遊撃隊の編成
運が良いのか悪いのか、偵察隊から大鬼を発見したとの連絡があった。即座に対応が決断され、戦闘準備を開始した。
ワシと、トンビ村3人、熊村2人が正面班、狼村と山猫村は一拍遅れで左右から攻撃、偵察隊を含む残りの熊村で背後に回り込む。大鬼が逃げ出した場合は、戦力的に深追いはしない、いや出来ない。
力を示す必要があるが、魔闘術は持久力に効果が無い。実は疲労でフラフラだ。ワシは、大鬼相手の魔力矢に集中する。なんとか、3射までは可能だろう。
50m程度から、弓矢での攻撃を開始、一発目の魔力矢が命中し、大鬼がひっくり返った。起き上がって来ないまま、止めを刺すため8人が殺到した。直ぐに集合の合図が出て、ワシは現場に向かった。
即死まではしなかったものの顔の中心が大きく陥没し、戦闘力を失ったらしい。綺麗に止めが刺されているのが見えた。ここで油断すべきでない。解体に村への輸送、やる事は沢山ある。無様な姿を見せてはダメだ。
重い身体を引きずって作業に移ろうとした時、熊村戦士長から休めの指示が出た。
「まだ、タツヤの技量に疑問がある者はいるか?」
「いや、無礼を働いた事、誠に申し訳ない。タツヤ殿は、命を賭けるに相応しい方だ。是非とも今回の連合作戦に参加したい」
熊村戦士長の問いに、狼村の戦士が応えた。正直ほっとしたが、此処は戦場、油断してはいかん。
その後、日没ギリギリに熊村に帰還した。村長の家での軽い宴にて、「お見合い連合」と「燃える縁談大作戦」の仮称が紹介された。皆、口々に褒めていたが、本当に士気が上がるんだろうか? この世界のネーミングセンスは謎じゃ。その日は、戦士小屋にてかなり遅くまで武術や戦術について話し合った。
そうそう、連合に参加する村は、想定通り7村だ。熊村、トンビ村、タコ村の川沿い3村に加え、熊村に近い狼村と山猫村、タコ村の東西にあるクジラ村とクラゲ村だ。何れの村も治癒術を使える者がいる。
タコ村の呪術士は、実はイモハミ婆さんの4女のカニハミさんだ。14年前に、夫と共に熊村からタコ村に移住し、夫は直ぐに村長の座を譲られた。悪く言えば、夫と共にタコ村を乗っ取ったともいう。能力は高く、イモハミ婆さんに次ぐ四肢欠損を回復させられる大魔術士だ。
朝の鍛錬の後、今度はイモハミ婆さんに呼ばれ、見習いを含めた呪術士の皆と顔を合わせた。まだ、二カ月しか経っていないが懐かしい気がするな。
春になり治療小屋に新しい修行者が2名来ていた。作戦開始後の戦傷者の増加を考慮して、連合する村からさらに見習いを何人か集める事を計画している。
また、戦場近くで魔力が不足する事を想定し、若く体力のあるスミレ坂が、戦場に応じて熊村から移動する。実は、この二カ月の間にスミレ坂も治癒術が使えるようになったそうだ。
ハヤドリは、迎えがすでに熊村に到着しているが、ワシともう一度会うため、出発を延期したそうだ。
しばし、お互いの近況を紹介しあってから、スミレ坂が切り出した。
「タツヤ、恨むよ〜。もっと小規模なお見合いを考えていたのに、連合だ! 作戦だ‼︎ って恥ずかしくて家から一歩も出れない」
ワシはまた失敗してしまったかと青ざめた。
「うう、確かに凄く恥ずかしそうだ。でも今更止まらないし、僕どうしたらいいの?」
「あはは、面白い。急に子供言葉になる癖もまだ治していないんだ。
冗談だよw タツヤには感謝している。必ず良い夫を見つけて幸せになってみせるよ。
まあ、裏でスミレ坂争奪戦とか言われて恥ずかしいのは事実だし、唄と舞を叩き込まれるのは、正直うんざり。私も色々あるけど、タツヤの方が遥かに大変なのは理解しているつもりだよ。
だから、私も覚悟を決めた。この作戦で戦功が高かった未婚者を婿にすると宣言する。七村で最も美しい乙女も演じきってみせる」
「戦功が最大なら、どの村の男でも良いの?」
ワシの発言に、皆が『バカなのか?』って目で見返してきた。正直怯んだ。暫く沈黙が続いた後で、スミレ坂が赤くなりながら応えた。
「それって、嫁になれ宣言ではないよね? 単にバカなだけだよね。
タツヤで鉄板なんだから、戦功最大者を指定する訳にはいかない事判るよね。
まあ多分、熊村の男に魅力を感じないって話を気にしているんだろうけど……この際、熊村の男でも構わない。
よく考えたら、私は熊村の男の闘う姿なんて見た事ない。だから、男としての本当の魅力に気付いてないだけかも知れない。
私の為に命を賭けて歴戦し、その実力を捧げられるなら、誰であっても女冥利に尽きると思う」
その後、見習いを外して魔術士としての懸念事項について、イモハミ婆さんが説明し、散開した。
それから、ワシは遊撃隊の編成と標的である繁殖地の位置確認を兼ねた長い旅を始めた。熊村から狼村、山猫村、再び熊村、トンビ村と進んだ所で予定していたメンバーが揃った。
そして、次の目的地のタコ村でカニハミさんともう一人の重要人物に出会った。
見たことはないけど、TBSに「お見合い大作戦」という番組があるのは知っています。
流石に、完全に被るのは、避けました。




