表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ショートショート

一番大切なもの(ショートショート24)

作者: keikato

 真夜中。

 オレは肩をゆすられて目をさました。

 一瞬にして声を失う。

 薄明りのベッドの脇、そこに見知らぬ奇妙な男が立っていたのだ。

 ソイツは黒のマントをはおり、でっかいカマを手にしていた。タロットカードにある、あの死神そのものである。

 死神が言う。

「オマエの命を売っていただきたいのだが」

「……」

 首を振るのがやっとだった。

「ならかわりとして、オマエの一番大切なものを売っていただこう」

「一番って?」

 そう聞いて、ついうっかり隣を見てしまった。

 そこにはスヤスヤと寝息をたて、なにも知らずに眠っている妻がいたのである。

「その者なのだな」

 死神が妻に目を向ける。

「待ってくれ! 妻の命を売るぐらいなら、オレの命をやるんで」

「その者はオマエにとって、それほど大切な者なのか?」

「ああ、なによりもなによりもな。だから、オレの命をくれてやる」

「わかった」

「じゃあ、妻には手を出さないんだな」

「オマエにもな」

「えっ?」

「オマエの、その者を思う気持ちに免じてな。だがワシとしても、手ぶらで死界に帰るわけにはいかん。それでだな……」

 死神が妻に手を伸ばす。

――やめてくれー。

 叫んだところで目をさまし、すべてが夢だったことに気がついた。

 イヤな夢だった。

 実にイヤな夢を見てしまった。

「あなた……」

 隣では、妻がおびえた目でオレを見ている。

「どうした?」

「怖い夢を見たの。死神が現れて……」

「死神だって!」

「そうなの、大きなカマを持った死神だったわ」

「オレもだ。カマを持った死神が夢に出て、オレの命を売ってくれって」

「それも同じだわ。私の夢に出た死神も、わたしの命を売ってくれって」

「まったく同じ夢を、しかも、二人そろって同時に見るなんて」

「どういうことなのかしら?」

「わからん。だけど断ったら、死神のヤツ、今度は一番大切なものを売ってくれって。もちろん、それも拒否したけどな」

「そこも同じだったわ」

「じゃあ、オマエも拒否したんだな」

「ごめんなさい。あたし……死神が怖くて、あたしの一番大切なものを」

「売ったのか?」

「あなた、ごめんなさいね」

 妻が泣きくずれる。

「そうか。いや、気にしなくていい。どうせ、これも夢なんだからな。オレは、こうして命があるわけなんだし……」

 だって。

 妻がオレを死神に売るはずがない。

――これも夢なんだ。

 オレは夢の続きなんだと思った。

「あなた、あれ!」

 妻が目を大きく見開いて、寝室の隅の暗がりを指さした。

 そこには……。

 なんとそこには、夢で見た死神が立っているではないか。

 死神が妻に向かって言う。

「約束どおり、オマエの一番大切なものをいただいていくぞ」

「……」

 妻がコクンとうなずく。

「ではな」

 死神の姿が薄れてゆく。

 その死神の腕には、我が家の愛犬、ポチの姿があったのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] お互いに命はあったものの、妻にとってのいちばん大切なものとは?夫の想像をみごと裏切ってくれましたね。くすりと笑えて、ちょこっと同情してしまう。 読みやすく、面白い作品だと思いました。 kei…
[良い点] 意表を突くラスト。どちらにしろ哀しい夫は、絶句でしょう。そうなんですよね。女性ってこういうところ、あるある、と共感しました。状況設定がお上手で、安心してずっこけることができます。
2017/11/23 08:48 退会済み
管理
[一言] オチが良かったです。
2016/10/07 17:47 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ