プロローグ前世の思い出
普通に転生チートものです。
よろしくお願いします。
光も音もない空間、途切れ途切れの意識、時間の流れさえ曖昧な中で、ワシはこれまでの人生を振り返っておった。
他に、やれる事はないからの、せめて紙とペンでもあれば、家族への遺言でも書き留めるんじゃが。
結構裕福な材木商の5男として産まれたワシは、家を継ぐ必要もなく、子供の頃は何にでも興味深々自由に過ごしていた。尋常小学校では、神童と騒がれたが、両親には『落ち着きが足りない』と評価してもらえんかった。
それでも、博士を取るまで支援してくれた事には感謝している。『家を継いだ兄を立ててくれ』という遺言は守ったつもりじゃ。
考古学を専攻したのは、何故じゃったか。ワシは一貫して、社会の本質について疑問を抱いておった。技術レベルも政治体制も大きく違う考古学の時代を鏡にすれば、自分なりの真実が観えると考えたんじゃな。
学者では食えんと言われたが、恩師に気に入られて大学に職を得ることも出来た。その点では、60年安保は僥倖だった。政治運動に興味を持った奴らが、バッサバッサ恩師に見限られ消えていった。
後輩の娘さんが、何故かワシを気に入って、嫁に来てくれたのは助かった。ボスドク時代の何年かは、妻の教職の給料で食い繋いだようなもんじゃ。それなのに、ワシは研究一筋で最後まで全然妻を省みてやらんかった。
学者として何十年も奮闘したが、社会の真実には近くどころか遠ざかるばかりじゃった。分かっていない事が多すぎる。
余りにも謎が多いので、いつの頃からか、『社会など本来存在しえるはず無い』などと、意味の無いアイデアに取り憑かれてしまった。学者の癖にオカルトや空想科学に耽ったりもした。
まあ、そんなワシでも、肩書の威力は絶大じゃ。考古学や古代史ブームがある度に、甘い汁を吸わせてもらった。国際共同研究の名目で、家族と海外バカンスをしたのも一度や二度じゃない。遺跡を掘っている実績があれば、何とでも誤魔化せるんじゃw
でも、研究から最終的に手を引いた時の絶望感、無力感は酷かった。家族に当たり散らして、孫達にまで軽蔑された。
『ジジイの自業自得だろ? 山に捨てられないだけマシと思え!』
思い当たる事が多過ぎて、言い返せなんだ。
考えてみれば、ワシは、目標を間違った無駄な人生を歩んだんじゃ。ついでに言うと、運に任せた仕事振りで、十分な努力もしていない。後悔ばかりだ。
次の人生は、身近なものを見つめて地道な努力を重ねて過ごそう。もしワシを選ぶ女性がいたら、必ず無限の愛情を捧げよう。
小説の都合上、主人公を考古学者にしましたが、考古学者に知り合いは居ません。
主人公の行動は、あくまで作者の空想であり、フィクションです。