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互いの夢と希望

「タツヤは、頭良い割に抜けている部分があるんだ。頭の回転と発想は、イモハミ婆さんすら遥かに超えている。しかし、精々10歳以下のお子ちゃまみたいな部分もある。

 ああ、詮索する気はないよ。ただ、観てて面白いだけ」


 うう……なんか悔しい。


「スミレ坂だって、さっき飛び出した時に言われていたぞ。生意気だけどって」


 スミレ坂は、頬を少し染めて、それでも言った。


「自分の婿探しをあんな大勢の前で話題にされたら仕方ないでしょ。

 でも、私は前に進む事にした。自分の夫を諦めず探す事にした。私がこの人と思える人に出逢えるまで」


 スミレ坂が少し眩しくなった。


「眩しすぎて何を言えば良いのか分からない。おめでとうと喜ぶべきか、スミレ坂なら必ず出来ると励ますべきか……確かにワシはお子ちゃまだね。言いたい言葉でなくて、言うべき言葉を探すなんて」


「そういう所タツヤは捻くれてるね。まあ、良いの。トンビ村に帰ったら、ちゃんと私の宣伝しておいてね。タツヤは、近いうちに一度帰る事になっているから。

 今、村長は色んな段取りに大忙しだよ」


 話題が転換した事にワシは少しホッとした。


「そう言えば、此れからの予定はどうなっているんだろう?スミレ坂は何か知っている?」


 暫く、スミレ坂は絶句していた。そして、気を取り直して話し始めた。


「なんと言ったら良いのか? タツヤってとっても変わっているね。若しかしたら、飛び抜けて受け身なのか、単に極端に鈍感なのか……タツヤが何も聴いて来ないから、段取りを分かっていると思い込んでいた。

 タツヤは、すでにトンビ村の有力者だ。だから、熊村が理由もなく止め置ける訳はない。だけど、熊村とトンビ村の友好の為には、出来るだけの顔繋ぎをしておきたい」


 スミレ坂の説明によると、魔術士への最小限の教育──予定では後2日──を終えるまでに、色々終わらせねばならないそうだ。

 ・分村を含めた熊村の役付きとの顔繋ぎ

 ・ワシの処遇についてのワシ自身との議論

 ・トンビ村への使者と護衛の選定


 しかも、集団見合いについてワシにも協力して欲しいようだ。


「そう言えば、タツヤは此れからどうしたいのか希望はあるの?」


 ワシは少し考えて答えた。


「イモハミ婆さんの技全てを習得したいが、物凄い時間が掛かるだろうな。まだ、クサハミ婆さんは健在だから、先に魔物との実戦経験を積んで強くなる事が先か? それに、はっきり言って行動範囲が狭すぎる。もっと広い範囲まで足を延ばすのも重要かもしれない」


「タツヤは男の子なんだね〜まさか、呪術士なのに闘いたがるなんて、意外過ぎてビックリしたよ。

 ここで一緒に修行するか、トンビ村に帰るか位しか頭になかったよ。

 そう言えば、もっと広い範囲ってどの辺りの事?」


 ワシは、島の露鉱配置を思い浮かべながら答えた。


「島の南端は欲張りすぎだけど、近い南西の海への途中や、出来れば西側の海岸までは行ってみたいな。色々調べたい事がある。でも、村々の関係の知識が不足し過ぎか……下手に彼方此方行って、敵対行為と見做されたらマズイな」


 スミレ坂は、苦笑しながら言った。


「ちなみに調べたい事って何? まるで、場所の目星があるように聞こえるのは、私の耳が可笑しいのかな?」


 一口、水を飲んでから続けて、


「タツヤは、物凄く迂闊な部分があるんだよ。イモハミ婆さんに詮索するなと注意されてるから、これ以上聞かないけどね」


 それから、暫く雑談した。スミレ坂が持つ熊村への深い思い、お互いの村の人々の話など取り止めなく話は続いた。そろそろ寝る時間になった頃、最後にスミレ坂がむくれた顔で聞いてきた。


「私、結構恥ずかしい話したよね。将来の夢とか。でも、タツヤは正体が掴めない。信用してって言ったよね」


 そうか、ワシは秘密主義過ぎて心を開いていないのか……


「恥ずかしいから、今からの話は秘密だ。馬鹿げているから笑うのはいいけど、誤魔化しじゃ無いから、嫌いにならないでね」


 一呼吸おいてから宣言した。


「ワシは世界を救う。どれほどの時間を掛けようと。少なくとも、その第一歩を歴史に刻む。それが可能な者として祖霊と神々に選ばれてしまった」


 スミレ坂は、目を瞬かせ「世界ってこの島全体って事?」と呟いた。


「この島は、世界のほんの一欠片だよ?」


 色々表情を変えてから、聞いたことも無い歌を唄い始めた。


「タツヤの夢は天井知らず〜」


「タツヤって、見掛けより、遥かに突き抜けて大馬鹿者だったんだね」


 それから、迎えに来た父親に連れられてスミレ坂は帰り、ワシも長い一日を終え眠りについた。

 作者の頭の中では、片岡輝作詞、越部信義作曲の「勇気一つを友にして」をスミレ坂が歌っています。

 例え4番まで歌っても、タツヤの勇気を見習う気は、スミレ坂にはありません。

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