眠り姫 (カラファリア)
声は、聞こえている。
心も、届いている。
私はここに確かに存在していて、けれど今の私を知る人はいない。
目を開くことは叶わず、言葉を発することは赦されない。
ただ世界を傍観するだけ。
流されるままに私はいる。
世界に未練など、ないつもりだった。
私には意思などなかった。
受け入れることも、抗うこともしない。
そこにいるだけの"人形"
私に価値があるのではない。
私の名前に価値があり、生まれ持った能力に価値があっただけだ。
だというのに。
今の私は、こんなにも世界を見つめたい。
こんなにも言葉を紡ぎたい。
こんなにも、人を愛したい。
声は聞こえている。心も届いている。
それでもただ、私は私の中で眠っているだけで。
こんな状態になってようやく、私はヒトになれたように思う。
眠りの中で、貴方を知った。
私の中に貴方はいて、貴方の中に私はいる。
もし私が目覚めたならば、私にこの眠りを与えてくれた私はどうなるのか。
もし私が目覚めたならば、私と眠りを共有する貴方も目覚めるのだろうか。
どれほど考えようが、目覚める手立てはないが、ただの夢物語にも必要性を感じることができるようになった。
私は世界から切り離され、眠り続けてヒトになったのだ。
だから私は、私を眠らせた私を恨みはしないし、この眠りを愛おしくさえ想う。
そしてもうしばらくは、この眠りに学ばせてもらおうと思う。
……こんな私を知ったら、由乃はどんな顔をするんだろうか。