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天使(ラノベ風)

※人肉(文学気取り)までは昔に書いた短編になります。

どこからか漂う焼き魚の匂いを嗅いでたら、何でかいきなり春の桜が綺麗と言ったやつを思い出した。


「おい」


だったら次は花に生まれ変わればと言ったら、そいつは笑って消えてったっけ。


「おいって」


それ以外には泣いたり、喚いたり……ヤらせろって言ったやつもいたなぁ。


ていうか、腹減った……のか、私?


焼き魚の匂いには反応するけど腹減らないって、自分で言うのも何だけど、変な身体。


「聞けよ!」


「聞いてるし」


あまりに五月蠅かったんで反応してやれば、なんだコイツ。泣いてんじゃん。


「こ、この野郎! 人が死のうとしてんのに……バカにしてんのか!!」


何だ、分かってんだ。

ていうかこの状況をバカにしないのなんていないよ。

どんだけ切羽詰まってんだ、ご愁傷様。


「ねぇ、いい加減こっち来てくんないかな? 私も暇じゃないんだよね」


「うるせー! そ、それ以上近づくなよ、その金槌で殴ったりするなよ! 俺は死ぬんだから、じゃ、邪魔すんじゃない!?」


「……いや死ぬって。あんたもう死んでるし」


あとこれ、金槌じゃなくて木槌だしーー









「何だ何だ、相変わらず不機嫌そうな顔してんな~」


うわっ、嫌なのと出会っちゃったよ。


「あ! いま嫌なやつに会ったと思っただろ。んな渋面しなくてもいいだろがぁ」


「……何か用? ウザいやつの相手してたから疲れてんのよね私」


「ウザいやつ? なんだよ、俺より非道いやつか!」


ぬぁ……ヤバい殴りたいなこいつ。

屋上で飛び降りるとか言ってたあいつよりウザすぎる。


「消えろ」


「んなツンデレしなくてもいい……待て、分かったから。無言で木槌を構えんじゃねえよ怖えなぁ」


笑うな三枚目め。

とっとと黒い羽広げてカラスと一緒に帰ってろ。

じゃないと食うぞ、あんたんとこのカラス。


「ちぇ、淋しそうにしてたから声かけてやったってのによ! じゃあな、『白い悪魔』!」


……やっぱ十発くらい殴っとこうか、あのキモ悪魔。








「私ね、好きな人がいるの」


……。


「いえ、この場合はいたの方が正しいのかしらね。ふふ、何だか可笑しい」


…………。


「そっか、私死んじゃったんだ。想いを伝えられないのは残念だけど、仕方ないんだね」


………………なにこのオカマ。


「そりゃ銃弾十二発も受けりゃね……ていうか、あんたの願いはそれでいいの?」


「え? 願いって?」


極道顔でキョトンとすな気持ち悪い。


「あんたみたいな霊魂の願いを一個叶えて連れていく。それが私の仕事よ」


まぁ、前のやつみたいに願い叶えても駄々こねるやつとかいるけど。


「願い……ふふっ、そうね私は」


だから女みたいな笑いすな、鳥肌が立つから。


「あの人を……この私を撃ちやがったあんのクソ餓鬼を一緒に死なせろやぁぁぁ!?」


耳元で怒鳴んなっつの! しかも唾飛んだし!!


「私を撃ちやがってぇ……しかも頭と股間ばっか? ちょっと舐め回して可愛いがってやっただけだろがぁ!! 組の鉄砲玉風情がチャカは早いんじゃボケがぁぁぁっ!!?」


五月蝿いなこいつ――ああ、本当にそんな死因なんだ。

それより弟分に手を出すって……しかもこのラブホは行きつけかいっ。


「なら鎌持ってるやつに頼む――」


「カマ!? あんた今カマって言った!?」


鎌だバカ。キモいオカマの事じゃないし。


「ていうかさっきから何読んでんのよ! 天使だったらもっと優しくしなさいよ!?」


「はぁ?」


何こいつ、脳みそまでオカマみたいな中途半端になってんの?

羽をよく見ろ蝙蝠だろうが、白色だけど。


「ねぇ天使様! 私の願い叶えてくれるわよね!!」


「あぁ、もう……」


――私は悪魔だっつの! 真っ白白助だけど!!








「おぉ何だ、今度はやつれてんじゃねえか」


「ちっ」


「あからさまに舌打ちしやがって照れ隠しか? 可愛いやっつめぇ」


悪魔って殺せんのかな……いいや、とりあえず殴れば分かるし。


「うおぉ止めろ木槌振り回すなよ!? お、俺を殺す気か!」


死ぬんだやっぱ。こりゃ良い事聞いたな。


「バッ! お前いい加減にしろっつの!」


「つーかあんた仕事してんの? 私ばっかに構うなストーカーめ」


「へっ!」


うわ、笑ったよこいつ。

三枚目のくせにすばしっこいし、木槌を振り回すこっちの身にもなれ。


「そりゃお前が俺のを――と、これは言えねぇんだった。ってぎゃああ!? さっきのマジで危なかったぞこら! だぁくそっ、また来るからな!!」


ちっ、仕留めそこねたか。

運のいい悪魔め。









「えっと、じゃあその木槌に叩かれれば成仏できるんですね?」


「そう。んでその前に、願いを一つ叶えんのが私の役目よ」


今回は話がスラスラ進むな。いつもこのおっさんみたいならいいのに。


「願い……な、なら私は! 成仏したくない!!」


お。


「成仏したら記憶も無くなるんですよね? そんなの嫌だ……怖すぎるっ」


……まぁ言いたい事は分かるけど。

そんなすぐに死んだとか言われても訳分かんないだろうし、てか死にたくないしね、死んでるけど。


「なら願いはそれって事で。はい、じゃあ額出しな」


「えっ? で、出来るんですか?」


当たり前だ、こちとら悪魔だっつーの。


「有難うございます! 天使様!!」


いや、だから悪魔だっつに。








「よぉ、順調に仕事やってるかぁ~」


……ええと、ああそうだ。次は新宿のラブホで腹上死した男だった。


「って無視かぁ~? 反応無しかぁ~? 俺は淋しいぞぉ~い」


っちゅうか一応私、女なんだけどな。エロいの多くね?

セクハラかっての。


「ああ、お前そういう態度に出るんだ……そうか、なら俺にも考えがあるからなぁ」


でもだからって仕事内容選べないしな。

そこが会社員の辛いところ……って、悪魔て職業だっけか?


つうか雇われてるって誰?

サタン、とか……我ながら貧相な答えだし。


「おうりゃっ!!」


「!?」


「ははははどうだ! 俺の必殺技ザ・スカートめくって尻触るは!! 乙女だったら誰もが頬を羞恥に染める……って、あ、あれ? ど、どうした?」


…………おい。


「そ、そんな木槌を目に見えない速度で振らなくったって……じ、冗談じゃんかよ~」


「……肉片も残らないと思えやゴラァ!!」


「ひぎゃああ!?」


安心しな、あんたの死体は大好きなカラスに任してやるからっ!!








「ねぇねぇてんしさま~」


「いや、だから私は悪魔……もういいか」


何回言っても聞かないしこの子。


「てんしさまはてんごくにすんでるの?」


「住んでない」


んなクリクリした目で見るなよ。霊魂連れてくのを躊躇っちゃうだろ。


……いやまあ、結局連れて行くんだけどさ。


「てんごくじゃないの?」


「残念だけどね」


「……ならおかあさん、どこにいるの?」


おかあさん? 一体全体なんのこっちゃ。


「お母さんがどこにいるかは知らないわよ。なら願いは、一緒のとこに逝くでいい?」


それなら楽だ。木槌で殴ればどうせ記憶は無くなって、お母さんとか覚えてないだろうし。


「……ううん。おかあさんには、いまからいつでもあえるはずだもん。それよりおとうさん」


今度はお父さんかい。


「お父さんが何?」


「おとうさんが……おとうさんがさびしくないようにしてっ」


――――。


「ひとりぼっちにしちゃったおとうさんを、さびしくないようにして!!」


……うわぁ。もう……うわぁ。


「……それが願いでいいのね?」


「うん! おねがいね、てんしさま!!」


「――はいよ、天使のお姉ちゃんに任せときな」


この子は将来、私なんかより良い女になっただろうな……ちょっ、そんな怯えんなよ。

木槌は優しく触れるくらいにするからさ。








「あらあなた……」


「あ?」


なにこいつ。見たところ同じ悪魔みたいだけど……いや、色は白じゃないんだけど。


「ああ、あなたが噂の白い悪魔さんね。確かに真っ白……まあ仕方のない事だろうけど」


一人で何言ってんのこいつ。

ちょっと可愛いからって調子乗ってんじゃないぞこら。


あんたの顔面、引っ掻いたろか。


「ま、あと『少し』だろうからそれまで頑張って。悔いの残らないようにね――真っ白な子猫ちゃん」


「……はあ」


少しって何がだ。

ていうか同性に子猫ちゃんて……悪魔って変わり者で変態が多いな。


「あっ、それと白って結構いいわね。私黒しか着た事なくて。あなたに良く似合ってて、とっても可愛いらしいわ」


……変わり者だけど変態は訂正、ちょっといいやつに変更しよう。


変わり者で変態なのはあの三枚目だけだな、うん。








「よっ、もう満足したか?」


「話しかけんな、三枚目キモ郎」


私は次の霊魂のとこに急いでんだっつの。


「相変わらず口悪いなぁ……ってそうか。まだ忘れたまんまだったな」


遂に顔だけじゃなく頭も可哀想な事になったか。

って変な動きをし出すなよ、気持ち悪い。


「――よし、これで徐々に戻ってくはず」


「あんた本当に何言って――」


……あ。


「思い出したか?」


なに……これ。


「お前さぁ――実は死んでんだよ。んで回収が俺だったんだけど、お前の願いが有り得ねえの」


そうだ……私死んで、こいつに出会って、それで――。


「死んだ『人間』の気持ちが知りたいって、マジで初めてだったよそんな願い。だったら悪魔の仕事させた方が早いと思ってよ、俺の木槌を貸してやったんだけど――思い出したな?」


……なんだ、私は悪魔じゃなかったんだ。

そりゃそうか。こんな真っ白な悪魔とか、天使に間違われる悪魔とか笑い話にもなりゃしないしね。


私……なんで、死んだんだっけ。


「もう満足するくらい霊魂回収しただろ? お前に与えたその身体も時間だしよ――そろそろ逝くか?」


「……ねえ」


私の死因って――いや、いいや。

今更そんなの気にしても意味ないか。


「悪魔も結構疲れるだろ? 自分勝手なやつ多いしなぁ~。まあ、お前の突飛な願いで俺は楽できたけどよ」


「あんたの為にしたんじゃないし」


……身体が透けてきた。

意識も何だろう、眠い。

っていうか、何で死んだ人間の考え知りたかったんだろう私。


確か……あれ、何だったっけ?


「最後までツンデレな訳な。ま、その方がお前らしいっていうかさ。で、どうよ? どっちにするか決めれたか?」


「……何の事よ」


こいつに聞くのは癪だけど、こいつのニヘラ顔を見てると吐き気をもよおすけど仕方ない。


どっちっつう選択肢から分かんないんだし。


「は? 生まれ変わるかここに留まるかの事に決まってんだろが。お前がどっちがいいか分かんないから先に願い叶えろって言ったんだろ。横暴な霊魂の願いに応えた優しい俺に感謝しまくるのは勝手だけどよ、もしサタンに木槌を手離したって知られ――」


「あぁそうなんだ。なるへそだわ」


つうかよく喋るなこいつ。

頬を紅潮させてマジキモいし……それより上司って本当にサタンだったんだ。


さすが私。平凡な頭バンザイ、ってね。


生まれ変わるか留まるか、か。


えらい難題を忘れてたな私。


さて……どうしよう。


「おい早く決めろよ。何かさっきから会社用の携帯が鳴ってんだよ」


携帯持ってんのか最近の悪魔は。

時代も変わったんだな、前がどうかは知らんけど。


「今考えてるわよ」


花とか……うわぁ、今考えればロマンチックな事言ってたな。めちゃくちゃハズいし。


……皆色々な死因で、色んな事考えてたな。

道連れとか、残された人へとか、記憶を無くしたくないとか――あれ?


「ねえ、何か生きてた頃の記憶が無いんだけど私に何かした?」


「そりゃあ~悪魔の知識を植え込んだし、その容量確保するために記憶の封印とかしたっ……もしかしたら記憶、消えたかもな」


……。


「いやいや仕方ねえよ! 知識無かったら仕事できねえし霊魂回収できねえし!! だからまず落ち着いて話しをぐばぁっ!?」


……はぁ。なら最初っから選択肢ないじゃんか。

このまま留まっても、前の私が分かんないんならさ。


「あんたの血でベットリな木槌返すわ。叩くの反対側にしろよ? 分かってるだろうけど」


「ちっ、暴力女め――って痛たたたた!? もう何も言わねえから引っ掻くな!?」


分かりゃいいのよ三下め。


「……はぁ。通例として聞いてやるよ。生まれ変わるなら何になりたい?」


それって絶対聞く事なのか。

ヤバい、私最初の一人にしか聞いてない。


「悪魔とか言っても無理だぞ。俺らとお前達は根本的に違うしな」


「……誰も悪魔になりたくはないっしょ」


だからって天使ってのも私の柄じゃないし――あ、そうだ。


「私は――また、私自身になる。死ぬのが怖くて自分勝手で、恋に盲目だけどたまに誰かに優しい……桜の花が綺麗って思える、色白美少女にね」


生きてた私がどんなかは、忘れた。

でも、どうなりたいかは、どうありたいかは――何となく思いついた。


だって、教えてもらったから。


人間の皆に、教えてもらったから。


「さいですか。ほら木槌貸せ、逝かせるからよ」


さり気に流すなバカ。


まぁでも……ありがとね、願いを叶えてくれて。


「じゃあな。また死んだ時にでも会おうや――『白いノラ猫』ちゃん」


「――にゃあ」


目蓋が落ちてくる。

身体が感覚を無くしていく。


さてと、次の新生活は一体どんなのだろうな――――






        【終】


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