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そうだったのね

掲載日:2015/04/04

これはあくまでもフィクションです。出てくる企業、部門、そしてそういう計画は存在しません。ホントです。フィクションなんです…

 桜の花も満開の中、入社式が終わった。時は2020年代。

俺はやっと社会人になれた喜びと、そしてある種の憂鬱感を味わっ

ていた。


 思えば2014年を皮切りに日本経済が多少上向いてきたとは言

え、就職活動は熾烈を極めた。

 精神的にもボロボロになりそうだった。そうしてやっと手にした

内定だった。そう、三年生の七月からインターンシップに参加して、

色んな部門を経験した。四年の三月に企業説明会に参加し、四月に

はエントリーシート受け付けを済ませ、筆記試験を終えて、その後

最終面接まで面接を何度も経験した。今も思う。もうあんな思いは

したくないなと。


 その会社は日本でも有名な一部上場の総合衛生企業だ。冬が過ぎ

て暖かくなる頃、テレビをつければ目にするはずだ。『蚊やハエに

は●●●!』『ゴキブリバイバイ!』なんてCMを。一般的には殺

虫剤の製品で知られている。


 友達は口々に言ったものだ。

「どうしてお前みたいに影の薄い奴が一部上場の会社に入れるん

だ?」

「成績だって、お前大した事ないじゃん。さてはコネだな?」

 俺は笑って答える。

「そんなんじゃないよ。ただ言えるのは会社側が気に入ってくれた

んだ」

「そうか? お前って決して明るくないし、まぁ、言っちゃなんだ

けど陰気な方じゃん? 一緒に受けた清水の方がよっぽど…」

 清水というのは俺と一緒にその会社を受けた同級生だ。清水は最

終面接に行く前に試験で落とされていた。


 しかし実際は俺も不思議でならなかった。どうしてこの俺が受か

ったんだろう? あいつらが言う様に成績だって決して良くは無い。

コネだってまるで無かった。ルックスだってごく普通、と言えば嘘

になるな、本当は地味で影の薄い男だ。そう、中高生の頃、学年に

も一人位はいただろ? 一年以上も一緒のクラスなのにあいつ、何

て名前だっけ? とか、皆でいる時に、あ、お前もいたのか、なん

て言われてしまう奴。まあ、俺はそんなタイプ。当然、性格もおと

なしいから、陰では【黒子】って呼ばれてたみたいだ。


 でも! そんな俺でも会社側が俺を採用してくれたんだ。いや、

俺だから採用してくれたんだと思いたい。だから俺はこの会社に骨

を埋めるつもりでがんばろう! 去年の八月、内定が出た時にはそ

う心の底から思っていたんだ。


 それからまたインターンが始まった。会社側から授業が無い時に

はそうするようにと言われていたのだ。始めは営業部門。次が宣伝

部門。そして最後には経理部門。半年がたって、やっと仮配属の部

署が決まった。俺の希望としては経理部門が良かったのだが、仮配

属されたのは研究部門の、ある研究室だった。経済学部出身の俺が

研究部門だと? 名前は【特別研究室】というらしい。というコト

は? たぶん研究室の事務作業だろうか? 

 その時の俺はそれ位に考えていたのだ。


 卒業を間近に控えた三月初め。会社から呼び出しがかかった。

【今から大切な話があるので至急本社人事部へとおいでください】


 何なんだろう? 俺は一抹の不安と共に会社に向かった。

指定の場所は人事部だが、通された部屋は本社研究部門、その更に

奥の特別室と書かれている部屋だった。そこに入るまでに何重もの

セキュリティを経なければならなかったのはどういう訳だろう?


 通された部屋にいたのは、最終面接の時に居た重役の一人とおぼ

しき人物だった。印象に残っていたのは彼がこんな質問をしたから

だ。

【君は口が堅いほうかね?】

 その時の俺は即答した。はい。勿論です。と言うか、口が重い方

ですかね、と。

 そう言えば、その後で重役達は顔を見合わせてうんうん、と頷い

ていた。もしやアレが決め手になったのだろうか? ふとそんなコ

トを思ってしまう。でもまさかそんな訳は無いだろう。口が堅いか

ら採用だなんて。


 と、彼は机の上に一枚の名刺を置いた。俺はそれに目が釘付けに

なってしまった。そこには【常務取締役 兼 特別研究室室長】の

文字があったからだ。

 え? 常務で特別研究室室長? というコトは…4月から俺の直属

の上司? ええ ?常務が上司って?

「まぁ、突っ立ってないで座りたまえ。いいか、これから話すこと

はオフレコで頼むよ」

「はぁ…」

 俺は訳が分らないまま頷いた。


「ええと、まずは、そうだな、君は我が社に入社する気はあるんだ

ろう?」

俺は即答する。

「勿論です!骨を埋めるつもりで頑張ります!」

 やっと掴んだ一部上場の就職先だもの。そう答える以外は無いだ

ろう。


「うん。それは分った。それじゃ、この誓約書にサインをもらえる

かね?」

「誓約書? それはどういった?」

 俺は思わず訊ねていた。常務兼特別研究室室長は含み笑いをしな

がら

「ああ、そうだな。まずは説明をしなければならないな」

と言ってノートパソコンを開いた。


「まずはこれを見たまえ。我が社の一番の商品。ゴキブリ●●だ」

「はい、そうですね。シェアは確か日本一だったですよね」

 常務兼特別研究室室長は嬉しそうに

「うむ。御陰様でな。あ、これは私も開発に関わっていたんだよ」

「そうでしたか」

 俺も嬉しくなって笑顔になる。


「で、これが我社の部門を示した図だ。営業部門、経理部門、研究

部門、工場部門、宣伝部門と、まあ色々あるわけだが」

 パソコン画面には会社の組織図が映し出されていた。

「はい、分ります」

「で、今度君が所属することになるのは研究部門の一部。この組織

図には無いんだがね」

 室長はそう言うとパソコンを閉じた。


「でだ。ここから先話す事を決して口外しないと言う誓約書。これ

にサインをもらいたい。分ったならほれ」

 常務兼…もう面倒だから室長で通す事にするけれど。室長は一枚

の用紙を俺に差し出した。勿論すぐにと俺はサインをした。そうす

る以外には無いだろう。

 室長はニヤリと笑うと、更に付け足した。

「ああ、そうだ、もし万が一、ここを辞めても、ここで知った秘密

は生涯にわたって口外しない事。その一文もあるからな。もしそれ

を破った時には…」

「え? そんな事も書いてあったんですか?」

 俺はよく読まずに書類にサインした事を少し後悔した。

「ああ、反則金、3億円だな。ほぼ生涯賃金と言ってもいい額だ」

「え?」

「つまりだ、口外したら一生ただ働きと一緒。だから口外は…」

「絶対にしません! 誓います!」

「よし。いいだろう。じゃ、今から話す事をよく聞いて欲しい。あ

のな…」


 そうして室長の話は小一時間続いた。

 そしてその話が終わった時、俺はとんでもない秘密を抱えてしま

ったのだ。


 そしていつも不思議に思っていた疑問への答えも分った。そう、

その疑問とは…

 あなたもあれ? っと思った事は無いだろうか?科学も進んだ現

代、害虫と呼ばれる蚊やハエ、そしてゴキブリを完全に絶滅させる

薬は無いものかと。


 実はあるのだ。あの夏の夜に、安眠を妨害する憎き吸血鬼を。急

に姿を現し私たちを恐怖のどん底に叩き落す、小さき黒悪魔を。


 しかしそれをしてしまっては、製品が売れなくなる。会社も立ち

行かないだろう。そこで総合衛生企業が集まり、ひとつの計画を立

てた。程よい数を程よく継続。


 そう、もうお分かりだろう。蚊やハエ、ゴキブリは絶滅させよう

と思えば出来るのだ。しかし製品を売る為にはある程度の数の害虫

の存在が必要だ。そこで会社の研究部門の一部では、ハエや蚊、ゴ

キブリの存続の為、あらゆる手段をとって一定の数を保たせている

のだ。つまり俺が所属する予定の特別研究室はそういった部署なの

である。

 これは秘密中の秘密。会社の中でもこの事実を知る人は少ない。

そして衛生企業、つまり殺虫剤に関連する会社では、互いに条約を

結び、秘密裏に調整をしながら、数の保存の為、暗躍しているので

ある。

 

 魂が抜かれてしまった様な俺に室長は言った。

「いいかね? これはあくまでも必要悪なのだ。日本における殺虫

剤関連の会社、社員、そしてその家族。その生活を守る為。いいや、

日本だけではない。世界中の国が当てはまるだろう」

「はぁ」

「君には入社したら早速、抗殺虫剤に進化させたゴキブリを日本全

国に放す仕事についてもらうからね」

 室長は嬉しそうに握手を求めてきた。俺は反射的にその手を握っ

てしまったけれどそれで良かったのだろうか?

 あ、そうだと思って俺は室長に向かって訊ねた。

「室長、あの、ちょっとお訪ねしたいのですが、私を採用したのは

どうしてですか? 」


 室長はフフン、と頷くと答えた。

「それはだな、君のその雰囲気。そして口の堅そうな所。君、一昨

年の七月にインターンで来てただろ?その時から、目をつけていた

んだ。テストでは合格点に届かなかったが、私が人事に頼んで特別

枠として採用してもらったんだよ。私達の仕事は言うなれば暗黒部

門だ。君はそれに当てはまると思ったからさ。そう、黒子のように

ね」

 それを聞いて俺は総てに合点がいった。そういうことなのかと。


 入社式では俺と同期となる新入社員たちが桜の下、笑顔一杯で人

生の新たな出発を祝っていた。俺はと言えば…そんな同期たちとは

一味違った思いで散る桜を見上げていた。


 俺の入社出来た理由、それから殺虫剤会社の事実。現実社会の暗

黒部分。これからの俺のすべき仕事。そして俺の人生の未来予想図…


「そうだったのね」

 俺は思わずそう言わずにはいられなかった。




総合衛生企業様、ゴメンなさい。フィクションですから怒らないで下さい。訴えないでね♪

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― 新着の感想 ―
[良い点] はじめまして。感想書かせていただきます。 鮮やかなラストに息をのみました。文章も読みやすく、伏線もきちんと回収しています。とてもいいと思いました。 [気になる点] どうせなら面接のシーンを…
[一言] これ、本気で思ったことがあります! 「実は害虫を絶滅させる技術はあるんじゃね?」って(笑)。 当方、虫、嫌いです。 相変わらず目の付けどころが素敵♪ 楽しませて頂きました~。
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