ヒノカワとの出会い
ワシらが、タコ村の門から招き入れられると、すぐに壮年の男女が向かって来た。イモハミ婆さんらと共通の印象がある。女性のほうはカニハミさんだろう。隣も相当の魔術士だが、夫婦揃って魔術士なのかな?
「タツヤちゃんだよね。話には聞いていたけど実際にみると驚くね。私はカニハミ、この村の呪術士をしている。夫は、急な来客でテンヤワンヤ、失礼するけど、気を悪くしないでね。
そして、この男が問題の来客。猪村のヒノカワ様。話は、聞いた事あるよね」
「はじめましてヒノカワ様、私がトンビ村のタツヤです。先日魔術士になったばかりのひよっ子ですが、宜しく、お見知り置き下さい」
よく見ると、イモハミ婆さんを遥かに超える魔力がある事が分かった。戦いになれば、瞬殺される! 逃げる事すら望めん。ワシは内心ビビリながら型通りの挨拶をした。
怯え本能的に鑑定をしたがる心と敵対行為と見做されかねないと警告する心の対立
ひれ伏して慈悲を請いたい心と舐められたらマズイと警告する心の対立
幾つもの気持ちが荒れ狂いワシはパニック状態だった。
「落ち着け。とは、言っても無理か……
祖霊に願い奉る、この愚か者に平穏を」
いきなり、ヒノカワ様に鎮静の魔術を掛けられた。
「私が猪村のヒノカワ、見ての通りの者だが、道理は君より何倍も弁えている。幼き者の振る舞いに一々怒ったりはしない。基本的には味方なのだから、安心したまえ。
しかし、顔を合わせただけでコレとは……この子は、何か強さを測る手段でも持っているのかい」
「そうだね〜私も術を実際に見るまでは、ヒノカワ様が此処まで剣呑な男とは気付かなかったからね〜。実戦経験がある魔術士は、何か違う所があるのかも知れないね」
カニハミさんのノンビリした声に、ワシは周りを見渡した。後ろの遊撃隊のメンバーが、ワシを安心させようと優しい笑顔を見せてくれた。
他の者は、恐怖を感じないのか?……そうか、目で見るだけなら、身体を鍛えている事しか分からん。魔力を見ても何が出来るか判らん限り恐れる理由はない。これは、ワシに何かあると教えたのと同義か。
「僕には、他人の技量を見破る魔術がある。無論、無断で調べるような無礼はしないが、副作用で意図せず強さを感じてしまうようだ」
「聞いた事が無い魔術だね〜。構わないから、君からどう見えるか教えてくれないか?」
ヒノカワ様は、気負いなく告げた。
「では、まず自分から」
呪術士技能L1/動植物知識L2
布作成L2/石器作成L1/木工L1
魔力操作L1/治癒術L1/魔闘術L1/鑑定L1
弓矢L3/斧L1/槍L1
忍び足L2/周辺警戒L1
「そして、ヒノカワ様は」
弓矢L4/槍L3
魔力操作L2/MP強化L1/魔力強化L2
治癒術L3/再生L1/解毒L1/洗浄L1/鎮静L1
魔闘術L3
発火L4/火炎操作L5/鎮火L1
水生成L4/水流操作L5/水温操作L3
水浄化L1/乾燥L1/液化L1
風操作L3
落下制御L3/飛行L2
言霊L3/直感L3/警報L3/遠視L3
地域情報把握(対象:魔物)L1
やはり、とてつもない。味方で良かった。
「う〜ん、レベルってのが良くは判らんが、強さを測る手段があるのは事実みたいだね。
となりのカ二ハミは?」
「別に調べるのは構わんが、乙女の秘密には触れんようになw」
乙女の秘密? それらしいのはないが、カワハミさんと同じようにこの人も娘扱いが好きなのか?
「では、戦闘技術と魔術のみに限ります。」
魔力操作L1
治癒術L3/再生L1/解毒L1
「そうか、カニハミもいつの間にか再生を習得したんだね。う〜ん、これって魔物にも使えるのかな?」
「目に見える物なら何かしらの情報が得られます。妖魔については、種類とおぼろげな強さと硬さですね」
「それなら、必ず視るようにしなさい。魔物の中には、見た目では分からない強さを持つ奴がいるからね。希にだが、小鬼の中にも弓矢や魔法を使ったりする奴がいる。あるいは、妖魔王のように、今の君では太刀打ち出来ない奴もいる。
最悪の場合は、さっさとケツをまくって生き延びるのも、君の場合は義務だよ。
それはそうとして、君明日は暇かな? 今日は、長旅で疲れたので、明日色々話がある。せっかく、遠くから会いに来たんだ、時間を割いてくれるよね」
え? ヒノカワ様はワシに会いに来たのか?
「そう意外そうな顔をするなw 修行を終えて表敬訪問しに来た兎村のハヤドリに聞いたんだよ。物凄い天才だって」
「タツヤちゃん。悪い事は言わないから、時間を割いてやりな。何かしら、身になる事があるから。ついでに、此奴は、基本善人だが、疲れると怒りっぽくなる。
今日は、美味い飯と酒を愉しませて、宥めておきたい。本気で怒り狂ったら、この村ごと消炭になる」
「人を災害みたいに言ってw 失礼しちゃうなw 侘びにカニハミにも唄と舞を披露して貰おうかなw」
「……高名なヒノカワ様と直にお話しが出来るなど光栄の極みです。是非明日お時間を割いて下さい」
ワシは馬鹿らしくなって定型文で応えた。
ヒノカワ様は、普通に善人です。裏とかは有りません。




