十三話 森の恵みと学びの畑
くしゅんっ、と可愛らしいくしゃみで目が覚めた。
肌寒い空気にぶるっと震えて、くしゃみをしたのは自分自身だと気付く。寝ている間に掛け布を奪われていた。
薄い服一枚で寝ていたなんて、冬に差し掛かる季節には無謀でしかない。外を見ると夜明けにはまだ少し早いみたい。
隣で掛け布にくるまって、暖かそうに眠るロロアがいた。この子が犯人か。
でも怒る気にもなれないくらい、幸せそうな寝顔だった。
プリムラとの二人部屋は十分広いので、ロロアのベッドも用意してもらった。
でも必ずボクかプリムラか、どちらかのベッドに潜り込んでくる。人恋しさなのか、ぬくもり欲しさなのか、幼い子だし仕方ないかな。
「おはよう、リィ。あいかわらず仲いいじゃない」
面白いものを見る顔で、プリムラが起き上がってきた。彼女はとっくに起きていて、ボクが目を覚ますまで待っていたらしい。
「この頃、ボクの方にばっかり来るよねぇ」
「体温が高いんじゃないの?」
そんな事もあるのかなぁと、ロロアの頭を撫でながら思う。
「孤児院ではまだダメそう?」
別に預けてしまおうとか、追い出そうというのではない。他の子と一緒に勉強したり、神官見習いとしてお手伝いしたり、同年代の子と過ごす時間を増やして欲しかった。
この世界の人も、日々の生活の中で言葉や文字を覚える。エルフさんは妖精族の中でも識字率が高く、普通は親が子供に言葉や文字を教える。
学校と呼べる施設は王都にしか無くて、通っているのはほぼリョース・アールヴに限られる。
唯一の例外が神殿の孤児院で、孤児には教師となる親がいないから、代わりに教育も行う。
親がいないと色々な不利益を生じるので、子供を大切にするエルフさんは、できる限りの便宜を図るのも自然な事と思う。
「んー、まだ馴染めないでいるみたいね。秋の神殿でもちょっと浮いてたらしいし、この子の、もともとの性格なんじゃない?」
「どうしても孤児院に預けなきゃってわけじゃないし、ボクたちが面倒見ても悪くはないんだよなぁ。どうするのがいいかな……」
「ふふっ、子育てに悩む親みたい」
そんな気がしてきた。本来は親のエフィルさんが悩む問題かもしれない。自分の時はそうしてくれたし、春の神殿に呼び寄せたのも、そのつもりだからなのかも。
その割りにボクたちに預けっぱなしなんだけど。
感情の起伏が乏しいロロアも、一緒にいれば少しずつ好みが分かってくる。
動物が好きで、花より野菜に興味があって、甘いお菓子よりミルクが好物。個性を知る事は、本人を理解する事だと思う。
幼い子供でも、立派に個性が育っているのを実感する。
「それにしても、なんで孤児院があるのかしらね」
「ん? どういう事?」
「ロロアの時も、リィの時も、エフィルのお陰かもしれないけど、すんなり養子になったじゃない」
「なれちゃったね。でもエルフさんが他の種族を養子にするのは、珍しいんじゃない? 孤児院にはいろんな種族の子がいるんだから、やっぱり必要じゃないかな」
エフィルさんが変わり者、と王女さまつかまえて変人呼ばわりは、我ながらひどい気もするけど実際ちょっと変わってるし。
リョース・アールヴの中だけで考えれば、一族郎党死に絶えでもしない限り、親戚の誰かが引き取るのが普通だと思う。
それでも孤児院で暮らすエルフさんの子供は多い。この辺りの理由が少し謎。
「もう少し寝ていようよ、まだ寒いしね」
「んー、それじゃあ、わたしも!」
プリムラまでボクのベッドに潜り込んできて、ロロアをはさんで三人で掛け布にくるまる。もっと季節が進んだら、毛布みたいな布団が欲しいなと思う。
「……ん、あったかいね。ねぇ、リィ……あのね……」
「なに、どうしたの?」
「ん、なんでもない」
何か言いたい事があるけど、言い出せないでいる。その感情を彼女自身が楽しんでいるみたいに見えた。春の日射しの穏やかさを思わせる、柔らかい笑顔だった。
こんな気持ちで二度寝も悪くないねと、手の温もりを感じながらもう一度眠りについた。
◇
『シーザーサラダが食べたい』
少し遅い朝の起き抜けに、寝ぼけ状態でそんな言葉を口走ったらしい。
らしいというのはプリムラから聞いたからで、自分ではちゃんと覚えていない。
大声というわけで無く、むっくり起き上がってぼそっと一言。
「いったい、なんだったの?」
「なんだったのと言われても……夢を見てたような気がするけど、シーザーサラダの出てくる夢? なんじゃそりゃ。レタス山盛りでクルトンざっくざくの、パリッとしたサラダを大盛りでバリバリと……あると思いますっ!」
「あるんかいっ!」
「いや、だってね? ここの生活も慣れてきたよ、色々とやれる事も増えたし。ただ、なんと言いますか、食生活に彩りが足りない! こう、食感とか、香辛料とか、もっとこだわるべきだと思いやがりませんかね」
「ナチュラル指向だからねー」
「むしろ嗜好に近いナチュラルっぷりでしょ。素材の味を大切にする、栄養素を活かす、余計な手を加えない。考え方としては間違ってないと思うよ」
「間違っちゃいないけど気に入らないってわけね」
朝からグルメに燃えているのも、今朝に限った事じゃなかった。元は自炊派だったせいもあって、簡素すぎる食事にどうも納得がいかない。
「おはよう~。朝ご飯に行くわよ~」
「おはようです~、いま行きます」
エフィルさんとアルフェル、ナウラミアの三人が揃って呼びに来た。基本寝ぼすけのエフィルさんに、呼びに来られるのは非常に珍しい。
新しい服に着替えて廊下に出ると、エフィルさんが何か言いたそうな顔をしていた。微妙に不満な気持ちが表情に出ている。
「リィ、わたしだって、ちゃんと一人で起きられます」
やばい、エスパーかこの人は。
今日は王都へ出掛けるんだ、とナウラミアが嬉しそうに言った。エフィルさんの付き添いで一緒に行くらしい。
「何か用事があるの?」
「えーとね、ネーミアを連れて行くんだ」
冬を迎えるとナウラミアの妹、ネーミアも四歳になる。幼稚園の年少組さんだね。
姉と同じく神殿で、見習い巫女の教育を受ける事を望んだ。適正を見てもらいに、神官長に謁見するらしい。
「適正が無いと分かると、神官への道は閉ざされちゃうのかなぁ」
「あまり心配いらないわよリィ。巫女としての適正にもいろいろあって、必ずしも治癒系の魔法に適正が無いと、だめというわけではないわ」
「わたしも苦手だしね~」
なる程、エフィルさんの言う通り、アルフェルのように治癒系の魔法がほとんど使えなくても、見習いを続けてちゃんと正規の神官になった人もいる。
ん? その場合って、主に何を担当するんだろう?
「アルお姉ちゃんって、治療師にはならないよね? 神殿で、なんのお務めするの?」
思い付かないままポロッと口にしてしまい、アルフェルにムッとされた。
「リィって時々ひどいこというよね。わたしだって、ちゃんと考えてるもん!」
ぷーっとふくれたほっぺたが、いつものふんわりした彼女らしくなくて、妙に可愛く感じる。ちゃんと年齢なりの表情もするんだと、ちょっとびっくりした。
「リィ、治療師意外にも、薬剤師も治療院に務めているし、祭祀のお務めもあるのよ。それともう一つ、神殿には重要なお務めがあるわ」
そこまで言われて、ようやく思い付く。超絶イケメンのきらりと光る白い歯が、チラリと脳裏をかすめた。
「そっか、お姉ちゃん、神殿騎士になるんだね」
「……」「……ふぅ」「……はぁ」
あ、あれ? なんですかこの、残念な子を見るようながっかり感は。
「リィも馬鹿ね、騎士は王国の所属でしょ。神殿は国に属してないのよ」
む、プリムラのくせに、なんだかすごく偉そう。ボクだってそのくらい分かってるよ。
「あのね、わたしはね、導師になろうと思うの」
なにっ! 導師っていうとあれか、白魔道士の上位職で、ネコミミローブが可愛いあの微妙ポジションの導師かっ! それとも筋肉ムキムキで、レベルを上げて物理で殴ればいいを体現しちゃってる、あの導師かっ!
はぁはぁ……冷静になろう。
きっとあれだね、死体のおでこに黄色い札貼って操っちゃう、可愛い女の子が主演のアクションホラーだね、きっとそうだよ。
『さすがに○幻道士なんて、私くらいしか突っ込めませんよ? リーグラス』
エフニさまにまでダメ出しされた……もう駄目かも分からんね。
マジメな話、アルフェルに教師は似合っていると思う。孤児院をお手伝いする時も、絵本を読み聞かせたり、文字を教えたり実に楽しそうだった。
黒板とチョークを使うようになって、以前より教える機会も増えている。文字や算術を学びたい子供や、時には大人の妖精も、近隣から訪れるようになった。
苦参紙の生産も軌道に乗ってきたので、教科書は紙製の物を用意出来た。
製本には『筆写』を使うので、それなりに高価にはなるけど。羊皮紙を使うよりかなりリーズナブルになった。
うん、だいぶ環境も整ったし、そろそろ計画を実行に移してもいいかな。
「そっか、お姉ちゃんはイアヴァスさまのように、先生になるんだね」
「そう! 先生ね、先生って、なんか照れるけど……」
ネーミアの話からずいぶん横にそれちゃったけど、孤児院で子供たちに教える話が出たのは良い機会と思う。
よし、農育を開始しよう。小さな頃から農業に対して、適切な知識と経験をしてもらう事は、国の礎となる。
◇
「それじゃ、先生と一緒に森で遊びましょ~」
落葉性広葉樹が優先する森は、豊かな恵みに育まれた森と言える。
土壌改良材として優れた機能を持つ腐葉土、樫や楢などのドングリ、ブナの実がリスやネズミの餌となって、それが肉食の獣を育てる。
光合成から始まる食物連鎖、それを子供たちに見て、触って、理解してもらう教育の一環が、今日の遠足の目的の一つ。
五人の班を作って、ボクとプリムラ、アルフェルの三人が班長役で、森に来ていた。
孤児院に務める神官のメルディスさんが、引率の先生として付き添っている。年少組が二つ、年長組が一つで年長組にはロロアが参加していた。
年少組の一つを預かるボクの班には、遊びに来ていたネーミアも特別参加で、姉のナウラミアはエフィルさんとお出かけ中。
幸いネーミアはボクに懐いているから、心配ないよと言っていた。心細くなって泣き出したりしないといいんだけど。
タヌーは当然という顔で、ロロアと一緒に年長組に付いて回る。班長はプリムラなので、なんか適当に上手い事やってくれそう。
「みんなはドングリ知ってるよね? きょうはドングリを集めよ~」
「おねえちゃん、ドングリたべるの?」
「食べてもいいけど、美味しくないよ」
「えー、やだぁ」
「食べないけど、おもちゃを作るんだよ」
おもちゃ、の一言で目を輝かせる。さっきまで嫌そうに、乗り気しない感じの子も、やる気を出してくれた。
「たくさん集めるのもいいけど、大きなものや形のいいもの、色の変わったドングリを探してみようか」
拾ったドングリのいい所を教えてね、といって周囲に落ちているドングリを集めてもらった。アルフェルの班の子たちは、少し離れた所で同じように拾っている。
あの樹はブナかな。ドングリじゃないけど、食用になるから後で利用しよう。
プリムラの班は、クリやハシバミを探して収穫してもらっている。この辺りはどちらもまばらに生えているので、ある程度手分けして収穫しないと量が集まらない。
クリの毬に気を付けながら、美味しい秋の味覚を集めてもらおう。棘で痛い思いをするのもいい経験になる。
一人の男の子がこちらに走ってきた。転ぶなよ~、あ、転けた。でも泣かないか、さすが男の子。ブラウニーの子で、フェルダっていったかな。
「お、お姉ちゃん、どんぐりあった」
彼が見せてくれたのは、きれいな縞模様の入ったドングリだった。縦長で大粒で、なかなか良い形。艶もあってこいつは……すごくドングリです。
「おっきいの見付けたねー。いい所はどこかな?」
「えっとね、しましま!」
うむ、まんまだね。
「しましまかっこいいね! もっとあるかな? 探してみよう~」
ニコッと笑って次のドングリを探しに行った。男の子は勢いがあって面白いな。
そっと近付いてくる足音もある。ネーミアが恥ずかしそうに、もじもじとやって来た。
「おねえちゃん、みて?」
差し出した両手のひらには、丸く小さなドングリがいっぱいだった。コロコロとして、灰色の帽子を被った可愛い小粒たち。
「たくさん集めたね。なにが気に入ったのかな?」
「おさらにのってるところ? つやつやで、まるくておいしそう」
ドングリのへたを、ボクは帽子と見た。ネーミアには上下が逆で、木皿の上に乗る丸い実と見えた。
小さい子の発想はいつも驚きと発見に満ちている。
そんなやりとりを繰り返してお昼を迎えた。それぞれに持参したお弁当を、集まって食べる。サトイモと麦の蒸しパンに、干したイチジクが今日のメニュー。
普段と同じものでも、神殿内の庭や食堂で食べるのとは違う。森の木洩れ日、落ち葉の匂い、風のざわめく音。
自然の中での食事は、それだけで何か特別な感じがする。
「はーい、みんなー、いま食べてる、蒸しパンはどうやって作るか、知ってるかな?」
メルディス先生の声がかかって、勢いよく挙がる手や、ためらいがちな手。
隣の子と相談を始める子もいれば、黙って先生を見ながら、食べる手を止めない子もいる。
個性的な反応を面白く思いながら話を聞く。
蒸しパンの作り方と、そこから麦やサトイモの出来るまで、光合成の話。食物連鎖について説明が続く。
植物が日光と空気と水ででんぷんを作って、人がパンにしてそれを食べる。
ボクとプリムラ、エフィルさんやセレヴィアン神官長と、一緒に考えながら作った教科書の内容だった。
「食べたものは、何になるかな~?」
「うんちー!」「うんこー!」
「もう!」「いやだぁー」「いっちゃだめだよ~」「きたないよー」
子供のリアクションは面白いと思いながら、生き物の間をめぐる、命の連鎖の話しを聞いていた。難しい話だし、なんとなくでも理解してくれればいいと思う。
命は消え去ってしまうのでなくて、形を変えて戻って来るのだと、思ってもらえる事を願いながら耳を傾けた。
お昼の後は、腐葉土を持って来た袋に集める。青銅のシャベルで掘り起こす役は年長さん、集めて袋詰めするのは年少さんと、役割分担しての共同作業。
腐葉土を何に使うのか、どう役に立つのかは、一緒に作業をしながら、子供たちに話して聞かせる。
「どじょうか、いりょう?」
「むずかしい言葉だよね。畑を良い状態にする、という意味だよ」
「はたけさん、わるい子なの?」
「うーん、そうだねぇ、食べ過ぎちゃって、お腹が痛いとか、ご飯が少なくて、お腹が空いているって思えばいいかな」
「いたい、いたいなの? びょうき?」
「大丈夫だよ。そのためのお薬が、いま集めている腐葉土なんだよ」
微量要素の不足とか、酸性土の話とか、子供に理解するのは難しい。腐植酸と団粒構造まで話が及べば、大人でも理解に時間が掛かる。
科学とは現象を理解する事。土地の状態が正常でない、それが原因で作物がちゃんと育たないと、子供は子供なりに理解する。
神さまの加護やら精霊の祝福で片付けて、現象を理解しない事が何より良くない。一つ一つの物事を、自分の理解出来る範囲で、自分の形で知識とすればいい。
持って来た袋が腐葉土で一杯になったところで、今日の遠足は終了を迎えた。
タヌーの本領はここで発揮される。ソリに乗せた腐葉土の袋を、子供と一緒にタヌーが引いてくれた。むしろタヌーだけでも引けたと思う。
見た目によらない怪力に、すごい、すごいねーと感嘆の声が挙がる。帰りも子供たちは元気一杯だった。
◇
拾ってきたブナの実は、タンニンが多いので食べすぎは注意。食育の題材に良いので、こんどお菓子を作ろうかな。
今日はドングリを使っておもちゃを作る。
前の世界で作った事のある、懐かしいおもちゃ、ドングリのヤジロベエを作って重心や梃子の原理を理解してもらおう。
竹串は無かったけど、細く削った木串を用意した。丸く曲がった籐の固いツルも用意して、ドングリに穴を開ける。
プリムラはコマを作って、さっそく回して見せていた。ドングリのコマが珍しいのか、大いに受けていて大満足の様子。
ヤジロベエは知られていないおもちゃで、作り方をじっと見ている。尖った方を下にして、左右に同じ長さの木串を挿す。
重さがそろったドングリをその先に付けて完成。作り方は簡単だけど、ヤジロベエが成立するには、いくつかのポイントがある。
指先に乗せて持ち上げて、左右にゆらゆら揺れながら、バランスを取って倒れないヤジロベエのおひろめをした。
「わー、すごい!」「落ちないね!」「たおれないの?」
リクエストに応えて、大きく揺らしても倒れないし落ちもしない。これにはみんな驚いて、さっそく作り始めた。
まずは説明無しで、みんなにも作ってもらう。孤児院の神官さんも、面白そうに一緒に作っていた。
アルフェルも初めて見るらしく、ドングリをじっくり選びながら作っている。
「あれぇ? たおれちゃうよー」
さすが男の子、ソッコー作って案の定失敗してる。手を水平に付けて、左右の長さも違っている。これではヤジロベエにならない。
大事な成立のポイントは、重心が支点より下になる事。左右の手を斜め下に向けて伸ばして、ドングリの尖った先、支点よりも下の位置に両手のドングリが来るようにする。
これが最大の難関であり、ポイントになる。見本通りに正確に作れば、この通りになるけど、成立する理由を知らないとポイントを外す。
ヤジロベエの形の意味と、どこに気を付けて作るか、重心とはどういう事かを説明しながら、もう一度作ってもらった。
失敗する事で理解はより深くなる。失敗しないために気を付ける、失敗してもやり直せる事を理解出来る。
先人の知識や方法に倣う事は、意味があるのだと分かって欲しい。
年長さんや大人に向けて、左右の手の長さを変えて、ドングリの大きさを変えてバランスを取った物を作る。
さらに曲がったツルを一本だけ挿して、支点の下に回り込ませたツルの先に一個のドングリでバランスを取る物も作った。
梃子の原理と重心について、さらに理解を深めてもらえるかな。
「あら、こちらの一個だけの物は、以前に王都で同じようなものを見ましたわ」
一人の神官さんが、気になる事を言った。
「ヤジロベエを売ってるお店があるんですか?」
「いえいえ、氏族さまのお屋敷でしたけど、ガラス細工のこれと同じような、鳥の人形を見た事がありますの」
ほほう、ガラスで作った、モビールみたいな物かな? 吊ってなければ振り子細工と呼ぶべきかも。
ガラス細工は見た事が無かったので、ガラスについて尋ねると、やっぱり珍しい物らしい。聞いた話ではリング・ロスの特産品だとか。
「リング・ロス、って、ケラッハ・ヴェールの国でしたっけ?」
「そうですねぇ、あちらから来る人は少ないので、どんな所かは良く分かりませんけど」
聖人の式典で見かけた、ダークエルフさんを思い出していた。リング・ロスか、どんな国で、何があるのかなぁ。
明日は孤児院の隣の畑に、森から集めた腐葉土を撒いて耕そう。春に向けて寒さに強い、アブラナの仲間をいくつか蒔いて育てるのもいい。
カブは来春かなぁ。ツケナとハナナあたりがいいか。近い種類はここにもあるから、冬の間少しずつ収穫して使える種類を蒔こう。
畑を耕す時には、腐葉土の働きと植物の三大栄養素、NPKの話もしてみようと思う。そこから動物の必須アミノ酸や、ミネラルの話も出来ればいい。
働きながら学ぶ事が、何よりの経験になるとボクは思う。
明日も良いお天気でありますように。




