、今度は2人が連合してワシを攻め始めた。ワシには、男としての狡さが足りなくて、ドキドキ感が楽しめないそうだ。6歳児に期待する事では無いだろうに。
長くなりそうなので作戦会議を理由に逃げようとしたら、既に迎えに来ていた遊撃隊のメンバーに止めを刺された。
「さっきから聞いていたが、タツヤが全面的に悪い。作戦は、タツヤ抜きでも十分検討を進めておくから、今日は女達の不満を聞いてやれ。
こんな率直に言ってくれる機会なんて滅多にないぞ」
夕食後、母さん、クサハミ婆さん、村長の奥さんの大人の女性3人も加わって、ワシの対策会議が延々と続いた。
流れがよく分からんかったが、アマカゼを尊重する事を誓わされた。そうした方が、娘達の心が落ち着くらしい。また、アマカゼとスミレ坂は、すっかり意気投合していた。
次は、お祭りの様子です。




