梅雨(ジャンル不明)
雨なんて嫌いだ。
あいつはそう言って死んだ、三日前の事になる。
俺があいつの死を『知らされた』のは昨日の昼だった。そして今日、俺は少ないバイト代から香典を包んで、作法も何も分からないまま、くたびれ着古したスーツであいつを見送った。
いや、正確には違う。
あいつの『入れ物』を見送ったんだ。
そういえば三日前は雨だった、今日も、朝から雨が降っている。
湿気を吸ったシャツに辟易しネクタイを緩め、葬式終わりのまま俺は繁華街に向かった。
……一人でいるのが、怖かったのかもしれない。
水溜まりを踏みつける革靴は雨をよく弾く。
それはそう、まるであの時、『血を弾いた』かのようにだ。
安物のビニール傘が落下する水滴に叩かれ、破けるような音が無限になる。
吸っていた煙草を吐き捨てると、その叩く音が嫌に耳につくようになった。
いや、違うか。
雨の音以外に別の、鼓膜の奥、精神に響く音があるんだ。
それは多分、俺の常識が破ける音。
俺の精神が、瓦解する音。
「よう……三日振りか?」
いつの間に裏路地に入ってたのか覚えていないし、いつの間に『あいつ』がいたのか、知らない。
巨大なナメクジが這いずるような音が、全ての音をすり抜けて俺に、俺だけに届いてくる。
「……雨、上がんねえかな」
まったく期待していない声で、俺は小さく呟いた。