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スミレ坂の話

 神託の話を終えて、イモハミ婆さんはフッと息を抜いた。


 この話は、イモハミ婆さんにとっても重い話なんだな。幾つもの辛い記憶を乗り越えて、それでも努力を続ける。イモハミ婆さんの顔に意思の強さが刻まれるのは当たり前か。


 緊張を解いたイモハミ婆さんは、最後にポツリと呟いた。


「私にとってスミレ坂は、希望の光なんだよ。あの子の素質に気が付いた時、私は救われた気分になった。あの子なら、真の意味で私の後継者になれる。それどころか、あの子の素質が子に受け継がれるものなら……長い時間はかかるだろうがこの島を救える。

 この村にとってあの子が幸せな家庭を持つ事がどれほど重要か分かるだろ?」


 それで村長があんなに絡んだのか……


「さて、私の話しは終わりじゃ。スミレ坂のとこに行っておいで。ああ、スミレ坂は、今晩の話しは全て知っているよ」


 ワシは、寒さに震えながら旅人小屋に声を掛けた。


「スミレ坂さん、タツヤです。入っても良いかな?」


「良いよ。タツヤいらっしゃい」


 中に入ると、スミレ坂とその母親がいた。


「紹介するよ。この人が私の母さん。私は母さんの5人の子の中の末娘だよ。成人した兄さんと姉さんが二人づつ居るんだ。

 母さん、この子がトンビ村のタツヤ、今日開眼したの。私を越える超優良株だよ」


「トンビ村のタツヤ様、ご挨拶が遅れ申し訳ありません。御用の際は何なりとお申し付け下さい。

 では、スミレ坂様、今日はこれにてお暇させて頂きます」


 たどたどしく挨拶をし、急ぎ出て行った。何事なの?


「驚かせたかな? タツヤを泊める準備の手伝いを頼んだら、母さんがどうしても顔を見たいと言ったんだ。

 この村では、呪術士の身分は一段高いから、私の家族は、私の従者扱いになってしまうんだ。下手な敬語使うのは緊張するだろうから『気にしないで帰って』て言ったんだけどね」


 年頃の娘が男と二人きりになるのに気にしない親がいる訳無いだろう。


「いつもあんな感じなの?」


「アハハ、タツヤは面白い事を言うね。親子であれは無いわよ。ただ、タツヤが一緒だからケジメを付けただけだよ。

 修行者達をめげさせないように、呪術士は一段偉そうにするのが熊村流儀、公ではケジメ付けるけど家族だけなら普通だよ。

 ああ、立ってないでそこに座って。水は、壺にあるから自由に飲んで。寛いで下さい」


「では、お言葉に甘えて楽にさせて貰うね」


 暫くお互いの家族のことなど紹介し合っていた。


「実は、今日タツヤはイモハミ婆さんの所に泊める筈だったんだ」


 話題は、今日の朝からの裏話に移った。


「え?これまで通り戦士小屋に泊まるものと思っていた」


「熊村では見習いと呪術士では、差を付けるのが常識なんだよ。今日からタツヤは修行者ではなく賓客として扱われる。最初はイモハミ婆さんの客とする予定だったけど、私が頼んで変えて貰った」


「え?僕を悩殺するのは冗談だったよね」


「アハハ、面白い。単に、ゆっくり話したかっただけだよ。仲良くなるなら、老い先短いイモハミ婆さんより、長い長い付き合いになる私の方がお互いの村の為になる。タツヤが何時まで居られるかは、トンビ村次第だからね」


 そうか、同世代の魔術士として、ワシはスミレ坂と何十年も協力し合う必要があるのか。ワシは考えが足りんな。


「僕もスミレ坂さんのこと良く知りたいの。優しくしてね」


 スミレ坂は、片目を細めて言った。


「それって演技なんだよね。本当は何考えたの?

 ああ、何か誤魔化したい時に子供言葉になるのは皆んな気づいているよ。タツヤなりの防御手段だから、普通は黙っているけど、今日は本音で話そうよ。

 無論言いたくないことは言わなくても良いから、もう少し信用してよ」


 ワシは、自分の浅はかさに一瞬青ざめた。そして、決断した。


「ごめん。スミレ坂がこれから何十年もの将来を考えている事に感心したんだ。そして、子供ぽくない思考だと気づいた。

 ああ、ここではタメ口をして良いかい。ワシの事はタツヤと呼び捨てしてくれると嬉しい」


「ありがとうタツヤ。私の事はどこでもスミレ坂で良い。というか、熊村流儀では、イモハミ婆さんと村長以外はさん付け無しが正しい」


 良かった。素のワシを受け入れてくれたようだ。


次で、あらすじの場面に到達します。

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