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魔術士になった翌日

 翌朝、何時も通り訓練場所に行くと、戦士長が慌て側に来た。どうやら、直々に指導してくれるそうだ。弓を希望して、暫く何時もの通り打ち込みをしていた。


「早弓を教えるので、まずは手本を見なさい」


 戦士長は、そう言って10本の矢を瞬く間に的に当てた。その日の訓練は、一つ一つの動作について注意を受ける事に終始した。有難い事だ。一人で練習するより何倍も勉強になる。


 朝の治癒小屋への見回り時、昨日と同じようにイモハミ婆さんに合わせて魔力を注いでいると、突然


「タツヤ、そこまでにしなさい。サザナミは、誰でも良いから若衆を呼んでおいで。ハヤドリは、となりで横にする準備、アカハナはここで介抱してやりなさい。魔力の枯渇だよ」


 何事なのかと慌て姿勢を正そうとした瞬間、目眩がしてアカハナに抱きとめられた。若衆を待つまでもなく、アカハナに運ばれて隣の小屋で横になった。


「タツヤ、自分の中の魔力に意識を向けなさい。随分と減っている事が分かるかい?」


「確かに、朝起きた時と全然違う!」


「魔力が減りすぎて、回復させようと身体に負担が掛かって居るんだよ。この自分の限界をよく覚えておきなさい。更に、無理をして魔力を使おうとすると、身体を損なうからね。

 まあ、タツヤは魔力を流すのが上手い分、早くて助かったよ。この状態は、一度は経験させとくべきだから。

 ああ、安心おし。このレベルだと昼までには回復するから」


 横になったワシを相手に講義は続いた。何でも、キチンと寸止め出来るようになるまで今日明日使って実習するそうだ。


「スミレ坂も真剣に見なさい。他人の限界を把握出来るようになるのも重要だから。滅多に無い機会なんだから、上手くタツヤを教材にするんだよ」


「は〜い。でも、弱っているタツヤも面白いね」


 何故か? スミレ坂他が笑っておる⁉︎


 昼飯は、顔つなぎの為分村のリーダー達と一緒に食べた。

 手狭になった熊村では、5年前に近くに分村を拓いたそうじゃ。警報の魔法を使えるカワハミさんが分村の呪術士をしている。そのカワハミさんには孫が居るが、自己紹介で「婆さん呼ばわりは許さない。姉さんと呼びなさい」と息巻いていた。


 午後は、薬草に魔力を込めながら、ワシ、スミレ坂に加えて、シカハミ、カワハミの四人で寸止めの練習をした。シカハミ、カワハミは、イモハミ婆さんの長女と三女のはずだが、結構性格が違うな。


 午後の練習では、ワシだけ2回も魔力切れを起こした。


「タツヤは、魔力流すのが速すぎるんだよ。限界に近くなったら、もっと慎重にしなさい」


 何故か? 主に、スミレ坂が指導役をしていた。


 夕食の時、スミレ坂に聞いたのだろう、村長とイモハミ婆さんが知っている限りの村々について教えてくれた。その中に、イモハミ婆さんに比肩されるもう一人の大魔術士の話しがあった。

 彼は、西に8日程いった猪村のヒノカワと言う。一定の治癒術に加え、火と水を操り、大戦(おおいくさ)において、密かに最大の打撃戦力を務め続けている。


「ヒノカワが参加してくれなかったら、大戦(おおいくさ)は遥かに凄惨なものになるだろう。いつの日か、タツヤは会いに行くべきだ」


 スミレ坂と一緒に旅人小屋に行くと、3人娘がいて驚いた。


「村々についてタツヤに教えてあげるよう頼んだの。熊村からは遠過ぎる村もあるから。それと、ハヤドリが昨日のお詫びに舞を贈りたいって」


 スミレ坂が説明してくれた。


「そんな、僕の方が無神経過ぎだったんだよ。詫びて貰う必要なんてないよ」


「でも、このままでは、嫉妬に狂った醜い印象だけが残ってしまう。ひとかどの者に醜い女と思い続けられることは、耐え難い恥辱です。

 私の一番美しい姿だけを心に残して欲しい」


「ハヤドリは、昼間一生懸命準備したの、無駄にしないであげて」


 本人とアカハナの二人に言われ、ワシはそのまま姿勢を正すことにした。アカハナ、サザナミの唄に合わせ、ハヤドリは大層上手に踊った。


「私は、とてもここまで到達出来ないだろうな。タツヤ! 良いもの観れたね。ほんの小さい頃からの努力の結晶だよ」


 惚けているワシの代わりに、スミレ坂が話し始めた。


「明日朝の見回りで上手く寸止め出来たら、タツヤをそのまま送って行くと、村長がさっき言っていた。タツヤが出来るだけ多くの村を知りたがっているから、協力してあげて」


「その話だけどどんな意味があるの? タツヤが、兎村付近まで来ることなんてありえないでしょ」


 兎村の位置を思い浮かべ、ここから南西で移動距離は大体100km位と確認してからワシは応えた。


「いや、強行軍なら3日か4日の距離、用事があれば兎村まで行くかも知れない。というか、行き合えるようにしたい。遠い夢かも知れないが、いつか必ず達成する」


「あはは、楽しい夢だね〜。私、昨日から、タツヤの大馬鹿話に付き合っているの。祝儀と思って皆んなも付き合ってよ」


 3人娘は、お互い顔を見合わせた後、諦めたように話を始めた。


 ワシは地図と対照しながら聞いていた。


 やはり、この記号は、既に滅びた村を意味するのか……本気で酷い世界なんだな。


 話を終え、4人は帰って行った。


次は、トンビ村への帰還です。スミレ坂の婿取りに向けて動き出します。


H29.5.11、兎村の位置を熊村から南西方向、海があって直線移動できないので100㎞と設定しました。

それに伴って、文章を見直しました。

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