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閑話 クサハミ婆さんの神託

 好きな作品のスタイルを真似て、基本主人公視点、第三者視点が必要な場合は閑話として投稿します。

 閑話は、必ずしも時系列通りで無くなりますがご容赦下さい。これは、タツヤが誓約の激痛に苦しんだ時の裏話です。

 今日も十分な事が出来な……イヤ、全く何もでき無かった。あんな小さい子が真っ青な顔で悲鳴を挙げ続けているのに、痛みの原因すら判らないなんて、あたしゃ無力だ。

 賢い子だったけど……マルは助からないだろうね。2歳になったばかりの幼子の為に母さんの助力をお願いする余裕がある訳は無い。

 娘時代に母さんの言い付けを守って真面目に修行していれば、あるいは好奇心に負けてトンビ村に嫁いで来なければ、こんな辛い日々を送る事は無かった。幾ら後悔しても足りない。


「偉大なる祖霊と神々よ。子供ら以外は何を捧げても構いません。どうかお救い下さい。例えそれが神罰による死でも救いです」


 私は、夫や子供らに気付かれないよう、日課となってしまった邪悪な祈りを捧げた。



「夢の中なのかい?」


 突然強烈な圧力を感じた。でも、声すら挙げられない。


『クサハミよ。汝の祈りを叶えよう。正に今、治癒術を授ける。代償は、何を犠牲としても、独り立ちするまで、一人の子を守り教導する事だ。

 その子は、世界を救う為に遣わした子、でも授けた力故、或いは幼さ故、道を誤るかも知れない。陰ながら見守り、人々から排斥されないよう、その子自身が慢心しない様、人を憎まぬ様、しかし厳しく鍛え上げよ。

 その障害となるなら、例え汝の母とて例外はない。消せ。汝が真に必要と判断した時、誰であろうと瞬時に抹殺する秘密の力も授けよう。汝の子を守りたいなら、障害にならぬよう正しく導け』


 あたしゃ、その子とはマルの事だと感じながら意識を喪った。


「母さんお願い。目を覚まして。祖霊よ神々よどうかお願いします。母さんを助けて」


 長女のトリハミの声が聞こえる。


「なんだい? 騒がしいね? 近所迷惑だ……よ???」


 何故、村長(むらおさ)がいるんだい? 村長が声を掛けてきた。


「良かった。もう安心だな。

 クサハミさん。あんた、2日も意識不明だったんだよ」


 何かとんでも無い夢を見たような。……魔力が見えている‼︎ 開眼したんだ‼︎ あれは夢じゃ無かった‼︎ 2日? 不味い。


「2日も経っているなんて、あの子は? マルはどうなったの?」


「クサハミさんは、仕事熱心だのw まず自分の事を心配しなさい。マルは大した事ない。熱も下がって、オッパイも少しだけ飲んでいるようだよ」


「そうかい。それなら安心だね。

 話は変わるが村長さん。体が回復してからの話だが、急ぎ熊村の母さんの所に行く必要が出た。悪いが、護衛と米の手配を頼む。

 どうやら、あたしゃ開眼したようだよ。多分、これはその反動だろうね。開眼直後に事故が起きるケースを聞いた事がある」


 周りの全員が息を飲む音が聞こえた。


「判った。任せておけ。トリハミさん。クサハミさんを良く観ててあげて。直ぐ、人手を集めるから、くれぐれもクサハミさんの身体を労ってあげて」


「言われなくても、私の大切な母さんだよ。」



    ◇ 



 熊村につきイモハミ婆さんの名で知られる、私の大切な母さんの出迎えを受けた。母さんに魔術士としての初期教育を受ける日がようやく来たんだ。

 娘時代に何度も予習させられているから、段取はよく分かっている。その合間、あたしゃ、母さん家で二人きりになる機会を得た。

 生家は、亡くなった父さんから村長を継いだブナカゼ兄さんに譲ってしまっているけど、母さんがいるから此処は私の実家だね。


「心配しないで良い。人払はしているし、特殊な警報も設置してある。クサハミが既に治癒術を使える事情に関して、話があるんじゃろ。

 何でも、乙女の魅惑のウインクで解決さ」


 母さんも緊張しているんだね。懐かしい癖を見た。年甲斐も無く、ぶりっ子してウインクをする。

 笑えない冗談に聞こるけど、父さんに聞いて真実を知っている。

 母さんの娘時代の思い出に繋がる、鎮魂の詩だと。母さんの娘時代の知り合いが何人も、母さんが魔術士になった日に喪われたんだ。


 あたしゃ、泣きながら可能な事は全て母さんに話した。何度も鎮静の魔術に助けられながら。でも、秘密の力についてだけは、喋るどころか気取られる素振りすら全て防がれる。あたしゃ、何をされたんだろう。


「クサハミは、可愛いいけど馬鹿な子だね〜。何も心配などする必要ないよ。

 賢い子だから、慢心しない様、愛情深く、でも厳しく育てる必要があると、その子の両親であるタチオノとアオカワをおだて続ければ良いだけだよ。

 ある程度育ったら、魔術士の才能があるようだとか、夢で祖霊の導きを見たとか、適当な事言って私の所に連れて来れば良い。私が何十人も弟子を育てているの知っているだろ。

 そうすれば、乙女の情熱で解決だよ」


 母さんの愛を感じる。簡単な話でないはずだけど、ウインクと優しい顔で私を励ましてくれる。でも、辛いのはそれだけじゃない。何時、自分が人殺しになってしまうか、ほんの小さい切っ掛けでも、秘密の力で『抹殺』してしまうかもしれない。

 私は、涙を流しながら、気持ちを吐露した。


「でも『例外はない。消せ』なんて……

 私やりたく無いよ。」


 母さんが厳しい本来の顔を見せた。


「その場合こそ、私に相談しな。私が手を下すから。ブナカゼやカニハミは当然として、ホシカミさん、場合によってはヒノカワ、全てのツテを駆使して抹殺するよ。私自身とて例外じゃ無い。その子の成長の邪魔になるようなら自ら消える。

 フブキ様が戦死してから、ヒノカワが世に出るまでの約20年間、妖魔王が自然に餓死するまで待つしか無かった時代、あんたの娘時代でもある。あの時代には酷い話が沢山ある。その再現を阻止する為なら全ては正当化される。

 その子は、ヒノカワ後の空白を防ぎ、世界を救う為に、神々が遣わした子、そう考えるしか無い。

 祖霊と神々から偉大な任務を与えられたと、クサハミも胸を張りなさい。私もついているからね」


 母さんは偉大な人、島北部の状況を一歩一歩改善していっている。それに比べ私は情けない。

 明日から、母さんにあやかって、クサハミ婆さんと名乗ろう。神託を受けたのは私。だから私が頑張らなければならない。


 次はスミレ坂さんとのお話です。


H29.11.26

 顔文字の表現から地の文への表現に見直しました。


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