トンビ村への帰還
次の日、順調に予定をクリアし、夕方近くにトンビ村に到達した。同行したのは、熊村長と護衛が2人だ。
疲れていたのでトンビ村長とクサハミ婆さんに簡単に修行終了の報告をし、懐かしい我が家で泊まった。そして、朝練と朝食を終え、村長の家に集まった。
「タツヤおめでとう。こんな短期間で開眼するとは、喜ばし過ぎて驚きが隠せんよ」
「昼から略儀で祖霊への奉納の儀を行い、タツヤを正式にトンビ村の呪術士にする。お披露目の祭りは、春になってからになる。それまでに、最高の衣装を作ろうと、ソメアサが機織り小屋の者を総動員しておる」
「明日からワシが直接指導してやろう。必ず立派な戦士にしてやる。それと、道具造りのカシイワが、タツヤ用に最高の弓と十分な矢を作ると張り切っておった」
村長、クサハミ婆さん、戦士長に言われ、ワシは面映さにムズムズしていた。
「こんなに祝ってくれて嬉しい。本当にありがとう。ワシも、もっともっと精進する」
しばし喜び合った後、トンビ村の村長が同席している熊村の者に言った。
「タツヤがこんなに立派になったのは全て熊村のお陰だ。感謝に堪えない」
「いやいや、私等は何も出来なかったとイモハミ婆さんも話していた。全てタツヤの努力の賜物じゃ」
「それはそうと、タツヤを送る為だけに村長自ら来た訳ではなかろう。何か変わった事があったのか?」
熊村長は、おもむろに要件を切り出した。
「いや〜話が早くて助かるよ。いやいや、別に悪い話じゃない。実は、村同士の結びつきを強める為、集団での見合いを考えている。
ほれ、祭りで若いもんだけ集まってやっておるじゃろ。あれを複数の村合同でしたらどうだ? 新鮮な出逢いに良縁が生まれるとは思わんか?」
「それはそうだが? 何故この時期に? タツヤは、まだそんな歳ではないぞ?」
「スミレ坂の婿探しだろうて、しかし、意外じゃ。ブナカゼ兄さんの息子から選ぶと思っていた。」
トンビ村長の疑問にクサハミ婆さんが横合いから口を挟んだ。
「娘を含む多人数で移動するのは危険じゃな。熊村との間には、妖魔の繁殖地が複数ある」
「参加する村全てがお互いに友好的でないと……というか、婿を出せる余裕がある村しか無理か……前向きに考えてみたいが課題が多いの」
戦士長とトンビ村長がそれぞれ言った。そして、トンビ村長がしばらく考えたうえで言った。
「少し村の中で議論したい。他に変わった事はないか?
こっちでは、また孫が生まれての……」
それから歓談が続いた。村を見学する為に熊村の者が出てから、色々事情を聴かれた。スミレ坂の婿探しが主な目的と納得した後で、戦士長が発言した。
「理想を言えば、経路に近い繁殖地を4つ殲滅する必要があるが……犠牲無しにやり遂げるのは難しい。時間もかなりかかる。
連合して十分な戦力をかき集める事が必須の条件だ」
「現実的に考えて参加出来る村は7つだが、そこまで広げると繁殖地の数は更に増える。連合するにしても優先順位をどう決めるのか……
しかし、これを契機に村々の経路を掃除出来れば利益は大きい。最大戦力の熊村が本気なのは大きなチャンスかも知れん。村長としては一旦色よい返事をするのも手と考える。
連合出来なければ、所詮流れる話だ」
「心情的に協力してやりたいが、これは男が判断すべき事案だ。ちなみに、タツヤはどう思う?」
クサハミ婆さんがワシに話を振った。
「戦力の査定と強化が先だと思う。不足するなら、これから何年か掛けて強化するだけだ。スミレ坂も熊村も1年や2年で諦めるはずはない。
極端な話、25歳でも健康に子供を産む事は十分可能だ」
しばらく、絶句した後で戦士長が賛成に回った。
「何年かすれば、タツヤも先代のユウナギ様のように、部隊に追随し救命に当たれるようになるのか。闘い方を仕込める分、悲劇が起きる可能性も低い。
一旦は、色よい返事をすべきだな」
その日の予定は恙無く済んだ。翌早朝、熊村のものを見送る際に、村長は集団見合いへの賛意を伝えた。
それから数日、弓と魔術の訓練にへとへとになりながら過ごした。そう、ワシの生活も大きく変わった。一軒の竪穴式住居を与えられ一人で暮らす事になった。更に、村長の孫で10歳のアマカゼが許嫁になった。とんでもない話だが……拒否出来るものでもないし、拒否する理由も乏しかった。
とはいえ、元服の際に、それまでの約束事は一度無効になるのが決まりだ。この決まりは、主に不幸な婚姻を防ぐ目的であり、ワシらの婚約にも当然適用される。ただ、アマカゼが乗り気そうなのは気になる所じゃ。
隗より始めよ。
偉そうな事を言うタツヤの査定が必要ですねw
H29.3.18トンビ村の先代呪術士の名前をユウナギにしました。前後の台詞の内容も見直しました。




